リポート

産学官連携にチームの出会いを求めるのは
間違っているだろうか

株式会社神戸大学イノベーション 執行役員
(兼任)神戸大学 産官学連携本部 シニア・ライセンシング&ビジネス デベロップメントオフィサー
大津賀 伝市郎

写真:大津賀 伝市郎

2021年1月15日

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最近、産学官連携で良いチームに出会った(写真1)。そして、冒険者タイプの物語は桃太郎やミドルアースの時代から現代のアニメやスーパーヒーローものの映画でも大概チームで戦って大きな成果を出している。最近チームの重要性に気付かされた出来事があったので、書いてみたい。(いや、本誌の編集長の山口さんが私の常々考えていることを、書いてくださいと私などに依頼されたのを後悔しないように、ちゃんと産学官連携の話になりますので、安心して下さい!)

写真1
写真1 株式会社神戸大学イノベーションのチーム

まず私の頭の中でチームから連想させられる言葉は、「チームを視(み)る」だ。これは、私の周りの米国のベンチャーキャピタリストが投資対象の、特に創設して間もない、シード段階のベンチャーを評価するときによく使う言葉である。実際、投資判断の三大要素は、①チーム、②チーム、③チーム、であると説く有名な米国VC(ベンチャーキャピタル)もいるくらいだ*1。ちなみにフルバージョンの6大要素で語るときは、その後は、④市場規模、⑤トラクション、⑥アイデア(技術、特許などを含む)と続く*2

この「チームで事業を運営する」というコンセプトは、産学官連携では、あまり聞かれない。「産学連携はコンタクトスポーツだ」と聞いたことは何度もあるが*3、産学連携がチームスポーツだというのは、不思議なくらい聞いたことがない。しかし、チームという言葉はよく使われている。実際、本誌のウェブサイトで「チーム」を検索すると、700件以上もの結果が出てくるが、ほとんどは、肩書や組織の名前にチームが入っている。しかし、一緒の組織に所属しているだけで、「チーム」になるのだろうか。

例えば、技術移転では、一緒のグループに属していても、各人がそれぞれ個別に案件の対応をする。研究者を訪問して知的財産(知財)を発掘し、知財を磨き上げてライセンス候補先に営業をして、契約を交渉、締結し、さらにはライセンス後のサポートも行う、どちらかといえば川上から川下まで、一貫してサポートするのが基本だ。これまでの産学官連携では、1人で全工程がこなせる、いわゆるオールラウンダー型の人材が求められてきた。

時として、産官学連携の業務を行っている組織でのチームワークが語られたとしても、それは、発明者などの技術系の教員などの研究者、知財を担当する産学連携部の事務員、技術移転を行うアドミニストレーター人材の連携・連絡の方法だったりする。どちらかと言うと、別のグループ間の個と個のつながりの場合が多い。

もしくは、最近よく見聞きする言葉は「伴走」だ。そもそも、なんで一緒に走っているか分からないが、横で走っている人達を通常チームとは言わないどころか、大体は競争相手だ。どちらにしてもこれらの表現には一心同体感よりかなり距離がある。

ところで、なぜチームがベンチャー企業の投資判断に重要なのだろうか。そして、チームの機能性がベンチャー企業で特に重視されるのだろうか? それは、ベンチャーは、短時間でスケールし、大きな結果を出すことが求められるので、それには、組織的に動く必要があるからだ。

わたしは何回か法人を立てた経験があり、逆の立場であるエンジェル投資家や、VCとして、投資対象であるベンチャー企業のデューデリジェンス(Due Diligence)もしてきたので分かるが、会社を立て、成長させるには、とにかく様々なことをしっかり考え、信念に沿って決断し、少ない資金が干上がる前に素早く行動しなければならない。

ソロプレナーとして1人でベンチャーを立てると、どうしても周りが見えなくなっている自分に気付けない。また、事業の三本柱である、経営、技術、営業の全業務を1人でこなすのは難しい。例え全てのスキルと経験があったとしても、1人では時間が掛かる。一方で信念の共有ができている仲間とチームでベンチャーを立てると、経営、技術、営業の分業が可能になり、これができれば効率よく仕事が進む、また、精神面でもお互いの支えになる。しかも、皆で意見を出しながら何か新しいものを作り込んでいく、この一体感のあるプロセスは一度ハマると止められない。だからチームが重要なのだ。

