特集1地域発コンソーシアム

やまなし水素・燃料電池バレーの創出に向けた山梨県の産学官連携

山梨県 産業労働部 成長産業推進課 山寺 勲

2021年4月15日

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「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と、菅義偉首相は2020年10月26日の所信表明演説のなかで宣言した。脱炭素化に向けては、特にエネルギーの分野が注目されているが、その中でも期待が大きいエネルギーが「水素」であり、脱炭素社会の切り札とも言われている。水素は、中学校の理科の授業で習うので多くの人に知られているが、エネルギーとしての利用については、あまり知られていない。今でこそ脱炭素化の流れのなかでよく聞くようになってきたが、ここ山梨県では、山梨大学において40年以上も前から水素をエネルギー源として使う燃料電池の研究開発が行われてきた。

水素・燃料電池関連の研究拠点が集積

山梨県における水素・燃料電池の最大の特徴は、山梨大学をはじめとした研究拠点が集積し、水素の製造から利用まで、フルラインアップで揃っていることである。国家プロジェクトなどにより燃料電池に関する研究を進めてきた世界トップレベルの研究拠点である山梨大学クリーンエネルギー研究センターおよび、燃料電池ナノ材料研究センターが存在するほか、山梨県産業技術センター燃料電池評価室、一般社団法人⽔素供給利用技術協会(HySUT)水素技術センターなど、研究開発拠点の集積が進んでいる。さらに2022年度中に技術研究組合FC-Cubicの移転も決定している。これらは、水素・燃料電池の普及の鍵となる性能向上や低コスト化などに資する技術シーズの創出や材料・製品の評価・実証など、企業における事業展開の基礎となるべき技術開発などに大きく寄与する拠点である。このほか、山梨県甲府市の米倉山にある米倉山電力貯蔵技術研究サイトにおいて、太陽光発電による電⼒により水素を製造し、貯蔵・利用するPower-to-Gas(P2G)システムの実証研究を、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受け、山梨県企業局が進めている。このシステムは、長期間の貯蔵や輸送が可能な水素の特性を生かし、天候の変化によって変動する再生可能エネルギーの発電量の安定化に資する技術の一つとして期待されており、間もなくこの米倉山で製造された水素が、電力や熱として県内の工場や商業施設で利用される。このように山梨県では、水素の製造から利用まで一気通貫した取り組みが行われている。

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燃料電池ナノ材料研究センター
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米倉山電力貯蔵技術研究サイト

産学官連携

2015年に山梨大学、やまなし産業支援機構、県の関係部局で構成される「やまなし⽔素・燃料電池ネットワーク協議会」を設立し、産学官連携して⽔素・燃料電池関連産業の集積・育成に向けた取り組みを進めている。⼭梨⼤学の技術シーズを活⽤した⽔素・燃料電池関連製品の開発・事業化を促すための技術移転や、蓄積されたノウハウを活用した技術支援・人材育成、さらには水素・燃料電池関連メーカーとのネットワーク構築など、県内企業の産業参入推進の中核を担っている。

県内産業のポテンシャル

水素・燃料電池関連分野への参入においては、燃料電池への水素や空気の供給、排水の制御など高度な制御技術、また、多様なノウハウを含む高度な製造技術が求められる。燃料電池のシステムには、本県製造業の主要製品の一つである電子部品・デバイス・電子回路が部品として用いられているほか、金属・樹脂部品に求められる精密微細加工技術などを持つ企業も多く、これらの技術力は、水素・燃料電池関連産業への参入を可能とし、すでに参入を果たしている企業も存在している。また、山梨大学と県との産学官連携により、参入への取り組みを開始した企業もある。

FCyFINEの取り組み

山梨大学と山梨県は、文部科学省事業である「地域イノベーションエコシステム形成プログラム*1」の採択を受け、県内企業と共同で水素・燃料電池の製品開発を行っている。このプロジェクトをFCyFINE*2と称し、山梨大学が長年培ってきた燃料電池技術の強みをさらに発展させ、新たな燃料電池やシステムを創出し、電源システムおよび燃料電池自動車などのアプリケーションへの展開を図ることを目的として取り組んでいる。主に三つの事業化プロジェクトに取り組んでおり、①電源用燃料電池システム事業、②GDL一体型金属セパレータ供給事業、③触媒層付き電解質膜製造装置事業について、山梨県内に本社を置く企業と共同開発し、実用化を目指している。地域の大学の強みと企業の開発技術、チャレンジ精神が結びついた取り組みである。

