特集工学系私大で産学連携が活性化

金沢工業大学における産官学連携による社会実装型研究への取り組み

金沢工業大学 産学連携局 研究支援推進部 連携推進課 埴田 翔

写真:金沢工業大学 産学連携局 研究支援推進部 連携推進課 埴田 翔

2021年3月15日

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金沢工業大学では「雄大な産学協同」を建学の理念の一つとして掲げており、わが国の産業界が求めるテーマを積極的に追究し、広く開かれた学園として社会に貢献を目指し、積極的な産学官連携活動を実施している。本報では、Society5.0の実現および持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目指し、AI・IoTなどの新しい技術と既存のインフラを融合させることで、社会問題の解決を目指す産学官連携による社会実装型研究プロジェクトの事例を紹介するとともに、社会実装型研究における課題について紹介する。

金沢工業大学における産官学連携

金沢工業大学は、学生、理事、教職員が三位一体となり、学園共同体の理想とする工学アカデミアを形成し、「高邁な人間形成」、「深遠な技術革新」、「雄大な産学協同」を三大建学旗標と定め、その具現化を目的とする卓越した教育研究活動を推進している。

建学の理念「雄大な産学協同」では、わが国の産業界が求めるテーマを積極的に追究し、広く開かれた学園として社会に貢献を目指しており、各府省の競争的資金、民間等との受託共同研究、自治体や地域などとの連携プロジェクトおよびコーオプ教育など幅広い産学官連携を実施している。

近年は、産学官連携によるイノベーション創出を目的に、世代・分野・文化を超えた共創教育研究を推進している。この取り組みの一つの社会人共学者という制度では、企業などの社会人が社会人共学者として、学生と一緒に講義に参加することで学び直しと共に、社会人からの話題提供による議論の場を設けることで、世代・分野・文化の異なる社会人、学生、教員が共に学び合うことで、イノベーション創出を図るというものである。

また、2020年より新たに「KITコーオプ教育プログラム」を始動させ、産学連携共創での教育を推進している。このプログラムは、大学での専門教育に加え、企業の第一線で活躍する技術者を実務家教員として招聘(しょうへい)し、第一線の現場を踏まえた事前学習を受けた上で、学生が企業に社員として長期的(4カ月~1年間)に勤務し、企業の現場において、実社会のリアルな問題解決に取り組むというものである。

これらのプログラムを介して地域や企業の課題を共有し、Society5.0およびSDGsに向けて地域、企業、行政などと連携しての産学官共創による教育研究を推進している。

本報では、Society5.0およびSDGsに寄与する産学官連携による社会実装型研究プロジェクトの事例として、工学部情報工学科 松井くにお教授が取り組んでいる「コード化点字ブロックを活用したAI音声誘導システム」に関する取り組みを紹介し、社会実装型の研究を推進するにあたっての課題などについても紹介する。

今回事例として紹介する松井教授の「コード化点字ブロックを活用したAI音声誘導システム」の取り組みは、民間企業、石川県、金沢市と本学での産学官連携プロジェクトとして推進しており、キャンパス内での実証実験を経て、石川県および金沢市の道路や施設で社会実装を進めている。

この取り組みは、既存のインフラとAI・IoTの技術を融合させることで、社会課題を解決し、人々の生活を豊かにすることを目的とするものである。

研究開発の背景

点字ブロックに関しては、身近な社会インフラとして、全国的に普及しているものの、そのインフラの意義を全ての方が理解しているわけでは無いという現状がある。そのため、点字ブロック上にものを置いたり駐輪を行うケースもあり、視覚障がい者が自転車とぶつかるなどのトラブルも多く発生している。

点字ブロックには、誘導ブロックと警告ブロックの二つの種類があり、誘導ブロックは「進行方向を示す」、警告ブロックは「注意喚起を行う」という機能があるが、それ以外の詳細な情報は得ることができない。そのため、視覚障がい者は、施設の詳細情報や周辺状況を把握できない等の問題を抱えていた。

これらの課題を解決するために、松井くにお教授の研究チームは、既存のインフラ(点字ブロック)とAI・IoTの技術を融合させることにより、視覚障がい者、健常者に関わらず、全ての人が便利に利用できるようなインフラとして変革させるための研究を開始した。

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スマートフォンのカメラで点字ブロックに着色されたコードを読み込むことで音声情報が再生される。

社会実装型研究への取り組みについて

松井くにお教授の研究チームでは、視覚障がい者を支援する機器を開発する企業(W&Mシステムズ)と連携し、「コード化点字ブロックを活用したAI音声誘導システム」の研究開発を行った。

このシステムは、警告ブロックの突起に着色することでコードを付した点字ブロック(以下、コード化点字ブロック)と、スマートフォンのアプリ、クラウドサーバで構成されており、アプリを起動し、スマートフォンのカメラでコードを認識することで、従来の誘導および警告という情報に加え、案内情報や施設情報など様々な音声情報の提供を可能とするものである。

