リポート

エゴマ油の粉末化で広がる用途

島根大学 学術研究院 農生命科学系 准教授 吉清 恵介

写真:島根大学 学術研究院 農生命科学系 准教授 吉清 恵介

2020年11月15日

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プロジェクトの概要

一年草の植物「エゴマ」の種子から採れるエゴマ油は、オメガ3(ω3)脂肪酸の一種であるα-リノレン酸(ALA)を約6割と高濃度で含む。魚の消費量が減少している現代において、食品から効率よくω3脂肪酸を摂取する手段として、またベジタリアン可食なω3脂肪酸として、エゴマ油が近年注目を集めている。

2015年前後にはテレビでの紹介が増え、それをきっかけにエゴマ油の認知度が高まった。島根県では、それよりも約10年前からエゴマ油の商業生産が行われていたため、需要増加にいち早く対応することで国内産エゴマ油の産地の一つとして認知されるようになった。

筆者らは、「加工食品に容易に添加できるエゴマ油」を目指してエゴマ油の粉末化を試み、その食品原料としての性質を研究した。そして島根大学発のベンチャー企業である株式会社S-Nanotech Co-Creation(株式会社SNCC)にて、その成果を「エゴマ油粉末」という形で商品化するに至った。

研究開発の背景と産学連携

魚介消費量の減少で不足するω3脂肪酸をエゴマから

ω3脂肪酸とは、メチル基末端から三つ目の炭素原子に二重結合を有する多価不飽和脂肪酸の総称であり、必須栄養素の一つである。ヒトを含む哺乳(ほにゅう)類は、摂取したω3脂肪酸を代謝する能力を有するものの、ω3脂肪酸を新たに作り出すことはできない。そのためω3脂肪酸は食事から摂る必要がある。青魚に多く含まれる「ドコサヘキサエン酸(DHA)」や「エイコサペンタエン酸(EPA)」がω3脂肪酸として有名であるが、近年は植物に含まれる「α-リノレン酸(ALA)」が新たに注目を集めている。

この背景の一つに、日本人の食習慣の急速な変化がある。令和元年(2019)度の水産白書によると国民1人当たりの魚介類消費量は2001年をピークに減少を続けており、それに伴いDHAとEPAの摂取量も減少していると考えられる。この減少を補うために、また、より積極的なω3脂肪酸の摂取のために、植物由来のω3脂肪酸であるALAが注目されている。ALAの摂取源として特に注目されているのが、一年草のエゴマ(写真1)の種子から採れるエゴマ油である。エゴマ油は、全脂肪酸におけるALAの割合が約6割と高いことが最大の特徴であり、これを食べる事で効率よくω3脂肪酸を摂取できると期待されている。また様々な理由で魚介類を食べない人にとって、植物由来のω3脂肪酸は極めて重要な栄養素であり、食の多様性への対応の面からも注目されている。

写真1
写真1 実をつけた未熟なエゴマの穂

島根県では、県西部の邑智(おおち)郡川本町や県東部の仁多(にた)郡奥出雲町といった中山間地域で、十数年前からエゴマ油の生産が精力的に行われており、今では県内の多くの地域で栽培されるようになった。しかしながらエゴマ油は常温で液体であり、また他のω3脂肪酸と同様に酸化されやすく加熱調理に向かないため、加工食品への添加が困難であるという利用上の弱点がある。筆者らはこれらの問題点を解決することで、エゴマ油の用途の拡大とさらなる高付加価値化を実現し、島根県のエゴマ油産業の活性化に微力ながら寄与したいと考えた。そこで本学の産学連携コーディネーターに相談し、島根県内のエゴマ油生産企業への訪問の機会を得た。その後、2014年度には、島根県の助成金への採択を受けて研究開発を進め、2015年度には、エゴマ油の粉末化に関する研究会を発足させ、産学官連携を深めた**1。その結果、酸化安定性と体内吸収性に優れ、幅広い形態の食品に添加可能な「エゴマ油粉末」の開発に成功し**2、その成果をSNCCにおいて商品化した。

写真

大学発ベンチャーにおける商品化

株式会社SNCCは2018年10月に設立され、山陰合同銀行により設立された「しまね大学発・産学連携ファンド」の出資を受けた島根大学発のベンチャー企業である。同社は、島根大学ナノテクプロジェクトセンターの技術シーズをはじめ、様々な学内外のアカデミックな研究成果に対して、幅広く研究開発支援や事業化支援を行う機能を持つ。

エゴマ油粉末は、同社の「機能性食品及び食品添加物の製造及び販売」事業の一つとして、会社設立時に採用されたものである。特にエゴマ油粉末の商品化においては、生産・販売業務委託先との交渉や契約の締結など、大学教員である筆者には不慣れなことを重点的に支援していただき、商品化に至った。

製品の概要

小麦粉のようなエゴマ油粉末

エゴマ油粉末は、分子カプセルの中にエゴマ油を構成する脂質成分を部分的に封じ込めることで作られる。分子カプセルとして、食品添加物である環状オリゴ糖(シクロデキストリン)を利用している。シクロデキストリンは分子中央に疎水性の空洞を有しており、その空洞内に疎水性の分子、または分子の疎水性部分を取り込み(包接し)、包接錯体と呼ばれる錯体を形成する性質がある。これまでにシクロデキストリンが様々な脂肪酸を包接し、それらの包接錯体が固体として回収されること、さらに包接錯体中の脂肪酸の酸化安定性が向上する事が報告されていたが、包接錯体として摂取した脂肪酸あるいは脂肪酸を含む油脂の体内吸収性については、筆者の知る限りでは詳しく報告されていなかった。そのために商品開発にあたっては、エゴマ油粉末(シクロデキストリンとの包接錯体)として摂取したエゴマ油の体内吸収性について詳しく調べた。そしてラットを用いた体内吸収性の実験結果から、エゴマ油粉末として摂取することで、エゴマ油の体内吸収性が向上することが示された。

製品には、島根県の企業から購入した島根県産のエゴマ油が、重量で約15%含まれる。液体のエゴマ油は黄金色の透明な液体であるが、エゴマ油粉末は白色で小麦粉のような手触りである(写真2)。味、匂いに大きな特徴はなく、これにより添加する食品の風味を損なうことは少なく、幅広く利用できる食品原料となった。

写真2
写真2 エゴマ油粉末

今後の展望

ゼリータイプの子供向けサプリメントも

エゴマ油粉末は2020年初頭に商品化されたが、新型コロナウイルスの影響により展示会などでの宣伝が困難な状況である。このような状況下ではあるが、エゴマ油粉末入りのゼリータイプの子供向けサプリメントの開発が進みつつある。今後は、ω3脂肪酸の摂取を目的としたエゴマ油粉末の利用に加えて、既存のサプリメントなどへのω3脂肪酸強化による差別化など、幅広い利用法を検討する必要がある。

参考文献

**1:
丹生晃隆,吉清恵介,山崎幸一,橋本道男.島根県におけるエゴマを通じた産学官連携
―エゴマ油の粉末化による新規食品開発―.産学連携学会第13回大会講演予稿集.2015,p.66-67
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**2:
Yoshikiyo, K., Yoshioka, Y., Narumiya, Y., Oe, S., Kawahara, H., Kurata, K., Shimizu, H., Yamamoto, T., Thermal stability and bioavailability of inclusion complexes of perilla oil with gamma-cyclodextrin, Food Chemistry, 294: 56-59, 2019
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