FCyFINE 事業化プロジェクト概要

水素・燃料電池関連産業の育成支援

研究拠点の集積に伴い、専門人材も山梨県には集まっている。この貴重な人材が持つ水素・燃料電池関連製品の知識・技能を産業展開し、県内の水素・燃料電池関連産業を下支えする人材を育成するため、山梨大学と連携し、「水素・燃料電池産業技術人材養成講座」を開設している。山梨大学の教授陣のほか、大手民間企業で水素・燃料電池産業の第一線で活躍した技術者を講師に迎え、水素・燃料電池関連産業分野への参入を目指す県内企業の人材育成を推進している。2020年度で開設5年目となり、99人の受講者が山梨県内の企業で活躍しており、リピーター企業も多い。また、受講者同士の繋(つな)がりもでき、企業間の交流も生まれているほか、水素・燃料電池産業への参入を目指す企業にとって、国内トップレベルの講師陣との関係構築ができる点も大きなメリットである。さらに県では、企業の技術開発やビジネスマッチングを支援するため、水素・燃料電池の専門家「水素・燃料電池関連分野支援プロデューサー*3」を設置している。県内の企業へ無償で派遣し、個々の企業ニーズに対応する。

このように山梨県では、大学や専門家と連携し、きめ細かな支援策を展開することで企業が産業へ参入しやすい環境を用意している。

やまなしHFCクラスターの設立

2020年度から水素・燃料電池関連の企業団として「やまなしHFC(水素・燃料電池)クラスター」を設立し、県内企業の技術力を束ね、国内外への産業展開を推進している。県内企業のほか、山梨大学、やまなし産業支援機構、水素・燃料電池関連分野支援プロデューサーも参画している。山梨県に集まる専門人材が有する水素・燃料電池に関する最新情報の提供や参加者が自由に意見交換できる情報交換会の開催、県内企業から大手企業へ技術提案を行いマッチングへ繋げる技術提案会の実施、ジェトロ山梨と連携して海外の産業クラスターとのビジネスマッチングなどを実施している。

登録企業は、金属製品製造業が中心であるが、燃料電池の部品そのものに関わる企業だけでなく、燃料電池を搭載する機器を製作する企業やその機器を使う企業、水素製造やシステム構築に関わる企業など、幅広いプレーヤー企業が登録している。2021年度からは水素・燃料電池関連分野支援プロデューサー監修の下、やまなしHFCクラスター内にコンソーシアムを設置し、登録企業と連携して新たな試みを行う予定である。

また、水素・燃料電池に関するセミナーも開催しており、大企業の技術者による企業の取り組みや製品説明などの講演、同じく国内で産業クラスターとして活動している団体職員による講演をご覧いただくことで、やまなしHFCクラスターの活動の機運醸成を図っている。今後、産業クラスター同士の交流も始め、地域間でのビジネスマッチングに繋げていきたい。

「地域特性を活かしたテストベッドの聖地化」

さらに、2020年3月に策定した「リニアやまなしビジョン*4」では、「地域特性を活かしたテストベッドの聖地化」を施策として掲げ、県内の水素・燃料電池関連技術の研究開発が産学官連携のもとで活発に行われ、既に豊富な研究実績と技術シーズが蓄積された「⽔素・燃料電池関連技術」を中核として、脱炭素社会の実現に向けたテストベッドの誘致に優先的に取り組んでいる。

現在、水素・燃料電池分野は欧米が先行しており、同じアジアに目を向けると、中国では巨額の資金を投じ、物すごい勢いで追い上げている。国内においては、2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(経済産業省)」が策定され、燃料電池についても2050年までの成長戦略工程が示されている。水素・燃料電池に関する産業展開は長期的な視点で考えなければならないが、すでに動いていなければ海外から取り残されてしまう。山梨県では、早くから水素・燃料電池の研究開発を行ってきた歴史と技術、人材があり、そこに産学官が連携し、お互いの利点を生かしながら取り組みを進めており、県内における連携だけでなく国内外とも連携がとれる体制を整えている。

末筆ながら、これを機に、県外企業や研究機関の方々に山梨県の取り組みへ興味を持っていただけたら幸いである。

*1:
地域大学のコア技術等を核に、地域内外の人材や技術を取り込み、グローバル展開が可能な事業化計画を策定し、地域の成長と共に国富の増大に資する事業化プロジェクトを推進することにより、日本型イノベーション・エコシステムと地方創生を実現する事業
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*2:
Fuel Cells-Yamanashi Frontier for Innovation and Ecosystemの略
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*3:
トヨタ自動車株式会社でFC開発担当部長などを歴任し、現在はFC-Cubic専務理事の大仲英巳氏と本田技研工業で水素・燃料電池実証試験プロジェクト理解促進WG実務者リーダーや水素エネルギー製品研究試験センター(HyTReC)で特別アドバイザーなどを歴任し、現在は日本立地センター客員研究員の中村博氏の2名
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*4:
リニア中央新幹線の開業を契機として確実に山梨に富を呼び込み、県民生活の豊かさに直結させていくために策定した、「⼭梨県総合計画」の部門計画
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