スマートフォンのアプリを利用することで、視覚障がい者、一般市民、国内外の観光客にとって、施設等情報を音声で得ることで、利便性および回遊性を向上させることが可能となった。

社会課題を解決するには、実際に社会実装し、ユーザに認知され、使ってもらうことが必要不可欠である。本システムは、誰もが使えるように、Android、iOS共に公式ショップから無料で公開している。

現在は、石川県金沢市を中心に金沢市役所、金沢21世紀美術館、兼六園前、国立工芸館前などにコード化点字ブロックを敷設し、社会実装を進めている。

全ての人が利用できるシステムとして、社会実装を推進しており、視覚障がい者が抱える問題の解決を目指すとともに、健常者や外国人にとっても様々な情報を得られることで利便性を向上させ、点字ブロックの認知の問題も解決することができると考えている。

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金沢21世紀美術館や国立工芸館前など金沢市内55カ所に社会実装している。

社会実装を伴う産学連携を進める上での課題

社会課題を解決するための研究開発においては、社会実装しユーザに利用されなければ評価が難しいものが多く、社会実装による実証研究が重要となる。

しかし、社会実装を伴う産学官連携においては、従来の産学官連携における課題に加えて、社会実装するにあたっての課題「研究成果を社会実装するまでのプロセスにおける課題」および「社会実装したシステムのサービスの継続に関する課題」がある。今回紹介したコード化点字ブロックの取り組みにおいても、社会実装にあたってこれらの課題に対応する必要があった。

研究成果を社会実装するまでには

研究開発した成果物(シーズ)を社会に波及させ社会課題を解決していくのに、社会実装が必要不可欠である。大学のキャンパスや実験施設であれば、実装することは比較的容易であるが、社会実装の場合は、関係者への説明・調整および各種行政機関などへの説明・手続が大きな課題となる。

今回紹介したコード化点字ブロックの社会実装の場合は、これまで社会実装した実績もなかったため、公共施設や道路(県道、市道)、店舗などに実装する際に、システムの使いやすさや有用性、安全性、耐久性、公共性や景観への配慮といった研究フェーズとは異なる知見も含め、関係者および行政機関などへ説明やヒアリングおよび調整を実施して、初めて社会実装が可能となったものである。

また、社会実装までには、事前に複数回の実証実験を実施している。システムの使いやすさや有用性や安全性という観点で必要な知見を収集するために、金沢市に協力を得て、金沢駅において、実際のユーザとして想定される視覚障がい者や外国人および健常者にコード化点字ブロックを体験いただくイベントを実施し、それぞれの観点から使いやすさや有用性や改善点などのヒアリングを実施した。

耐久性の観点では、点字ブロックを製作している企業(大崎工業株式会社)と共同研究を実施し、本学のキャンパス内に社会実装と同等の環境条件でコード化点字ブロックを敷設した。これにより、社会実装する際の実装方法や耐久性や劣化が生じた場合も適切にコードを識別できる堅牢性などを確認し、ソフトウェア、ハードウェア共に必要な改良を実施した。

これらの事前の実証実験で得られた知見並びに金沢市と調整の結果を踏まえて市道への社会実装が実現した。それ以降、県道や各施設への社会実装においては、金沢市の社会実装が良い実例となり、調整が順調に進んだ経緯がある。

社会実装においては、初の事例となるケースが多いと思われるが、事前の実証実験で必要な知見を集め、社会実装に関連する関係者にいかにして理解してもらい、プロジェクトを成功させるかが重要である。

社会実装後のサービスの継続性に関する課題

社会実装型研究において、もう一つ大きな課題となるのが、社会実装後のサービスの継続の問題である。研究成果を社会実装する場合、多くの場合は当初は補助金などの支援を受けて、実装運用することがほとんどであると考えられる。従って、補助金などの支援が無くなった場合は、資金的な面でサービスの継続が難しくなるケースが多くあるのが現状であり、持続可能性という観点で大きな課題があると考える。

今回紹介したコード化点字ブロックの事例においても、現在は金沢市の補助金により社会実装を進めているが、今後も継続的に支援を受けられるわけでは無い。

そのため、将来的にはコード化点字ブロックに情報を登録する権利を販売することなどで、維持費の問題を解決し、持続可能なシステムとして運用することを目指している。

今後の展望

今回紹介したコード化点字ブロックについては、石川県金沢市においては、県道、市道、公共施設、店舗などへ社会実装を進めており、今後は国道や他の地域への導入に向けた調整を進めており、実際に利用されるシステムとして広く普及させ、社会課題の解決に寄与することを目指している。

また、世代・分野・文化を超えた共創教育研究や産官学連携による社会実装型研究に取り組める活動拠点となる本学の地方創生研究所/Innovation Hub(白山麓キャンパス)を設置し、社会課題の解決や持続可能な暮らしにつながる研究の一層の推進を目指している。

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金沢工業大学地方創生研究所/ Innovation Hub(白山麓キャンパス)
街から離れた中山間地にあり様々な実証実験が可能。また、中山間地でありながら5 Gなどの先端的な研究インフラが利用可能である。