特集2工学系私大で産学連携が活性化

北海道の地域性に根ざした産学官連携

北海道科学大学 研究推進・地域連携センター長/教授 丁野 純男

写真:北海道科学大学 研究推進・地域連携センター長/教授 丁野 純男

2021年4月15日

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北海道科学大学は、1967年に開学した旧・北海道工業大学が前身であり、2014年に工学部、保健医療学部および未来デザイン学部を擁して、現在の大学名称となった。2018年には、系列校の北海道薬科大学と統合して、4学部13学科からなる医・薬・工を学術基盤とする学生数4,000人超の中規模総合大学となり、2024年の学校法人創立100周年には「北海道No.1の実学系総合大学」を実現することを目標にしている。
産学官連携は、大学の3使命「研究」「教育」「社会貢献」のうち、一般的には「研究」に位置付けられるものであろう。本学においても、産学官連携は「研究」の位置付けであるのはもちろんであるが、加えて、北海道の人々に対する「社会貢献」の一環として、また学生の潜在力を引き出す「教育」ツールとしても産学官連携を強く意識している。

本学の産学官連携の概要

本学には、異分野融合型の五つの研究所(表1)があり、産学官連携はこれらの研究所が主体的・組織的に担っている。各研究所の設立目的・方向性は様々であるが、いずれの研究所においても、医・薬・工のそれぞれの強みを生かし、研究者同士の相互リスペクトにより連携した学際的・学融合的研究を広く展開している。本学が目指す先には、「北海道No.1の実学系総合大学」があるが、実学を支えるのはやはり基礎研究であるため、各研究所は、学術的「基礎研究」と産学官連携の「実学研究」の双方に軸足を置いて研究活動を行っている。産学官連携先としては、一般企業の他に、自治体、教育研究機関、公的研究機関、一般社団法人、医療施設などの連携協定締結先がある(表2)。

本学は、北海道に立地するため、北海道の地域性に根ざした産学官連携研究を展開することには強い思い入れがある。産学官連携を通じ、北海道の人々と本学との間で「地域共育力」(本学ブランドビジョン)を醸成し、研究はもちろん、地域社会と教育に対しても貢献を果たして参りたい。

表1 研究所とその概要
表1
表2  連携協定締結先
表2

研究所が取り組んでいる産学官連携研究**1

上記の研究所が企業や連携協定締結先と協働して取り組んでいる産学官連携研究の概要を以下に示す。

①寒地型疾病や障害を伴う在宅生活を維持するためのサポートシステムの開発

寒地未来生活環境研究所(IF)の研究テーマである。超高齢社会を迎えている日本において、健康寿命を延ばすことは個人の生活を豊かなものにする点のみならず、社会システム上も重要な課題となっている。この研究では、高齢者を対象とした健康支援の一環として、本学が開催している高齢者向け公開講座において収集した運動機能情報、身体計測情報、各種アンケートなどを収集・蓄積・分析し、活用するためのデータ管理システムの開発を行っている(図1A)。

図1
図1 産学官連携研究の概要
②積雪寒冷地環境下における装具材料の性質評価

寒地先端材料研究所(LAM)の研究テーマである。積雪寒冷地では、雪や凍結によってプラスチック製短下肢装具使用者の活動圏は縮小されてしまうことがある。この研究では、装具使用者の安全確保および活動圏拡大のため、装具の主材料となる高分子化合物(ポリプロピレン)の機械的性質の評価・改善を行うことで、積雪寒冷地で生活する装具使用者の安全確保、活動圏の拡大、医師の装具処方および交換判断の情報としての活用を目指している(図1B)。

③地域課題の解決をともに目指す道内自治体と本学の協働

北方地域社会研究所(RINC)の研究テーマである。道内自治体と協働し、遠隔システムを用いたモノづくり講座の実施や、地域活性化の取り組みに関するセミナーの開催、本学学生と住民との交流の場を設けるなど、地域連携の促進に向けた諸研究活動を展開している。一例として、「地域が抱える課題の共有と解決」を目的とするセミナーでは、道内の各自治体からパネリストを招き、地域の現場での経験に基づくディスカッションを継続して行っている(図1C)。

