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地元巣鴨にこだわりながら全国と手を組むすごい仕組み

本誌編集長 山口 泰博

2021年2月15日

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大正大学が東日本大震災をきっかけに、キャンパスのある地元・巣鴨にこだわり、日本全国95の自治体と連携ネットワークを構築中だ。

巣鴨で連携自治体の特産品を販売したり、学科の特徴である地域実習は学生のハートをキャッチしている。

東日本大震災を契機に巣鴨で被災地の物産販売

巣鴨と言えば、巣鴨地蔵通り商店街(東京都豊島区)が頭に浮かぶ。中山道の出発地点となる日本橋から最初の休憩所となる立場(たてば)として、江戸六地蔵尊眞性寺から巣鴨庚申塚(こうしんづか)の間に点在した町並みが作られた。1891(明治24)年に、とげぬき地蔵尊高岩寺が上野から巣鴨へ移転し、巣鴨地蔵通りはとげぬき地蔵尊と江戸六地蔵尊の二つのお地蔵様と巣鴨庚申塚に守られている。そのため商店街が発達し、信仰の街としても親しまれ、今では「おばあちゃんの原宿」と呼ばれて久しい。

そのような歴史を背景とする町に拠点を構える大正大学キャンパスは、豊島区内の都営三田線の西巣鴨駅から徒歩2分、池袋にも近い好立地だ。だがあえて巣鴨駅からの通学を進めているという。

柏木正博専務理事は「近年は大型のショッピングモールなど画一的な小売店に押されて空き店舗が多くなりました。本学は西巣鴨駅が最も近いのですが、学生の20%にあたる1,000人ほどが巣鴨駅を降りて、商店街を通り2km先のキャンパスに来てくれたら商店街も活性化すると考えたのです。借り手のいないテナントは町中の教室となります。町と大学に一体感が出ると感じています」とシャッター通りになってしまわないよう、危機感を募らせた。

巣鴨駅から大正大までの間には、巣鴨駅前商店街、巣鴨地蔵通り商店街、庚申塚商栄会と三つの商店街が連なる。大正大は、人通りが減りつつある商店街を何とか活性化したいという思いがあった。

きっかけは、東日本大震災だ。震災後に大正大として宮城県南三陸町へのボランティア活動のため被災地に入った。被災地の現状を目の当たりにして、復興のために何か支援ができないかと考えたからだ。そこで南三陸町を含めた被災地の物産を巣鴨で販売することになる。

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柏木正博専務理事

特産品販売のアンテナショップ「座・ガモール」誕生

「3.11がきっかけで研究所を作り、さらに地域創生学部を開設し、産学官連携を進めてきました」と髙橋秀裕学長が言うように、大正大が最初に取り掛かったのは、産学官連携の研究と基盤となる地域構想研究所の設置(2014年)だ。地域創生の実践や実装に役立てる研究活動を行うための研究機関で、官公庁や企業などと連携し、地域課題の解決を図ることが目的だ。そして2016年には地域創生学部を設置した。研究結果を同学部の学びに生かしながら「新しい価値創造を企画・実現できる人材」を育成し、地域創生への貢献を最終目標としている。

地図
座・ガモール地図

さらに同年には、巣鴨にこだわる契機となる一般社団法人コンソーシアムすがも花街道も設立した。大正大の地元でもある巣鴨駅前商店街、巣鴨地蔵通り商店街、庚申塚商栄会と三つの商店街と連携して、地域の活性化や振興のために展開する全国各地の特産品を販売するアンテナショップ「座・ガモール」の誕生につながる。

大正大は、「座・ガモール」店舗の企画や運営に携わり、三つの商店街とも協働。巣鴨の町全体をキャンパスとして学生に体験や学びの場を提供する。地域にこだわり、産学官連携による地域・社会をつくる人材育成に注力することで、地方は立地を生かした大消費地・東京での物産販売やPR、商店街は活性化の期待が可能となり三者三様それぞれにメリットを作り出す。

写真2
1号店

座・ガモール1号店のテーマは「東北」で、宮城県三陸町、登米市、栗原市、山形県最上町、新庄市、庄内町、長井市、鶴岡市、遊佐町といった東北エリアの特産品や復興支援品、自治体のPRを担う。

2号店は「京都館 すがものはなれ」と名付け、京都の若手職人が作る工芸品や漬け物、菓子など京都老舗の食をテーマにする。

3号店の「神の国から」は、北宮崎がテーマで、宮崎県延岡市、高千穂町、日向市の特産品や地酒を扱うほか、2階はcafé&地酒ダイニング「あちこち庵」を併設する。

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2号店の店内
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3号店

髙橋秀裕学長は「単に販売しているだけでなく、東京という大消費地で売るための対策も提案できています」と強調。学生によるマーケティングやPR方法など、販促活動にも貢献できているようだ。

プロジェクトを進めていくには想定しないアクシデントも付きものだが、その点を尋ねると柏木正博専務理事が笑って応えてくれた。「各地域の物産を都内に送る際、その輸送コストを考慮していませんでした。助成金で賄えるものと考えていたのです。事業者が負担すればその費用だけで赤字になります。プロジェクトを進める上でこのような問題に直面することを身を持って学生も感じ、その課題をどう解決していくのか経験できたのが大事なのでしょう」と。

