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インド工科大学ハイデラバード校の産学連携

国立研究開発法人科学技術振興機構 インドリエゾンオフィサー 青木 一彦

2021年5月15日

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■はじめに

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は2015年10月にインドのデリーにリエゾンオフィスを開設し、JSTのインドとの科学技術協力の推進やインドの科学技術動向の情報収集などを行っています。本稿ではインドの大学とその産学連携の活動を紹介し、今後ますます重要なパートナーとなっていくインドについて少しでも関心を持っていただけましたら幸いです。

今回はJSTが支援する日本の大学/企業とインドの大学との国際共同研究プロジェクトのインド側研究代表機関であるインド工科大学ハイデラバード校(Indian Institute of Technology Hyderabad:IITH)の産学連携の活動事例について報告します。

IITHはJSTのSICORPプログラムで1件**1、SATREPSプログラムで1件**2のプロジェクトを実施中です。JSTのインドとの案件はまだ多くはないのですが、IITHは2件のプロジェクトを実施している大学として特筆できます。

■インド工科大学ハイデラバード校(IITH)について

IITHはインドの最高峰の大学・研究機関である23のIITの一つで、2008年に11番目のIITとしてインド南部テランガナ州の首都、ハイデラバードに設立されました。学部生は約1,100人、修士課程は約600人、博士課程は約900人で、約200人の専任教員で、人工知能、医療生体工学、バイオテクノロジー、化学工学、化学、気候変動、土木工学、コンピュータサイエンスとエンジニアリング、設計、電気工学、基礎工学、材料科学と冶金工学、数学、機械と航空宇宙工学、物理の学科があり、イノベーションを重視しています。IITHはIITの中で日本との協力窓口となっていると聞いており、そのキャンパスはハイデラバードの郊外で日本の円借款で建設中であり、独立行政法人国際協力機構(JICA)の人材育成事業や独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)の事業も行われています。

JSTが支援している2件のプロジェクトは今後、研究成果の社会実装や日印研究拠点となっていくことが期待されています。本稿ではIITHの産学連携のプログラムについて幾つか紹介します**3

円借款で建設が進むIITHのキャンパス
JST支援プロジェクトのワークショップ

■IITHの産学連携プログラムの事例1:Rural Development Centre(RDC)

インドのナレンドラ・モディ首相は「国を作るのであれば村から作るべきだ」と語ったとのことです。インドでの農業の比重は高く、2021年4月以降に8年ぶりに発表される予定のインド政府の新たな科学技術政策でも農業の重要性が引き続き挙げられています。RDCはIITHで開発される技術を通じてインド政府の農村開発イニシアチブを支援するビジョンを持って2020年7月に設立されました。RDCの目的は次のとおりです。

  • 農村との交流を通じて、また、農村に関与するNGO等と協力して農村の問題とニーズを特定する。
  • IITHが採用した村で行われる協力活動を通じて大学のチームが周囲の村で行う活動を支援する。
  • 農村地域の農業・衛生・飲料水などの分野で使用される技術を開発する教職員や学生を支援する。
  • 農村セクターの発展に貢献することに関心のある機関や産業と協力する。
  • 農村の人々を教育するための技能開発に関するトレーニングやワークショップを開催する。
  • 衛生と清潔さの重要性について農村部の人々に啓蒙活動を行う。
  • 社会問題の解決策の提供に取り組むための学術的枠組みを開発する。
  • 学生を巻き込んで社会の福祉のために働くことを動機づける。

このRDCに関連して、IITHは、Unnat Bharat Abhiyan(高度なインドのキャンペーン)というプログラムを持ち、大学によって包摂的なインドの構造構築を支援することにより、農村開発プロセスの変革を目指しています。具体的には高等教育機関と地域コミュニティをつなぐ参加型プロセスと持続可能な成長を加速するための適切な技術を通じてインド農村部の開発課題に取り組んでいます。また、大学の新たな研究者に対して関連する知識と実践を提供することにより、社会と包摂的な大学システムの間に好循環を生み出し、公的部門と民間部門の両方の能力を向上させることを目指しています。

以上のプログラムからはインドの大学が果たす役割の大きさが読み取れると思います。JSTが支援しているIITHとのプロジェクトの一つは農業×ITの分野であり、その研究成果や将来の日印研究拠点としての活動がRDCと結びつけば良いと思います。

■IITHの産学連携プログラムの事例2:Fabless Chip Design Incubator(FabCI)

FabCIは、電子情報技術省(MEITY)の支援を受けてIITHで実施されているプログラムで、チップ設計の分野でのあらゆるスタートアップのためのエコシステムの構築に焦点を当てています。このインキュベータープログラムの主な目的は、チップ設計の分野に焦点を当てた新興企業にワンストップソリューションを提供することです。FabCIではインキュベーションに関連するインフラハードウェアとソフトウェアを提供します。この分野のパイオニアであるメンターのビジョンはインドが持つ設計の専門知識を活用してインドの知財を生んで国際的なチップ設計を行うことです。JSTが支援しているIITの別の大学とのプロジェクトではこの分野が関係していますが、IITHのこのような仕組みは別のIITにもあるのではないかと思います。

■IITHの産学連携プログラムの事例3:Center for Healthcare Entrepreneurship(CFHE)

CFHEは2人のIITボンベイ(IITB)卒業生によって後援されています。同センターの目的は、インドの医療ニーズに対応する的確なソリューションを実現するために医療イノベーションを促進することです。センターは、商業化できる費用対効果の高いソリューションを提供する起業家を育成することを目的としています。

インキュベーターは、6,000平方フィートの施設でデバイスのプロトタイピング用の設計施設や3D製造施設を提供して、フェローやスタートアップの加速プラットフォームとして機能しています。また、月5万ルピー(約8万円)の奨学金で1年間のフェローシップを提供し、トレーニングを行ってローカルやグローバルのメンター、中小企業、ベンチャーキャピタルパートナーを通じてヘルスケアのニーズを継続的に収集します。このプログラムから生まれたスタートアップのNemoCareとBeAbleは、いくつかのピッチ賞を受賞し、マイクロソフト元会長のビル・ゲイツ氏と妻のメリンダ氏によって2000年に創設された慈善基金団体のビル&メリンダ・ゲイツ財団などから資金を確保したとのことです。CFHEは今後、COVID-19への対応でも実績を出すのではないかと思います。

■おわりに

インドの大学は研究成果の実用化や地域社会への貢献に熱意を持っており、スタートアップも活発であることを理解いただけたら幸いです。JSTがインドと推進しているプロジェクトの社会実装等に関心のある方はJSTインドリエゾンオフィスのホームページをご覧ください**4

参考文献

**1:
JSTが支援しているIITHと日本の大学との国際協力科学技術プロジェクト ウェブサイト:国際共同研究拠点| SICORP
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**2:
マルチモーダル地域交通状況のセンシング、ネットワーキングとビッグデータ解析に基づくエネルギー低炭素社会実現を目指した新興国におけるスマートシティの構築
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**3:
IITH ウエブサイト:Centres and Incubators | IIT Hyderabad RnD
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**4:
JST インド ウエブサイト:JST - Japan Science and Technology Agency India Liaison Office
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