特にチームメンバーの「信念=軸」が共通していることはさらに重要で、この共有された軸は、組織の文化の源ではないかと思う。組織内で軸が共有されていれば、「どこで、だれが、なに」をしていても、信頼できる。それは、一人一人が自発的に軸に沿った行動をするからだ。

それでは、何をもってチームということになるのだろうか。それぞれ特化した役割があり、それぞれの役割が信頼され、任されて個々で行動しているが、時として全員で集まりお互いの意見をぶつけ合って全体的な方向性を決めていく、そんな双極的性質を持った集まりだと思う。チームとは、「多様性」のあるメンバーによる「分業」と「信頼」を「共有する軸」から発展させることを「組織的に行う人の集まり」、ではないか。

軸というのは、そもそも「なぜ(Why)」それ(例えば、ベンチャー、仕事、スポーツ、バンド、ボランティアなど)をやるのかという個人の思想や哲学のことであると思う。これは同じ組織に長く留まって醸成されるものだと考えられることが多いが、必ずしもそうではないことに気付かされたエピソードがあるので紹介したい。

さて、そもそも私は、2020年4月に事業を開始したばかりの、株式会社神戸大学イノベーションという承認TLOの創設メンバーで、最近、中途採用者への研修を行った。研修と言っても、始まって半年しか経たっていないので、創設チームメンバーが技術移転のトピックに関して語るというものである。まぁ、しっかりとマニュアル化する時間も準備も出来ていなかったから、というのが本音だ。

研修が終わった後、研修の感想を聞いてみると、仕事の内容、手順などにまつわる業界独特の慣習、用語などの話もあったが、一番印象に残ったのは「なに(What)」とか「どう(How)」の部分より、一貫して「なぜ(Why)」の部分が研修の内容として共通していたことだ、と言われたことだ。その共通事項は、「“産学官連携の世界でいかにお金が大切か”と言うこと、ただし、“お金だけのために産官学連携という仕事をしているのではない”」という「“お金が”ではなく“お金も”」という考え方だ。つまり、「対価として産学官の間で正当な対価のお金は支払われるべき」だが、産学官のどこかで正当な対価の交換が行われなくなると、お金も本来の「回りもの」としての習性が失われ、流動しなくなる。「しっかりと正当な対価でお金の流れを作ること」で、産学官連携が機能し、「学」の「知」が効果的に社会実装されるということだ。

先述の新人研修の内容は神戸大学イノベーション社内でのトピックである。当社には技術移転の世界で15年以上の実績がある人物が4人もおり、合計でおそらく2,000件以上の技術の社会実装に関わる契約を締結しているので、ベテラン率が高い。また、必ずしも同じ職場や時期ではないが、以前一緒に働いた経験を持つものが社員の半数を占める。つまり、今のチームが出来る前に、既に別のチームで一緒に活動した経験があるのだ。そして、個々に川上から川下まで、一貫して産学官連携の全体図の中で経験を積み、個人の軸が形成された。おそらく、それぞれの「軸」が共鳴しチームとして集まったので、頑固たる共通の「軸」が存在するのだ。

ところで、日本でも、シリアル・アントレプレナーと言われる連続して起業するアントレプレナーは、起業の成功率が高いことが知られているが*4、実は個人のアントレプレナーより、この様なチームの再編成のほうが米国のベンチャーではよくある。一緒にベンチャーで仕事をした仲間が、エグジット後に別のベンチャーでチームを作る、いわゆるシリアルベンチャーチームだ。私は投資家として、このようなシリアルベンチャーチームと出会うことが時としてあるが、彼らの動きには目を見張る。さっさと資金調達し、さっさと試作品を造り、製品の承認の書類を揃えて販路を確保し、価値を見いだし、スケールさせ、エグジットさせる。だからこういうチームは投資を受けやすく実績も出せる。

エコシステムが構築されるということは、人材層が厚くなりつつも、人材の流動性があるというのが私の考えだ。日本の大学の技術移転業界も今年で20年*5、人材の層が厚くなってきている。今までの日本の産官学連携は、オールラウンダー型の人材育成をしてきたが、これは次の世代の育成とスケールする段階の土台づくりとも言える。

