特集2工学系私大で産学連携が活性化

低価格で機能的な電動義手Finchで義手ユーザーに新たな選択肢を

大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部 ロボット工学科 准教授 吉川 雅博

写真:大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部 ロボット工学科 准教授 吉川 雅博

2021年4月15日

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義手は欠損した手の機能を代替する人工の手である。これまでにも様々な義手が開発されてきたが、私たちが開発した電動義手Finchは優れた機能を低価格で実現し、義手ユーザーに新たな選択肢を提供する。本稿では、Finch開発の背景となる既存義手の課題、Finchの特長と使用事例、Finchの今後について紹介したい。

既存義手の課題

欠損した手の外観や機能を代替する義手には大きく分けて、装飾義手、能動義手、筋電義手の3種類がある。装飾義手は、手に酷似した外観のシリコングローブを、可動しないウレタン骨格に被せた義手である。失った手の外観を補完するための義手であり、物体を把持する機能を持たないが、3種類の義手の中では最も安価に入手できる。

ユーザーの意思で指を開閉して物体を把持できるのは、能動義手と筋電義手である。能動義手は体幹に装着したハーネスの動きによりケーブルを牽引してフック状の手先を操作する義手であり、装飾義手の次に価格が安く作業に適している。一方で、ハーネス着脱の手間や装着時の拘束感、フック状の手先の外観などに課題がある。筋電義手は5指の外観を持ち、筋を動かす際に生じる電気的な生体信号である筋電を用いて自然に操作できる。しかし、能動義手ほど作業性は良くなく、800g以上の重量や150万円以上の価格が課題である。

能動義手や筋電義手は利便性が高いが、上記に挙げた課題により選択肢から外れることが多く、多くの欠損者は外観や価格面でメリットのある把持機能のない装飾義手を使用している。また、いずれの義手も装着するためには欠損した腕(以下、断端)を挿入するソケットが必要となるが、これまでのソケットはユーザーの断端を採型して手作りする一点物であり、時間とコストがかかるため、容易に入手できない課題もあった。

写真 図1 電動義手Finchの構成
図1 電動義手Finchの構成

Finchの特長

このような背景のもと、私たちの研究グループとダイヤ工業株式会社は、軽量・低価格で作業性、操作性、装着性に優れた電動義手Finchを2016年にリリースした。Finchの開発においては、義手の道具としての機能性を追求し、前述した既存義手の抱える課題の解決にチャレンジしている。

Finchの特長は、図1に示す3指ハンド、筋隆起センサ、サポータソケットである。Finchは従来の5指の筋電義手とは異なり、対向配置された3指により様々な姿勢でも物体を安定して把持できる。指先のシリコンキャップとばねの働きにより、ペットボトルのような太い対象から紙のような薄い対象まで、様々な形状の日用品に指先がなじむ。図2のように卵も割らずに把持できる。

写真 図2 Finchによる卵の把持
図2 Finchによる卵の把持

Finchの操作は、図3に示す筋隆起センサを用いた独自の操作システムにより行う。筋隆起センサは、赤外線を用いた距離センサを応用したセンサである。残存する前腕に力を入れると筋が収縮し前腕の表面が隆起するが、筋隆起センサはユーザーの意図による筋隆起を検出できるため、ユーザーは筋隆起の度合いに応じて指の開閉を操作できる。筋電義手に用いられる筋電センサに対する筋隆起センサのメリットは、筋隆起と操作する指の関係を理解しやすいこと、布を介してもユーザーの意図を検出できること、汗の影響がないこと、価格が安いことである。

Finchは、サポータソケットと呼ばれる独自のソケットシステムを採用している。樹脂のソケットフレームを5サイズから選び、これに被せて使用する布製サポータのベルトで締め付けることで、義手を装着できる。ソケットフレームは橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)を挟み込むような構造になっており、外側のスリットで一定のサイズ調整が可能である。サポータの内張りは適度な摩擦のある特殊素材になっており、断端の抜け落ちを防ぐ。義肢装具士が採型して作る通常のソケットに比べると適合や懸垂力は劣るものの、断端には柔らかいサポータが接触するため、装着感は快適である。また、断端をソケット内に密閉せず、サポータは洗濯できるので衛生的である。

写真 図3 筋隆起センサの仕組み
図3 筋隆起センサの仕組み

Finchの製造には3Dプリンターをフル活用し、軽量化と低コスト化を図っている。3Dプリンターによりモジュールを一体造形し、要求機能を満たす機構部品や電子部品を厳選することで、総重量330gと軽量となっている。これは従来の筋電義手の3分の1である。義手のようにユーザー数の少ない福祉機器は、金型による樹脂成形品では初期コストがかかり過ぎて採算が合わず製品化に至らない場合が多いが、3Dプリンターであれば1台からでも製造可能である。最も安い筋電義手の10分の1の価格を目指して開発を行い、15万円の販売価格を実現している。海外製の義手では海外メーカーから部品を取り寄せる必要もあり修理に時間がかかることもあるが、Finchは部品をモジュール化することで故障時の部品交換も容易になっている。

Finchの使用事例

Finchはすでに装飾義手を持っているユーザーの2台目の義手として使用されている事例が多い。普段は装飾義手を用い、両手で効率良く作業をしたい場合にさっと装着して使用する、まさに道具としての義手の使い方である。書類の整理、カメラによる撮影、料理、機械の整備、工作など様々な用途に用いられている。既存の義手を入手することが困難な方の最初の義手としても使用されている。また、価格が安いことから病院での義手の見本や、義肢装具士の養成校での教育用途にも利用されている。

Finchの今後

Finchは当初成人用としてリリースしたが、先天性形成不全児の保護者や関係する医療機関からの問い合わせが多かったため、小児用にさらに小型・軽量化したFinchの開発を行い、現在販売を検討している。また、脳卒中や神経疾患で手の不自由な方に対して、Finchのハンド部分のみを手に装着して、第3の手としての利用も提案している。

眼鏡のように義手ユーザー自らが義手を自由に選択できる世界の実現を目指して、私たちは自由な発想で様々なバリエーションの義手をリリースしていく予定である。