リポート

IoTで遠隔漁獲体験

国立高等専門学校機構 鳥羽商船高等専門学校 亀谷 知宏

2020年11月15日

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漁獲体験アクティビティで地域活性化

鳥羽商船高等専門学校が位置する鳥羽市は、新鮮な魚介類や周辺地域の観光名所で全国有数の観光地として知られ、第三次産業が地域経済を支えている。つまり鳥羽市の今後の発展には観光事業のさらなる活性化がカギを握っている。近年、観光業界において単に観光名所に訪れるだけでなく、その地で農村体験や漁業体験をする、アクティビティ型のツアーが人気となっている。そこで観光客らがパソコンやスマートフォンなどで漁獲体験するシステムを考案した。

水産業にIoTを導入

近年、農業分野では急速にIoTが導入され、従来生産者が自ら行ってきた収穫、灌漑(かんがい)などの作業が一部自動化されるなど様々なシステムが導入されつつある。それらの中で、遠隔で害獣を捕獲するシステムに着目した。この害獣捕獲システムは、檻の入口にある柵をケーブルにより、開いた状態でピンに固定し、獲物が檻に入ったときにピンを外すことで柵が自重により落ち、檻が閉まる仕組みである。この害獣捕獲システムを水産業に応用することを着想し、ICTを得意とする中部電力グループの株式会社中電シーティーアイ(愛知県名古屋市)と協力しながら観光客をひきつけるアクティビティの開発を進めてきた。

遠隔漁獲カゴシステム「You魚キャッチャー」

遠隔漁獲カゴシステム「You魚(うお)キャッチャー」は、観光客などのユーザーが漁獲カゴに取り付けられた水中カメラの映像を専用サイトから見ながら、獲物が入ったタイミングで遠隔で捕獲するシステムである。

実際の装置は、獲物を捕獲するための漁獲カゴと、カゴの柵の閉鎖や電力供給、通信を司る制御箱から構成される。漁獲カゴは海中に沈め、制御箱は海上の筏(いかだ)に固定して運用している。漁獲カゴは図1-aに示すように直径90cm、高さ90cmの砲弾型をしており、17cm×17cmの開口部が2カ所ある。開口部には柵を取り付け、バネの力で閉鎖する機構となっている。カゴにはさらに内部の様子を観察するために防水処理を施したカメラと、夜間でもカゴ内部を観察できるように投光器が取り付けられている。制御箱にはケーブルを引っかけるピンを外すためのソレノイドラッチ、通信などを行うためのマイコンなどが格納されている。漁獲カゴの柵は、開いた状態で海上に設置されたピンにケーブルで固定され、ユーザーが捕獲を指示したときにソレノイドラッチが作動することでピンが外れ、バネの力により柵が閉まる仕組みである(図1-b)。

図1
図1 漁獲カゴシステム

潮位の影響

本システムと害獣捕獲システムで大きく異なる点は、柵とピンの位置関係である。害獣捕獲システムは柵もピンも常に同じところに固定されているため24時間相対的な位置関係は変わらない。一方本システムは、柵は海中に、ピンは海上に設置しているため、潮の満ち引きによって柵と制御箱の相対的な位置関係が変わってしまう。そのため図2-aに示すように満潮時にカゴが海底に接地するようなケーブルの長さにした場合、満潮時はケーブルが張った状態になるため柵は開いているが、干潮時など潮が引いたときは図2-bのようにケーブルがたわみ柵が閉じてしまう。この潮位による問題に対してケーブルをチューブに通すことで柵とピンとの距離が変化してもケーブルの張力が保てるようにし、潮位に影響を受けないシステムを実現した(図2-c)。

図2
図2 潮位の影響

今後の展望

構築したシステムを、2020年3月に鳥羽市内にオープンした1棟貸しの宿泊施設で漁師体験できる「Anchor.(アンカー)漁師の貸切アジト」にて試験的に運用し、同時に長期間海中に沈めたときの防水機能の確認や、その他腐食の影響について検証、改良を行っている。さらにカゴ内へ餌を投入する機能の追加などによりエンターテインメント性の拡充や、獲物がカゴに入ったときにユーザーにメールやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで通知するシステムを検討している。