神戸大学イノベーションという会社は、百戦錬磨の高いステイタスレベルの冒険者達を同じファミリア・パーティに集め、新しい組織の箱に入れ直し、その組織をスケールさせる実験だと思う。そこでは、それぞれの「ヒト」の経験値も重要だが、私は打ち合わせもしていないのに、メンバーの「なぜ(Why)」が一致していたことは極めて重要だと思う。このチームの共有された軸、しっかりと「学」からの「知」の正当な対価を設立させる信念があるので、お互いを信頼して仕事を任せられる。そして、この信頼感は伝搬する。設立して半年ほどだが、新人社員を入れて、次世代への伝搬・育成も始めている。次世代がどのような成長を遂げ、新しい形のチームを作っていくのか楽しみである。もしかすると、個々がオールラウンダー型でなくともスケールできる仕組みの組織で活躍できる新しい形の人材像を見せてくれるかもしれない。産学官連携の仕事でこんなチームとチャンスに出会えたのは非常に嬉しい。

図1
図1 承認TLOの年次新設件数
経済産業省のデータを元に筆者が作成

日本での産学官連携は、年々確実に実力を上げているが、少々停滞感と閉塞感があるように見える。日本でのTLO新設数を見ても、最初の12年と、直近の12年では雲泥の差がある(図1)。破壊的イノベーションとは、発明や技術だけではなく、ビジネスモデルでも起こり得る。今後、神戸大学イノベーションのようなチーム編成で、短期間で驚くような業績を叩き出すベンチャー企業的なTLOが出てくるかもしれない。これには、当然、業界を熟知したベテラン人材が重要だが、その人材を集め、行動に移す仕組みとして、独自の意思決定ができる組織として産学官連携の機能を外部に出してみた実験の成果でもある。今年からコロナ禍により働き方が変わり、リモートが常態化しようとしている環境において、ちょうど良い機会である。もし、産学官連携に閉塞感を感じているのなら、外部化した新たな組織で新たなチーム作り、全国から産学連携のベテラン人材を正当な対価と多様な雇用体系で集めてみたら神戸大学イノベーションとはまた違う軸で発展するかもしれない。その中からレベルアップし、次元の違う新しいスキルを得て、産学官連携の分野に新しい流れを作るかもしれない。

前回、5年前に本誌に投稿した際に*6、流動性がなぜ重要かを語ったが、神戸大学イノベーションはまさに、「ヒト」の流動がチームの構成に結び付いた例だと言える。私が現在担当しているベンチャー創出、ベンチャー投資の分野でも今後アントレプレナーやスタートアップの経験者が増え、人材層が深まり、正当な対価で「学」の「知」が流通すれば、米国並みのベンチャー投資という「カネ」の流動も起こり、その中からチームメンバーの出会いが起き、GAFA+M*7を凌駕する世界的な日本大学発のベンチャー企業が生まれる、そんな時代が再来すると感じている。そして、将来語られる大冒険の物語は、やはりチームが成し遂げるだろう。産学官連携にチームの出会いを求めたことは間違っていなかった。

*1:
Devathon An Interview with Founder & Co-CEO of Techstars, David Cohen
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*2:
5 Questions with Johann Romefort March 1st, 2020
しかし、順序的にはアイデアが最後です。しかも、アイデアの中には事業の仕組みなども入っているので、技術や特許がそれほど重要視されていないことが分かります。いつか、このことについてもどこかで共有したいと思います。
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*3:
「産学連携における学術用語の一般化」 東京大学TLO 代表取締役社 長山本貴史
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*4:
独立行政法人経済産業研究所「シリアル・アントレプレナー研究への関心」松田尚子研究員
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*5:
UNITT アニュアル・カンファレンス [UNITT AC 2020は、盛会の内に閉幕しました。]
UNITTは2020年9月に設立20周年を迎えた。
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*6:
産学官連携ジャーナル 2015年7月号 海外トレンド 米国在住実務者から見た米国と日本の技術移転―米国から学ぶ日本での地方創生― 大津賀伝市郎
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*7:
日本経済新聞 2020年5月8日 「GAFA+Microsoftの時価総額、東証1部超え560兆円に」
GAFA+MはGoogle, Apple, Facebook, Amazon, Microsoftの略で、この5社の時価総額の合計額は、東証一部約2170社の総合計時価総額より高い。Amazon以外は大学生、もしくは大学発ベンチャーで、どれもチーム創設者によるベンチャーだ。
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