リポート

地域に求められる地銀としての存在感 金融仲介から情報仲介
愛知銀行

2021年5月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

愛知銀行が、取引先地元企業の課題と大学との橋渡し役として、多岐にわたる産学連携を行っている。メガバンクやネット専業銀行との差別化、DX、人口減少、超低金利など経営環境が激変する銀行業界において、たった2人で実務を回す姿は頼もしいばかりだ。

■加速する地銀再編

人口減少や超低金利で地方銀行の経営は転換点を迎えている。フィンテック(Fin Tech)の台頭やデジタル化の過渡期を通り越し、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの経営環境の激変も拍車をかける。政府と日銀は、地銀に対し合併や経営統合を支援する政策を打ち出すなど、地銀再編の動きも活発化してきた。

FinTechは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結び付けた技術を指す。スマートフォンを使った送金手段は身近な事例で、伝統的な銀行振込より気軽で簡単な送金方法として定着しつつある。銀行を経由した決済には時間とコストがかかり、特に海外送金において、ビットコインは新たな金融市場の形成を促す。

新型コロナウイルス感染症の影響下では、伝統的な既存銀行よりインターネットバンキングやインターネット専業銀行を好むトレンドが加速。特に、インターネットが当たり前の時代に育ったデジタルネイティブと呼ばれる20代前半から30代後半のミレニアル世代で顕著だ。

彼らは、学生時代からスマートフォンを使いこなし、ゲームをはじめ、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にも積極的で生活の一部と化す。スマホのない生活は考えられない彼らによって地殻変動が起きている。

物理的な店舗を基盤として拡大してきた銀行だが、街中を歩けば銀行店舗の統廃合が進み、ATMだけの省スペースの無人店舗にしたり、来店を前提としたサービスや商品設計の見直し、資産運用の相談などコンサル業務に軸足を置く軽量化店舗が増えてきた。

銀行を利用する者からすれば、伝統的な銀行かネット専業銀行かは、自分にあった目的にふさわしい使い勝手であればそれに越したことはない。しかし、デジタルネイティブが人口の主流を成せば、さらに対面によるコミュニケーションは希薄になるかもしれない。

このように、経営環境が激変する銀行業界だが、DXへの移行を進めながらもネット専業銀行との差別化を進める際の優位性は、人との対面とリアル店舗といえる。顧客ニーズに寄り添うコンサル業務は、全てをオンラインだけで完結させるネット専業銀行との違いを打ち出せるかもしれない。

■顧客の課題を解決するため大学につなぐ

銀行が産学官金連携を進めてきた背景には、国立大学の法人化にともない、産学連携活動も同時に進展してきた時期と符合する。

直近の2020年度、愛知銀行は愛知大学と地元企業の課題解決プロジェクトを進めてきた。愛知銀行の顧客でもあるヤマサちくわ株式会社(愛知県豊橋市)を愛知大学との間で仲立ちし、創業200年の同社が次の創業250年を迎えるために、何をすべきかの課題に対して、調査・研究活動を通して立案した企画を学生が発表。新商品の開発や販路拡大についてアイデアを提案。新成人が成人の日に両親へちくわを贈り感謝の思いを伝える「若竹の輪」など、学生ならではの視点で考案された多彩な企画が提案されたという。若者がなぜちくわを食べなくなってきたのか、当事者である学生目線のアイデアには気づきが多いという。

また中京大学とはホンダカーズ東海をつなぎ、車の新たな販売手法を学生が提案するゼミに参加。「未来の自動車ディーラーを考える」をテーマに、学生目線のアイデアが提案され、優秀な企画には愛知銀行賞を贈った。

日本国内の大学で学ぶ留学生の中には卒業後、日本で働きたいと願う希望者もいる。一方、留学生の採用を希望する企業もあり、愛知銀行の取引先企業3社と大学をつなぎ連携プロジェクトの仲立ちを行った。

名古屋大学、名古屋工業大学などのベトナム人留学生をオンラインで結び企業と交流会を開催。12人の留学生が参加し、留学生を採用したいと考える企業と日本で就職を希望する学生をつなぐことで、両者の課題解決に一役買っている。