今は新型コロナウイルスの感染症対策のため、営業短縮やネット販売に切り替え通常営業ができていないがSNSなどで情報発信は怠らない。

連携を基盤 95の自治体

大正大が地元巣鴨にこだわりながら、全国各地の自治体と連携ネットワークを構築しているのが大きな特徴だろう。その数は何と95。地元への貢献である「巣鴨オールキャンパス」と並行して、地域構想研究所を窓口に95もの自治体と連携し、大きなプラットフォームを作り上げている。

一覧
大正大学地域構想研究所 連携自治体一覧

しかしここで疑問に思うのは、東京の一私立大学がなぜこれほど多くの自治体と手を組むことができるのか。事情を知らなければ、地方から見れば、なぜ大正大なのかと素朴な疑問が出てくる。その答えは、「4宗派の連合宗派の大学(複数宗派の仏教系大学で天台宗、真言宗豊山派、真言宗智山派、浄土宗の設立四宗派と時宗)であることから、全国に卒業生がいます。そのネットワークは、都内の中規模大学という枠を超え、自治体からも声を掛けてもらえるようになりました」と首藤正治副学長が応えてくれた。「しかし、アンテナショップである座・ガモールは95の自治体全ての物産を扱っているわけではありません。そんな中で、地域創生学部の今年度の地域実習ではコロナ対策としてオンライン販売を活用し、コロナ禍により物産販売などが厳しい地域を支援しました」と付け加えた。

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首藤正治副学長

95の自治体との連携は、何もアンテナショップへの出店だけではない。学生が連携自治体に一定期間滞在して、社会経験を積むための地域実習も行う。コロナ以前は約40日間の地域実習を実施してきており、学生側も奄美大島などの実習地へ行ってみたいという熱意が高いのだそうだ。その町で生活し、課題を見つけ解決できる人材となる。

髙橋秀裕学長はその目的を「地域研究所が95の自治体の窓口となり、学生が実習に行く。課題を自ら見つけること」だと説明。「ただ長ければいいということでもありません」とも付け加えた。奄美大島のような離島だけに気が行き観光のような目的で参加されるのであればそれは違う。

首藤正治副学長は「地域創生学科では毎年15カ所ほどの自治体で地域実習を実施しています。長期滞在はゼミ単位ではよくあることかもしれませんが、学科を挙げて地域実習に行き、暮らしながら提言まで行うのは、全国の大学でも珍しいのではないでしょうか。私が延岡市長時代に、実習の1期生となる大正大の学生7人が、延岡市に来てくれました。その中の1人は埼玉県出身なのですが、実習で延岡を気に入り、地域の人とも溶け込んで、縁もゆかりもなかった延岡で就職したのです」と補足した。

首都圏から地方へ移住し就職するのは大きな成果といえそうだ。自治体との連携によって長期滞在型実習は、首都圏から人材を送り出すことのロールモデルとなり得る。

通常なら1年生が地方、2年生が都内、3年生が地方で実施する実習プログラムは、コロナ禍では1年生は東京、2~3年生が地方にと変更し規模も縮小せざるを得ないという。

「地域に行かなければ学生のモチベーションも下がります。多くの学生がこの実習を楽しみにしています」と柏木正博専務理事。

授業、連携ともにコロナ対応に追われる中、髙橋秀裕学長は「春はリモート、秋は2割を対面授業に切り替えましたが、やはり卒論指導は対面でないと難しいですね。2020年5月11日からのオンライン授業実施にあたり、インターネット環境整備など学修環境全般を整えていただくための支援として、在学生全員に一律5万円を給付しました。コロナをきっかけに2021年度の1年生からはパソコンを必須として持たせることにしています」と髙橋秀裕学長。

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髙橋秀裕学長

大正大の産学官連携は、地域創生学科の学生が主体だったが、2020年度が初年度となる公共政策学科の学生は、連携自治体へ行くことができず、コロナ禍は大学運営に大きな制約を加えている。2021年度は両方の学科で地方へ行けるようにしていきたいとのことだが、現状は先が見えない。

10年ほど前までは2,000人ほどが通う小規模文系大学だったというが、今では5,000人ほどの中規模大学へと成長した。基本はこの巣鴨のキャンパスだけで収容しているのだが、増え続ける学生が修学しやすいよう敷地内のあちこちで年中改装しているという。

東京都豊島区という好立地が影響しているとはいえ、社会共生学部、地域創生学部、表現学部、心理社会学部、文学部、仏教学部の文系大学にして、地域との連携では「巣鴨」と「全国95自治体」の取り組みで個性を発信していたことも無縁ではないだろう。

さらにこの4月には大学発ベンチャー第1号を立ち上げる予定だ。

外でアルバイトしなくても、学内企業でアルバイトができる仕組みを作りたいと卒業生から起業したいと相談が押し寄せ、柏木正博専務理事が中心となり進めている。文系大学がベンチャーを立ち上げるのは少ないとは、近年徐々に聞くようになった。自然とアントレプレナーシップも醸成されているようで、その船出も注目したいものだ。