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日立による北大博士課程学生に向けた給付型奨学金制度導入

株式会社日立製作所 研究開発グループ 渡辺 康一
株式会社日立製作所 研究開発グループ 竹本 享史

写真:株式会社日立製作所 研究開発グループ 渡辺 康一 写真:株式会社日立製作所 研究開発グループ 竹本 享史

2021年1月15日

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プログラム概要

日立と北大は、社会課題解決に貢献できる高度な技術の研究開発に取り組む人財を育成するために、優秀な学生の博士課程進学を促し、研究に専念できる環境を整える給付型奨学金の本プログラムを2020年度から開始しました。本プログラムは、北大の博士課程に在学する最大9人の学生を対象に、2020年度から3年間で一人当たり年間520万円を支給します。このうち、日立からは400万円の研究費と学生の生活費を、北大からは120万円の研究費を支給します。

図1
図1 給付型奨学金制度の概要

博士課程支援制度の必要性

文部科学省の発表では修士課程修了者の博士課程への進学率は、工学部で2000(平成12)の9.6%をピークに減少傾向にあり、2016(平成28)では5.6%となっています。そのため大学側も博士課程学生の減少、さらに会社側も優秀な博士課程学生の採用が難しくなっており、日本の技術力低下を招く恐れがあります。また、知り合いの大学の先生からも優秀な学生が博士課程になかなか進学しない状況も聞きました。進学しない理由は財政面、博士課程終了後の就職への不安などが挙げられています。

本スキーム導入は、学生にとって財政面をサポートするだけでなく、企業を知り成長する機会となります。また大学側にとって博士課程学生が増える、企業と密につながれるなどの利点があり、企業側にも先端技術を肌で知る機会ができ、さらに学生に身近に会社を知ってもらえるなど、学生、大学、企業共にメリットのある仕組みです。そのため、博士のキャリアパスを安定化し産学連携を促進する、大学・産業界双方にとって重要なスキームだと考えています。また本給付水準は、現在の日本の最高水準の奨学金を超える額であり、本公募を勝ち抜き研究することは学生の名誉となり、ひいては博士の増加に繋がると、期待を頂いています。

写真1
写真1 産学連携「新概念コンピューティングコンテスト」表彰式

欧州の状況と北大の理念

ここに至る背景として、欧州と日本の産学連携の状況の違いにあります。欧州は産学連携が進んでおり、例えば私が3年間勤務した英国ケンブリッジ大学では、博士課程の学生は全員奨学金制度を活用しています。その中で一番多いのが企業からの奨学金です。大学と企業が学生を育てる土壌ができており、また博士課程学生は企業奨学金を取ることで、大学教授だけでなく企業の研究者をメンターとして研究を考える機会が与えられます。その影響だと思いますが、私の印象では日本の博士課程学生と比べてイギリスの学生はすでに社会人に近い感性を持っていると感じました。

また企業側の観点から見ても、ドイツのシーメンスは、本スキーム同様、共研テーマ推進に際し優秀学生を公募し、研究費・人件費給付する仕組みを、20年前よりミュンヘン工科大など8大学と進めています。

このような状況を鑑みて、英国から戻り最初の大きな仕事として、日本でプレミア感のある給付型奨学金制度の導入を検討しました。その際に奨学金に大学側にも負担していただくことで責任を共有でき、学生にとっても名誉になると考えました。北大は、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」および「実学の重視」という教育研究に関わる基本理念を掲げており、本制度での産学連携教育を最初に導入するには最適と考え、ご相談して快諾いただきました。

写真2
写真2 協創成果の知的財産開放に向けた関連機関合同ブレインストーミング

北大と日立の関係と今後の展開

日立は北大と共同で2016年6月に「日立北大ラボ」を開設し、北海道における少子高齢化や人口減少などの社会課題を解決し、地域創生につながる共同研究を進めています。これまで、常駐型研究拠点の利点を生かし、「社会創造数学コンテスト」*1や「新概念コンピューティングコンテスト」*2などを共催して学生の修学意欲を促進し、社会を支える高度な技術の発展に貢献してきました。また、日立は、北大COIの中心企業として岩見沢市と共同で母子健康調査*3などを実施し、関連機関合同で本取り組みの社会実装に貢献する知的財産を開放*3するなど、健康経営都市の推進を進めてきました。

新型コロナウィルスの感染拡大により、テレワークによる在宅勤務が普及するなど、働く場所が住む場所に依存しなくなることから、地域での生活が見直されています。北海道は課題先進地域といわれる一方で、国内の食料安定供給に貢献する1次産業、低炭素化社会実現に向けた豊富なエネルギー資源など、広大な大地と自然を生かした様々なポテンシャルがあります。そして課題はマイナスではなく、世界に先駆けて厳しい社会課題を発掘し、克服することで新技術や新産業創出につながる大きなチャンスとなりえます。今後、本給付型奨学金制度を活用することで、学生を媒体とした北大・日立双方の人材育成を進める共に、社会課題解決に必要な異分野が融合した多岐に渡る産学連携の研究基盤を構築し、持続可能な社会の実現をめざしていく所存です。

*1:
従来のアルゴリズムでは最適解を求めることが困難な社会課題を解決する新しいアルゴリズム開発を目的に、日立と北大が2019年に2回開催したマラソン型プログラミングコンテスト。
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*2:
従来の計算原理とは異なる、新概念コンピューティングのキー技術である前処理アルゴリズムの効率化を目的に、日立と北大が2017年から2018年の2年間で、3回開催したマラソン型プログラミングコンテスト。
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*3:
ニュースリリース「北海道大学、森永乳業、日立製作所は、母子健康調査に関する協創成果としての知的財産を開放」
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