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帝国データバンクと産学連携

株式会社帝国データバンク データソリューション企画部 総合研究所 主任 平峰 芳樹

2020年11月15日

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帝国データバンクと主な産学連携

株式会社帝国データバンク(以降、TDB)は、1900年の創業以来120年にわたって信用調査を行ってきた企業だ。信用調査とは、企業と企業が取引をする際に、取引相手を知るために行うもので、取引をするにあたって「信用」できる相手かどうかを判断するために行われる**1

企業が取引しようとする相手を訪問して聞いて回るのは困難なため、TDBが代わりに企業を訪問し、経済状況や長所、技術力など「信用」を裏付ける情報を集め、信用調査レポートを提供する。全国83カ所に及ぶ事業所を活用して、現地に直接赴(おもむ)き、一次情報の収集に努めている(図1)。

図1
図1

TDBは長年の調査の中で得られた大量の企業情報をデータベースとして蓄積してきた。この企業データベースを「企業ビッグデータ」と呼んでいる。データ構造化、アルゴリズム開発、アウトプット・指標化という流れを「ビッグデータのバリューチェーン」と定義しており、大学との連携は、このバリューチェーンを支える要素として位置付けられている。

2011年に東京工業大学を皮切りに、TDBは様々な大学と共同研究契約や連携協定を結び、今では13の大学・研究室と連携している。2018年には一橋大学と連携協定を結び、「一橋大学経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(TDB-CAREE)」を設立した。このセンターでは、TDBのもつ企業データを用いて、日本の企業構造・産業構造・地域経済等とその長期的な変化に関する実証研究を行い、研究成果を発信している。一橋大学の研究者だけでなく学外の研究者も受け入れることで、幅広く研究活動を行っている(図2

図2
図2

TDB-CAREEでの取り組み

TDB-CAREEで取り組んでいるプロジェクトをいくつか紹介したい。岡室博之教授(一橋大学)らの取り組む帝国銀行会社要録の電子化プロジェクトでは、TDBの前身である帝国興信所が発刊していた帝国銀行会社要録を電子化し、公開するとともに、同データベースを用いて実証研究を行っている。恩地一樹教授(大阪大学)は、消費税が企業の売上高をどのようにゆがめるのかということに着目し、TDBの社員と共同で研究を行っている。中島賢太郎准教授(一橋大学)、手島健介准教授(一橋大学)、山﨑潤一助教(神戸大学)のグループは、企業立地の変遷に関する研究を行っている。大山睦准教授(一橋大学)は、企業間取引ネットワークの特徴から新型コロナウイルスの企業への影響の伝播をモデル化する研究、原泰史特任講師(一橋大学)は新型コロナウイルスの感染過程と対応策の効果のモデル化やパチンコホールの休業など、新型コロナウイルス感染症に関連する研究にも積極的に取り組んでいる。筆者自身も、ディスカッションペーパーとして新型コロナウイルスに関する研究を公開している。このように、様々な領域の研究者が「帝国データバンクの企業データを使って研究をする」という旗の下に集まり、日々切磋琢磨(せっさたくま)している。

日経ビジネス2018年10月1日号で取り上げられた「これが大手110社のエコシステムだ」**2も一橋大学との連携から生まれた成果の一つだ。影響を受ける先を企業間取引ネットワークから抽出するアルゴリズムを用いて企業エコシステムを定義した。特集では、企業エコシステム単位で集計することで、企業のビジネスモデルの分析を行っている。企業エコシステムの考え方は、2020年版中小企業白書でも取り上げられるなど、実社会への展開が進んでいる。

産学連携における課題とその解決に向けて

産学連携において問題となるのは「期間」と「目的」だ。一つ目の「期間」の問題は、企業が短期間での成果を求めてしまう点にある。企業の場合には研究開発にも相応の成果が求められ、1年単位で評価されることも少なくないが、研究の場合には1年で得られる成果は限定的となる。このような「期間」に対する認識のズレが、産学連携の成功を阻害することになる。

二つ目の「目的」の問題は、企業の目的と大学側の目的が異なる点にある。企業は研究の成果をビジネスで利用し、利益を創出することが一番の目的であるのに対して、研究者は研究を行い、公表することが目的である。どちらかの目的だけが重視されてしまうと、関係性が崩れてしまう。これらの二つの問題を解消するために設けたのが、連携協議会という枠組みである(図2)。連携協議会では、一橋大学からは研究科長が、TDBからは役員が参加し、共同研究に関する様々な議題について検討を行っている。このように実務者だけでなく決裁権者を含めた会議の枠組みを設けることで、連携の方向性を定めることができる。

様々な産学連携の形

東京工業大学や一橋大学のような研究センターではなく、個別の研究室との共同研究も行ってきた。東京大学の柴崎研究室、渡邊研究室、城所研究室、九州大学の馬奈木研究室、横浜国立大学の池島研究室、北海道情報大学の伊藤研究室などだ。これらの研究室との共同研究では、空間経済や地域経済、可視化、持続可能な開発目標(SDGs)といった研究室の特徴にあった共同研究を行っている。共同研究先の研究室にはTDBの社員が研究員として所属することで、共同研究の推進や人材交流を図っている。また、研究室との共同研究という形式ではなく、TDBの客員研究員という形で学生の雇用も行っている。

研究だけでなく、教育面でも大学との連携を進めている。滋賀大学や横浜市立大学をはじめとするデータサイエンス学部では、TDBが長年の企業データを扱う中で培ってきたデータの前処理について、受講者が実際にデータを触って、前処理を行う演習型の講義を行っている。さらに兵庫県立大学との連携協定の一環で、姫路西高校でプログラミング言語Python(パイソン)の講義を担当するなど、教育分野でのTDBの役割は拡がりを見せている。講義だけでなく、インターンシップ形式で実際の業務に触れる機会を設けている。データ活用において8割を占めるともいわれる前処理を実践的に学習できる環境を作ることで、データ活用人材の育成を支援している。

帝国データバンクの産学連携のこれから

このようにTDBは大学との連携を通じて、研究開発を推進はもちろん、社内・社外のデータ活用人材の育成にも取り組んできた。今後は、このような大学との連携を通してビッグデータのバリューチェーンをより強固にし、企業データを用いた「企業の健康診断」のような社会の見方を提示していくことを展望している。企業ビッグデータを用いて、物理学、経済学、データサイエンスといった複数の分野から、経済現象を科学的に捉え、企業・経済の過去〜未来を見通す方法を研究・開発することで、中小企業を支援するサービスを展開していく。

参考文献

**1:
株式会社帝国データバンクホームページ「信用調査とは」
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**2:
「これが大手110社のエコシステムだ」,『日経ビジネス』2018年10月1日号,p.24-27,日経BP社.
「取引構造の実態」,『中小企業白書』2020年版,p.Ⅱ202-Ⅱ211,中小企業庁.
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