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研究もサービスもカラスの行水にしない
カラスの行動研究でカラス対策をするベンチャー

本誌編集長 山口 泰博

2021年2月15日

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生ごみを漁り、農作物を食害するカラス。

これらの被害を防ぐため、カラスの行動研究を活用し、音声を用いて成果を出すベンチャーがある。顧客の中には、2年以上も持続してカラス被害を食い止めることに成功している。

カラスの行動をコントロール

カラスが警戒する音声でカラスを追い払う製品とコンサルで実績を挙げるのは、栃木県宇都宮市の宇都宮大学発ベンチャー株式会社 CrowLab (クロウラボ)だ。

長年の研究によってカラスは多様な鳴き声によって発達したコミュニケーションをとることを発見。声紋解析により数万のカラスの鳴き声を分析し、カラスが警戒する鳴き声を導き出した。スピーカーからその鳴き声を再生して、その場所が危険だと認識させるというもので、カラスの行動研究によって得た知見を事業化した。

当初開発した製品は、ごみ置き場での使用を想定したカラス被害防止機器「CrowController(クロウコントローラー)」。縦210mm×横160mm×厚さ100mmの装置に、赤外線センサーでカラスを感知し内蔵したスピーカーで約10秒間カラスの警戒心を煽る音を鳴らして追い払う。カラスが音声に慣れないように2パターンを用意したものだが、センサーの検知範囲が3m程度と短く、ごみ置き場などの局所的な場所以外には適さない。より広範囲の場所に対応するため、「カラス追払い音声貸出サービス」を展開した。音声とともに貸出すスピーカーは、AC100Vタイプや太陽電池タイプの他、バッテリータイプも開発し、様々な現場に対応できるよう工夫した。

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雑食性で環境適応に秀でたカラス

雑食性のカラスは、果物、種子、動物の死骸をついばみ、昆虫類、小型哺乳類、鳥の卵や雛(ひな)、爬虫類、両生類、ザリガニなどの小動物を好むグルメな動物だ。そのため農耕地では果実などの農作物を食害し、都市部ではカラスや猫避けのためにかぶせたネットを巧妙に擦り抜けごみ集積所を荒らす。ごみが散乱する光景は見慣れた光景だろう。

春から夏、一夫一妻制で協力して子育てを行う繁殖期間中は特に縄張り意識が強くなる。不用意に巣に近づく人や動物を威嚇し攻撃することもある。

巣は木の上に小枝を組み合わせて作る「木造住宅」だが、都市部では電柱や看板などに営巣することもあり、小枝以外にも針金やプラスチックなどさまざまなものを利用している。

電柱や送電塔に針金類で営巣すると短絡の原因になり、糞害、早朝・夜間のけたたましい鳴き声による安眠妨害...。カラスは人の生活圏で身近に見かける動物だけにその被害も多く見られる。

以前、東京・大手町のビルの屋上に設置された鉄塔の最上部に、ハンガーを重ねて巣を作り子育てするカラスに遭遇したことがある。10階建ての古いビルの屋上は、高層階にいた筆者らにはよく見え、屋根もなく雨風も凌げず孤立した鉄塔だった。夏真っ盛りで日光が直射する環境の悪い場所にも適応することと、毎日懸命に子育てするカラスを微笑ましく見ていた。しかし、ほどなくしてビルの管理業者が鉄塔によじ登り巣を撤去していった。周囲の人たちは残念そうに見入っていたのを思い出す。カラスの生命力や適応力には驚くばかりだ。

鳥獣被害の多くは慣れによって効果が持続しないことが課題だ。忌諱(きき)効果をうたう製品の中には、間違った知識によるものを提供するものがある中、確かな知識と専門家によるアドバイスは参考になるのではないだろうか。

カラスの観察中に不審者と間違われる

研究者志望だった代表取締役の塚原直樹社長は、動物が好きだったことからカラス博士として知られる宇都宮大学の杉田昭栄教授の研究室に入りカラス研究を開始。そこで博士号を取得後、ポスドクも経験した。その後、総合研究大学院大学助教の任期付き最終年の2017年12月に宇都宮市と宇都宮大学の支援を受けて起業。現在も週2日、宇都宮大学のバイオサイエンス教育研究センターで特任助教(動物行動学)として研究活動を続ける。

「カラスを研究する中で、カラス被害の相談が多く寄せられたことから起業を考えるようになりました。大学教員を続けながら、企業と共同研究して製品を開発するという方法もありましたが、考えていたものとは違うものになってしまうことがあり、それだと効果がないんだよなと思ったのが、大学を辞めて会社に専念したほうがいいものができると考えたからです」と塚原社長が言うように、共同研究で製品を具現化する難しさを痛感したようだ。

総合研究大学院大学では、5年の任期を終えてもさらに追加で5年の任期更新ができそうだったがあえて起業したのは、近年は大学では雑務が多くてやりたいことができにくい環境なのだという。「起業を決めた後、複数の他大学から准教授のポストを打診されたので、足踏みすることなく次の職場は見つかったとは思いますが、知人の研究者の中には苦労している話をよく聞きます。給料は半分程度に下がり不安はありますがやりがいはありますよ」と塚原社長。カラスと人とが共存できる社会へ向けた事業に手掛かりを見つけているようだ。

