研究者エッセイ

プランクトンとしての海洋プラスチックゴミ

東京大学大気海洋研究所 教授 津田 敦

写真:東京大学大気海洋研究所 教授 津田 敦

2020年10月15日

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プラスチックとプランクトン

プランクトン(浮遊生物)とは、遊泳力が弱く水の動きとともに漂う生物のことである。一般的には、顕微鏡で観察するような微小な生き物を想像するが、ビゼンクラゲのような大型のクラゲや30mを超えるヒカリボヤ(脊索動物)もプランクトンである。プランクトンの言葉の定義から考えると、海洋プラスチックゴミは非生物という点を除けば、プランクトンに近い存在であり、プランクトンの研究で培われた知識や経験は、多くの示唆を海洋プラスチックゴミ問題に与える可能性がある。

海洋プラスチックの問題

プラスチックは可塑性(かそせい)に優れ、化学的に安定で、加工が容易な素材として、多用され、現在年間2億8000 万トンが生産され、一部が海洋に流入していると考えられている**1。流入したプラスチック製品は、化粧品などに使われるマイクロビーズなどの一部の例外を除けば、大きな粒子として海洋に流入するが、比重が海水より軽いポリエチレン、ポリプロピレン製品は、海洋表層を漂いその過程で、海岸への漂着、再漂流を繰り返し、物理的砕波、熱・紫外線による分解を経て、小型化していく。海洋を漂うプラスチックゴミは、生産量の増加とともに、外洋域も含めた全海洋で増加傾向にあり、すべての海洋生物はその暴露に晒されている**2。海洋プラスチックゴミの海洋生物にとっての有害性は、海鳥など大型生物で報告される、誤飲・誤食による消化機能障害が比較的古くから報告されてきた。プラスチックは化学的に安定で我々が使う食器などにも使われてきたため、有害物質として認識は遅れたが、可塑剤や難燃剤として添加される化学物質や、再吸着した親油性の有害物質のリスクが近年、懸念されている**3。このような研究の現状を俯瞰(ふかん)したとき、直近で進めるべき研究は二つあると考えられる。一つは、プラスチック粒子の挙動と運命(最終的行先)、二つ目は生物影響である。

海洋プラスチックのサイズ分布と挙動

海洋プラスチックゴミが、亜熱帯循環など還流域の中心部に集積することはいくつかの報告があり、Moore は太平洋亜熱帯循環域で、プラスチック粒子の現存量は、プランクトン量を超えていることを報告している**4。昨年、私も世界で最も透明度の高い南太平洋亜熱帯循環域で、プラスチックゴミが有意に多かったことを身をもって経験した(写真)。亜熱帯循環域は収束域(表層水が下層に向かってゆっくりと沈みこむ海域)であるため、浮力を持ったプラスチック粒子が集積されることは予想通りであるが、プランクトンとは好対照を見せる。亜熱帯循環域は、収束域ということもあり、表層への栄養塩の移動を妨げる成層が深く、貧栄養海域であり、生物量は極めて低く海の砂漠と呼ばれる。なぜ、プランクトンは少なく、プラスチックは多いのか?これは、プランクトンは再生産され、それが食物連鎖やその他の作用で除去されるのに対して、プラスチック粒子は、その作用が働かない、または働きづらいことを示唆している。貧栄養な亜熱帯海域においても、植物プランクトンは3日に1回程度の分裂を行い、それと同じ速度で除去されているため、植物プランクトンとその食物網に連なる生物量は低くなる。このプランクトンの時間スケールと、平均滞留時間が3年**5というプラスチック粒子の時間スケールの違いが、最も注目すべき差である。

漁具由来と考えられるプラスチックゴミ(長径1m程度)
白鳳丸KH-19-6次航海において南緯30°西経90°(東部南太平洋亜熱帯域)で目視された
漁具由来と考えられるプラスチックゴミ(長径1m程度)

海洋には様々な粒子が懸濁(けんだく)しているが、そのほとんどは生物または生物起源の粒子である。細菌、植物プランクトン、動物プランクトン、魚、海獣類などが生物粒子であり、それらの死骸、糞、マリンスノーのような凝集体が生物起源粒子である。一般的に小型生物のほうが、成長速度が速く、摂餌(せつじ)や凝集によって粒子は大型化し、大型粒子の寿命は比較的長い。これら合成と分解のプロセスがバランスし、海洋粒子のサイズ組成は一定の比率が保たれている**6。横軸に粒子のサイズをlogスケールでとり、縦軸を存在量(重さや炭素量)とすると、ほぼ水平な横線となる。すなわち、単位水量当たりの10-100μの大きさの植物プランクトン量と10-100mのクジラの生物量はそれほど変わらない。

