巻頭言

今こそ科学技術の総力の結集を

国立研究開発法人科学技術振興機構 理事長 濵口 道成

写真:国立研究開発法人科学技術振興機構 理事長 濵口 道成

2021年1月15日

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2019年12月に中国武漢で確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、瞬く間に世界中に拡散し、冬を迎えその脅威が拡大している。

イスラエルの歴史家・思想家ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、ウイルス拡散阻止がプライバシーに優先される結果、「危険な」テクノロジーの導入が容認され、全体主義的な監視社会の到来を招くと警鐘を鳴らしている。その上でハラリ氏は、社会について二つの観点で選択肢を示した。
▶全体主義的な監視(政府による国民監視)の強化か、市民の政治への信頼に立脚し市民をエンパワーメントしていくのか。
▶孤立自国中心的国家運営か、国際協調か。
(The World After Coronavirus, first published in English in The Financial Times,
https://www.ft.com/content/19d90308-6858-11ea-a3c9-1fe6fedcca75

我が国は欧米各国に比して感染被害が大幅に少ない。我が国は諸外国のように強制的なロックダウン等の措置を講じておらず、市民が情報を基に自ら判断し行動する「市民のエンパワーメント」が被害拡大防止に大きく寄与している。その一方、感染が拡大する中市民の自制的な行動のみでは限界がある。

ワクチン開発や治療法等の開発を進めることはもちろんであるが、COVID-19存在下でも経済・社会活動を維持するためには、医療分野にとどまらず、工学分野等様々な分野の知を結集した研究開発が不可欠であり、JSTとしても積極的に取り組んでいく。

また我が国はCOVID-19の研究において十分な存在感を示せていない。Web of Scienceにおける国別に見たCOVID-19関連の論文数では日本は16位にとどまっており、患者数が少ないことを勘案しても、この分野での科学的な貢献、情報発信が遅れている。短期的な成果が求める中で特定の専門分野に研究者が集中しており、事実、感染症、ウイルス研究者の減少がこの状況につながっている。また、縦割り構造の中で社会現場と基礎研究者との連携が十分でないことも要因といえる。

2019年10月に開催された「世界科学フォーラム」では、宣言の第一の柱として「Science for global well-being」が示されたが、このCOVID-19禍において「科学技術が市民のwell-beingにいかに貢献できるか」という課題がより明確になった。市民のエンパワーメント発揮に向け適時適切に情報を発信すること、研究コミュニティが結集し連携協力すること、分野やセクター、国境の壁を超えることが求められている。この認識の下、研究者、研究コミュニティは「社会のための科学、社会における科学」を実践すべきであり、私たちJSTも「公平性」「透明性」「包摂性」「社会からの信頼」の原則をもってこの難局に取り組んでいく。