研究室で与えられたテーマはカラスだが、「カラス語」は完全解明にいたってはいないという。そのためカラスをひたすら観察し、レコーダーでカラスの鳴き声をひたすら集め、その音声をカラスに聞かせ、データを取り、音声データを声紋にするといった作業の連続だ。

鳴き声の収録も当初は大学内で始めたが、早朝の繁華街に出向き、夕方にはカラスのねぐらとなる森や電線がある市街地にも出かけカラスを追いかける。朝方のレコーディングは、不審者扱いされることもあったと塚原社長は苦笑する。

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塚原直樹社長

売りっぱなしではなく音声交換、コンサル継続

カラスは人間より可聴域が狭く超音波が聞こえないためその種の製品から発せられる超音波の効果は期待できない。音声でコミュニケーションを取るといっても、どんな音でも最初は警戒し効果はあるが長続きしないのが最大の課題だ。

製品は常に進歩していて、最新製品は拡声器の後ろに箱が取り付けられていて、その中には超小型パソコンのRaspberry Pi(ラズベリー・パイ)などが組み込まれ、音声がインストールされている。これを貸出し、現場に合わせた再生方法などをコンサルするのが事業形態である。

その仕組みは、例えば月曜日と木曜日の午後4時と午後5時に音声を流すプログラムだ。ただ流し続けるのではなく、インターバルを設けるなどして慣れさせないよう研究の知見を活用し効果が持続するよう工夫している。それでも、同じ音声を流し続けると追い払い効果がなくなり、必ずカラスは慣れてしまう。そのときは、顧客のヒアリングを基に作成した現場に適した音声パターンが入ったUSBメモリを送り、製品の音声を交換することで、カラスの慣れを解消し、効果を長期的に持続させる。研究もサービスも「カラスの行水」にならないよう注意しているからだろう。

農地や畜産現場での使用を想定する、翼がパタパタ動くカラスロボットもユニークだ。

光が透過しないシートでロボット部分を隠してあるのだが、シートから露出した部分には、実際のカラスの翼で胴体はない翼だけカラス。カラスがじたばたする状況を作り出し、危機的状況にある時の鳴き声がスピーカーから流れる。瀕死など危険な状態にあるカラスがいると、周りのカラスに錯覚させるロボットだ。そのほか、カラスドローンを飛ばし、周囲のカラスの反応を見る実験も大学発ならではの試みで関心をそそる。

スピーカーの設置方法や再生のタイミング、現場に合った地道なコンサルティングを続けることで多くの現場で効果が持続しているという。

起業当初、想定した顧客は自治体だったが、公的機関は何より実績を重視する。またその年度で必要だと思われても企業のようにすぐに購入決定ができない。予算措置の手続きから、納入が決まるまでには少なくとも1年はかかる。そんな理由から事業計画も見直しを余儀なくされていた創業1年目は資金繰りに苦労したという。4期目現在は、顧客の3割強が自治体で、自動車関連企業、食品会社、ビルの屋上がカラスのねぐらになった企業、農家などへと販路を開拓する。特にブドウや梨、桃などの露地栽培で単価の高い作物を生産する農家からの引き合いが多くなった。しかしコロナ対策に人手を取られたのか、自治体からの契約が頓挫することも。

写真3
最新機種のCrowController

冬に生ごみを与えるとカラスが減らない

野生の鳥や獣は、被害を与えるからといってむやみに捕獲ができない。

鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)によって、鳥獣保護管理事業計画や鳥獣の捕獲の規制、鳥獣の飼養・販売の規制、鳥獣保護区、狩猟免許・登録などに関する制度、その他の雑則・罰則について定められている。従って、狩猟制度による狩猟鳥獣を捕獲する場合と学術研究の目的などで法による許可を受けた場合と、同法の対象にならないネズミ類や海に住むほ乳類を除き、捕獲はもちろん傷付けることや採卵も禁止され許可が必要だ。

塚原社長によれば、そもそもカラスを捕獲で減らすのは現実的ではないと話す。カラスは、一つのペアから1年におよそ2.5羽の子が巣立つと考えられ、1年で倍近くに増えるため、既存のカラスと同程度の数を捕獲してようやくトントンだという。生まれて1年以内の雛は経験が浅く、自力で餌を確保する力が劣る。エサが減る冬に多くが餓死するため、カラスも自然に減るので、エサとなる生ごみや畑に放置された農作物などを適切に管理してカラスのエサにならないようにすることがカラスを増やさない方法だと説明してくれた。

エサが減る冬に、生ごみを与えることはカラスを増やしてしまうことになりかねない。人が野生のカラスを育て増やしていながら、カラス被害を嘆いているのだとしたら本末転倒だろう。今後は生ごみの出し方にもさらに細心しそうだ。