特集海外

米国有数の産学連携拠点North Carolina州Research Triangle Parkのポテンシャル

名古屋大学 総長補佐 
Technology Partnership of Nagoya University, Inc.(NU Tech)Executive Director 神山 知久

2021年5月15日

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米国North Carolina州のResearch Triangle Park(RTP)は、現在では250社以上の研究施設などを擁する米国有数の産学連携・研究拠点となっている。日本での知名度は現時点では一般的に低い状況ではあるが、RTPは全米の他の産学連携・研究拠点と比べても、各種ランキングにおいて、圧倒的にビジネスフレンドリーであり、Quality of Lifeが高いと評価されているという一面もある。ここでは、RTPを米国の他地域、特に圧倒的な存在感を誇るBoston Route128地域やSilicon Valley/Bay Areaと比べその特徴を整理するとともに、日本からはあまり注目されてないこの地域、RTPのポテンシャルについて簡単に触れてみたい。

■Research Triangle Parkとは

米国独立時の13州の一つであるNorth Carolina(NC)州は、歴史的にその経済活動の基本は事実上、「たばこ」、「繊維」、「家具」の三つの産業に集約され、州民一人当たりの収入は1952年には全米50州で48位と大きく低迷していた。また、州都Raleigh近郊には全米でも有数の研究大学が三つ(Duke University、University of North Carolina Chapel Hill、NC State University)も集積しているにもかかわらず、その卒業生は地元に適切な就職場所がなく、卒業後、他州への引越しを余儀なくされるなど、いわゆる他州への「Brain Drain」が起きている状況であった。このため1950年半ばに当時の知事が中心となり、R&D Companyを誘致するための「器」作りについて議論を開始し、1959年に正式にRTPが設立された。すなわち、RTPは米国の他地域の集積のような自然発生ではなく、州政府の主導により設立され、州政府の支援を受け大きく発展してきた点が他地域と異なる。いわば、限られた資源しかない地域に「人工的」に外部からの研究所を誘致し、数十年の時間をかけ根気よくRTPを形成してきたと言える。

ⓒGoogleマップ

現在のRTPは、南北13km、東西3.2kmの広大な敷地(2,833ha)に研究所などがゆったりと離れて存在し、木々の緑に囲まれ、道路からは企業のサインしか見えない場合が多い。いわゆる日本の「工場団地」とは全く異質なものとなっている。National Institutes of Health関連研究所、Environmental Protection Agency関連研究所、IBM研究所など、多くの研究拠点の他、特にAgBiotech企業の集積も大きく、SyngentaやBASFといった世界的な化学・植物企業の北米中央研究所も設置されている。結果として、RTPは企業数250社以上、雇用者数5万人以上、までに成長し、現在では全米で最大のResearch Park、そして米国有数のバイオテククラスターとも言われるまでに成長した。

■米国の他の産学連携・研究拠点との比較

日本でも知名度が高く実績のあるエリアとしてMassachusetts州Boston Route 128エリアやCalifornia州Silicon Valley/Bay Areaが挙げられる。現在のRTPをこれらの両地域と単純にVC(ベンチャーキャピタル)投資額、Startup(スタートアップ)数、経済規模などで比較するとかなり見劣りする感は否めない。ただし、ここではRTPの将来のポテンシャルを示す二つの指標について述べてみたい。

①優れた研究大学の存在

両地域がHarvard、MIT、Stanfordといった知の創造拠点である大学を中心に形成されてきたのと同様、RTPもDuke、UNC Chapel Hill、NC State大を中心に形成されてきた。これらの研究大学の年間研究費総額およびその全米ランキングを比較すると下記の通り(表1)。Innovationをもたらす源泉となる研究費総額では、RTPの大学は両地域と比べ遜色はない。特にUNC Chapel HillおよびDukeでは医学・生命科学の研究が充実しており、NC State大では工学・農学の分野において全米トップレベルの研究に定評がある。しかも、これらの3大学が米国では珍しく、極めて物理的に近接している(車で20-30分)という特徴もある。

表 1 各地域を代表する大学の年間研究費総額およびそのランキング
表1
②優れたビジネス環境

米国の企業人・大学人などに産学連携やスタートアップエコシステムにつき意見を聞くと、SV(Silicon Valley)については、引き続き、米国のスタートアップエコシステムの中心的な存在であり続けると指摘するものがほぼ全員であるが、同時に多くがその限界にも言及し、その他の地域へのSpill overを指摘する場合が多い。こうした意見の多くを代弁しているのが、若干古いが、Silicon Valleyの評価、動向について、The Economist 2018年9月1-7日号にて特集された「Peak Valley」という特集記事である。同誌の基本的な論調は、Silicon Valleyの絶対的な優位性はほぼそのピークに達しており、今後は、緩やかに米国内の他地域や中国などの諸外国にその地位を奪われていくというもの。これを同誌ではPeak ValleyやSilicon Plateau(成長曲線が台地の形状)と揶揄(やゆ)している。これが的を射ているものかどうなのかは、筆者は実際にSV/Bay Areaに住んでいるわけではないため、皮膚感覚では分からないが、今後、徐々にSV/Bay AreaやBostonの求心力・優位性が薄れていき、米国内の他の産学連携拠点に人・カネ・技術が移っていくことを想定することは自然ではないだろうか。ましてや、COVID-19によりオンラインでの面談、勤務が米国でもさらに普及してきている現在、こうした動きが加速する可能性すらも考えられるのではないか。