■地域に求められる銀行として

メガバンクとのすみ分けが明確化されつつある中、地域金融機関として、地域経済活性化をはじめ「まち・ひと・しごと」の各分野において、地域の地方創生に関する取り組みに貢献することは、対応しなくてはならない使命感があるという。

企業の成長や発展には、新しい技術の開発や新しい分野の開拓などが必要だ。その際に様々な技術的な問題が生じる。取引先の中小企業が、大学が保有する研究を活用することで自社の技術を発展させ大学との連携で技術的付加価値をつけたいと考える企業は多い。営業ツールの一つにすることで販促効果を狙ってのことだ。従って、大学が保有する研究を活用できないかと愛知銀行には相談が多く寄せられる。

愛知銀行は、その問題を解決するため、産学連携協定を締結している大学などへ取引先企業の橋渡しやマッチング活動を行う。このほか大学の研究シーズや技術シーズを、取引先企業へ紹介する橋渡しも行ってきた。反響も上々だった技術シーズマッチング会は、継続しようとした矢先に新型コロナウイルス感染症の拡大によって、延期せざるを得ない状態が続く。

ビジネスマッチングは、顧客の売上向上が目的で、顧客の課題解決に貢献するのが地方銀行の目的となる。

ただ、産学連携活動は、銀行にとって無償の活動ゆえに収益拡大には直結しないのでもどかしさはある。従って、部署を拡大していくことは難しいが、顧客からの問い合わせが多く、地域の銀行として地域から逃げるわけにはいかない。「銀行が持つツールはフル活用し臨みますし、直接的フィーよりイメージ戦略。産学官連携は、銀行にとってブランディングになる」と愛知銀行の坪井和之氏(法人営業部地域連携グループ グループリーダー)。

長らく銀行業務の稼ぎ頭だった、預金貸出の時代は終焉を迎え、ソリューションの種類の手数を持つことが求められ、仕事内容は多岐にわたるようになってきた。坪井氏は、自身の仕事を「金融仲介でなく情報仲介」と評する。さらに「もともとは取引先である中小企業の技術相談を大学の教授に橋渡しをする役割に注力してきました。主に理系分野での連携が多かったですが、近年は、文系大学との連携も増えてきました。新商品開発や販促、プロモーションなども含め学生ならではの、アイデアや発想を取り入れたい企業も多く企画を実施しています。産学連携に関わるようになって、文系の大学の先生方の意識の変化が感じられます。企業との交流によって経験を深めることで、就職する際の社会勉強になります。また先生方は学外の事業会社とのネットワークはそう多くありません。そこで銀行の持つ取引先(企業)とのネットワークは魅力があるのではないでしょうか。文系私立大学は、先生個人のネットワークややる気で産学連携を実践してこられました。私たちはその学部先生に照会していましたが、大学側にその窓口が徐々に整備されてきたので大学の意識も変わってきたように感じます。その結果、私立大学との連携も増えてきました。しかし、まだ組織化されていない大学もあるので、われわれがアプローチするにはどこに問い合わせたらいいのか分からない大学があるのも事実です。大学には敷居が高いと言われていますが、敷居を下げてもらい、われわれ銀行が持つ取引先の情報提供がしやすくなるといいのですが」と坪井氏は語った。

■愛知銀行産学連携データ

愛知銀行の産学連携協定締結先
その他の連携先
ベンチャー支援
  • 名古屋大学、岐阜大学、豊橋技術科学大学、名古屋工業大学、三重大学が有する技術シーズの事業化を目指す企業を対象に、名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー1号投資事業有限責任組合に出資
  • あいぎん未来創造ファンド
    2006(平成18)年~現在4号ファンドまで組成
大学発ベンチャー支援
  • 名古屋大学発ベンチャー
  • 名古屋工業大学発ベンチャー
  • 名古屋市立大学発ベンチャー
金融リテラシー活動

(山口 泰博)