④積雪寒冷地の高齢者・在宅患者を対象とした遠隔ヘルス・リハビリテーションシステムの開発

北の高齢社会アクティブライフ研究所(LAAN)の研究テーマである。積雪寒冷地では、冬季の屋外活動が制限されるため、高齢者や障がい者に対する、在宅での健康維持およびリハビリテーション支援が求められている。この研究では、自宅にいながら通院・訪問サービスと同質のヘルストレーニング・リハビリテーションが受けられるよう、ICTおよびMR技術を用いて、自宅環境においても質の高いトレーニングが可能となる遠隔ヘルス・リハビリテーションシステムの開発を目指している(図1D)。

⑤北海道の農林業・健康医療の発展に資するライフサイエンス研究

北の大地ライフサイエンス創生研究所(CRILS)の研究テーマである。この研究では、北方系野菜である赤ビーツ(図1E-1)およびアイヌ民族が伝承してきたキハダという樹木の果実(図1E-2)に着目し、これらを食することで健康にどのような影響があるかを種々検討しており、農林業の発展とヒトの健康福祉の向上に寄与すべく研究を進めている。また、ドクターヘリが出動する、北海道の冬季屋外救命医療(自動車衝突事故や山岳遭難など)にて起こることがある「輸液の凍結」を防ぎ、救命率を向上させるため、輸液温度の低下因子を明らかにし、凍結防止策の構築を目指している(図1E-3)。

産学官連携を促進するための取り組み

上述のように、本学の産学官連携研究のほとんどは研究所が担っている。産学官連携の促進とその裾野を広げるため、本年度には、学内研究助成として「特別奨励研究費(産学官連携研究促進型)」を1件あたり3年間総額1,000万円の上限で導入し、産学官連携研究の門戸を研究所だけでなく全研究者に対して拡幅した。その結果、研究所以外からも応募があり、採択に至った優れた研究提案も見受けられた。今後もこの助成を継続し、全学レベルで産学官連携を推し進めていきたい。

札幌商工会議所、北海道経済連合会、公益財団法人北海道科学技術総合振興センターおよび北海道ニュービジネス協議会の主催事業として、道内大学生のビジネスアイデアによる北海道の活性化を目的とした「ものづくり製品化&起業化支援事業」がある。本学では、この事業が立ち上がった2018年度から機械工学科の教授の指導の下で、学生グループが毎年エントリーしており、冒頭でも述べたように、学生の潜在力を引き出す「教育」ツールとしても産学官連携の必要性を強く感じている。本年度は、「人類滅亡の危機を回避するためのインフレータブル素材の検討」というテーマでエントリーした。このテーマに興味ある企業や金融機関が名乗りを上げ、面談にて交渉がまとまれば、資金提供、企業への採用、創業融資などが受けられる。将来ある学生が飛躍するチャンスでもあり、今後も学生の積極的なエントリーを支援していきたい。

今後の展望

2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、特にフィールドワーク系の産学官連携は、当初の計画通りには進まなかったようである。その一方で、オンラインが大いに進展し、その有効な活用法を知ることができた1年でもあった。今後の産学官連携の在り方を考える一助となったことは、大きな収穫であったと考えてよいだろう。

産学官連携は、一朝一夕に結果が出るものではないため、施設設備や助成制度の拡充、大学の認知度向上プロジェクト、知的財産化の推進などを地道に進めていくことになる。最近では、どこの大学においても、研究者に産学官連携への参画を求めているようであるが、教育や校務に忙殺され、研究も覚束(おぼつか)ない中で、余裕をもって産学官連携に打ち込める状況にはないようである。

幸いにも本学は、北海道という地域性に目を付けて需要を発掘し、その需要に対応できる研究者がいるため、決して満足とは言えないまでも本学なりの産学官連携ができているのではないだろうか。本学の産学官連携にさらなる展望をもたらすには、研究推進・地域連携センター長である筆者自身が率先して産学官連携研究に取り組んで成果を創出することはもちろん、本学の研究者が産学官連携に参画しやすい環境を一刻も早く整備することが筆者に求められているのは言うまでもない。

参考文献

**1:
北海道科学大学「産学官連携のご案内」冊子
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