RTPのあるNC州はCA(California)州、MA(Massachusetts)州と比べそのビジネス環境に対する評価はかなり高いものとなっている。それぞれのビジネス環境につき、Forbsなどの各種調査機関による評価をまとめると下記の通り(表2)。これらは、当該地域に存在するマーケットの規模のデマンドサイドには触れられておらず、ビジネスを実施するサプライサイド側のみの評価ではあるものの、ビジネスのベースを設置する州として、NCの優位性は各指標から読み取ることができる。特にCorporate Income Tax Rateは2.5%となっており、8%を上回るCAやMAを大きく引き離している。こうしたデータからもSV/Bay AreaやBostonからのSpill Over先の有力な候補の一つとして、NC州のRTPを挙げることが可能と考えられる。

表2 NC州、CA州、MA州の各種ビジネス環境のランキング
表2

■RTPの将来的なポテンシャル

以上、Innovationを生み出すRTPの大学やNCのビジネス環境につき言及してきたが、RTPが、引き続き、バイオテクや産学連携・研究拠点として、その存在力をさらに高めていく可能性は大きいと考えられる。例えば、RTPではCOVID-19の中にあっても大きな「HUB RTP」プロジェクトが進行しており、研究所だけではなく、RTP内に住居を設置し家族が住める一体的な施設・地区を建設中である。また、他地域からRTPへの研究所などの移設の発表も後を絶たない。COVID-19の影響が今後どうなるかは不明ではあるが、「密」を避ける者が増加し、物理的にSV/Bay AreaやBostonにいなければならない理由は徐々に薄れていくかもしれない。他方で、NC州では州政府、RTP運営主体、商務省を民営化したEconomic Development Partnership of NCがさらにビジネス環境の改善に日々努力し、かつ、州政府が高等教育の重要性を十分に認識しその投資を惜しまない(州政府による大学への拠出額はNC州は全米で第6位)。RTPがBostonやSV/Bay Areaから撤退・移設する企業や新たなStartupの魅力的な受け皿にますますなっていくことも十分現実味があると考えられる。

NU Tech がRTPにて毎年主催しているTechnology Roundtable(技術発表会)。2010~2019年まで物理的に開催。2020年(第11回)は初めてオンラインにて開催。2021年は5月にオンラインで第12回をMartial Informaticsに焦点を当て開催予定。

名古屋大学はRTPの可能性に早くから目をつけ、米国事務所を設置する日本の大学の多くがSVやSan Franciscoを選ぶ中、NC州と歴史的なご縁もあり、2007年にRTPに現地法人のTechnology Partnership of Nagoya University, Inc.(NU Tech)を設立した。また、他の日本の大学では主に学生交流に重点を置き、その米国事務所が活動しているところであるが、名古屋大学米国事務所では、設立以来、産学連携をその中心目的とし、米国企業や米国大学との連携に力を入れてきたところである。例えば、2010年以降、毎年、RTPにて技術発表会を開催し、これは地元では定着してイベントとなってきており、数千ドル程度ではあるものの、毎回、スポンサーまで付くイベントとなっている。そして、RTPの企業などへの技術のライセンスも複数実現している。また、NU Techを拠点として、RTP3大学は言うまでもなく、米国の他大学、例えば、名古屋大学の強みを生かしつつ、当該分野では全米でトップレベルである大学、例えば、Virginia Tech Transportation Instituteと自動運転技術・運転データ分野で、Ohio State大Translational Data Analytics Institute とData Analyticの分野で、University of Minnesota Medical Device CenterとMedical Deviceの分野での共同研究、グラントの共同申請やその他の連携を推進してきているところである。

日本ではRTPの名前を聞いたことがある人はまだまだ少ないとは思われるが、今後、大きな成長のポテンシャルを秘めたNC州のRTPに関心を持ってくれる人々が少しでも増えていくことを期待したい。もし、RTPに関する情報などが必要であれば、10年以上にわたり蓄積してきた地元のネットワークがある名古屋大学米国事務所がお力になれる余地があるかもしれない。国立大学法人東海国立大学機構の米国組織として、名古屋大学・岐阜大学のために努力することは言うまでもなく、もし可能であれば、両大学の枠に留まることなく、事務所としては微力ではあるが、日本の企業・大学の方々の米国での産学連携等に少しでも貢献できれば幸いである。