さて、プラスチック粒子は、これらの循環やバランスに組み込まれているのだろうか?一般的に定量されているプラスチック粒子(5㎜以上)が海洋表層において数年の滞留時間を持つことは、上述の循環にプラスチック粒子が組み込まれていないことを示唆する。しかし、もっと小型のプラスチック粒子(植物プランクトンと同等の大きさ)はどうだろうか? この大きさの粒子を摂餌するのは、視覚を持たない小型の甲殻類や単細胞生物である。1980年代より実験室内ではマイクロプラスチックビーズを、代表的な粒子食動物プランクトンカイアシ類や細菌食者である、微小べん毛虫に摂食させ、摂餌率や消化管滞留時間を求めていたので、魚類や鳥類の誤食よりは高い確率で、微小プラスチック粒子はこれらの生物に取り込まれていると考えられる。これら生物の糞は餌生物よりはるかに高い沈降速度を持ち(カイアシ類の糞では100m/日を超える)、水中から速やかに除去される。また、凝集プロセスは、比重の重い珪藻(けいそう)や円石藻(えんせきそう)の殻が核となり沈降していく過程で多くの粒子をからめとりながら沈降・成長する過程で**7、大型の浮力を持った粒子では凝集しても沈降には至らないが、小型の粒子であれば非選択的にからめとり沈降除去すると予想される。すなわちプラスチック粒子は、そのサイズによって運命が大きく異なる可能性がある。大型粒子としてのプラスチックは、生物過程、物質循環過程に取り込まれず海を漂うが、紫外線や砕波によって小型化し、植物プランクトンサイズ(1-100μm程度)になった途端、生物過程、物質循環過程に取り込まれ日の単位で海洋表面から除去される可能性がある。

磯部が報告したニューストンネット(目合い0.33㎜)で採集したプラスチック粒子のサイズ分布では、従来報告されている5㎜以上のプラスチック粒子と同等または若干多い個数のプラスチック粒子が0.3-5㎜の画分にも観察されている**8。しかし、破砕というプロセスを考えれば、100分の1の大きさの粒子は100倍の個数がなくてはならない。したがって、微小化したプラスチック粒子は、除去されているか、または、ニューストンネットでは採集されない水中に分布を広げているかどちらかである。破砕プロセス、除去プロセスを明らかにしていくことが極めて重要である。

生物影響や我々が取り組んでいるプロジェクトに関しては山下**9や道田**10を参照願いたい。

参考文献

**1:
高田秀重・山下麗「海洋プラスチック汚染の概況と今後の課題」,海洋と生物 36, 555-564, 2015
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**2:
Yamashita R. & Tanimura A. Floating plastic in the Kuroshio current area, western North Pacific Ocean. Mar. Pollut. Bull., 54, 485-488, 2007
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**3:
Mato, Y., Isobe T., Takada H., Kanehiro H., Ohtake C., Kaminuma T. Plastic resin pellets as a transport medium for toxic chemicals in the marine environment. Environ. Sci. Technol., 35, 318-324, 2001.
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**4:
Moore, C.J., Moore S.L., Leccaster M.K., Weisberg S.B. A comparison of plastic and plankton in the North pacific central gyre. Mar. Pollut Bull., 42, 1297-1300, 2001
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**5:
Isobe, A. Iwasaki S., Uchida K., Tokai T. Abundance of non-coservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066. Natul. Comm. https://doi.org/10.1038/s41467-019-08316-9, 2019
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**6:
Sheldon, R.W., Prakash A., Stclife Jr. W.H. The size distribution of particles in the ocean. Limnol. Oceanogr., 17, 327-340, 1972
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**7:
Jackson, G.A., Burd A,B, , Aggregation in the marine environment. Environ. Sci. Technol., 32, 2805-2814, 1998
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**8:
磯部篤彦・徳茂昂子・中島悦子「漂流するプラスチック微砕片の物理学」, 海洋と生物 36, 573-578, 2015
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**9:
山下麗・高田秀重「さまざまな栄養段階の海洋生物へのプラスチック摂食の影響」海洋と生物 36, 606-611, 2015
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**10:
道田豊「海洋プラスチックごみの実態解明に関する研究」港湾荷役 65, 126-132
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