連載SDGsと地方創生

(2)国家間の格差と持続

公立小松大学 顧問 林 勇二郎

写真:公立小松大学 顧問 林 勇二郎

2020年10月15日

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近代になって、人類は化石資源と科学・技術を活用した工業等の産業を創出することで、社会は大きく発展した。しかし、化石資源の多量な消費は地球規模の温暖化と気候変動をもたらし、人類が基盤とする自然環境を根底から揺るがしている。また、社会は大きく発展したが、それは工業社会にいち早く転換した先進国のことである。従来型の農業生産等に依拠する途上国、特に後発開発途上国は、経済、社会、政治の体制が整わないまま、劣悪な生活が常態化している。このような国家間の格差の不均衡は、グローバルな国際社会の基盤を不安定にしている。

自然環境と社会環境の基盤の揺らぎや不安定は、人類の生存や暮らしを危うくしており、それらの持続性の言及には、対象となる系とそこで起きている事象の把握が欠かせない。自然環境は、太陽の惑星である地球のリザバー(貯水池)であり、生物環境と社会環境を包摂(ほうせつ)している(前号の図1)。即ち、自然環境の系では、気象現象と生命活動が変わらぬ摂理をもって営まれており、産業革命以降の人類の非循環的な生産活動が、今日の地球環境問題をもたらしている。

国家間の格差や貧困は、生産から消費にかかる経済活動が営まれる社会環境の問題である。地球環境問題が、気象現象を引き起こしている地球規模の自然環境の系が対象であるのに対して、格差の問題は、経済活動が営まれるローカルな国家や地域社会と市場からなる系が対象である(前号の図2参照)。そして、このような系は、産業と市場経済の発展に伴って拡大するため、国家の問題は、国家を超えた全体系との関わりをもって論じなければならない。現在、196の主権国家が生産活動と経済活動を展開しており、互いに競争し協働するフィールドはグローバル市場である。

本号では、市場経済が地域から世界へと広域化し、やがてグローバル化する中で、国家の経済的な発展や格差を捉え、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットに照らして、後発開発途上国の振興の在り方について言及する。

市場経済の発展

農業生産等が産業の主体であった時代は、交易が行われていたとはいえ、経済活動は地域社会が中心であった。化石資源と科学・技術を活用する工業は、世界の各地で多様な製品・サービスの生産を可能とし、これらが農業生産品と一緒に上市されることで市場は拡大した。広域市場では、生産性の高い工業製品が競争を主導し、その一方で、生活に必要な食糧品等の需給が調整されることで、資本主義経済が発展している。

第二次大戦後は、米国を中心とする資本主義圏とソ連の社会主義圏との東西冷戦が続くが、計画経済が行き詰まると、1991年のソ連の解体により東欧諸国の社会主義体制は終焉を迎える。そして、欧州復興開発銀行(EBRD)の設立により自由経済への移行が進められ、市場経済は一挙に世界規模へと拡大した。第三次産業革命では、コンピューターやロボットが導入により、生産プロセスは進展したが、自由経済の流れは、生産プロセスにとどまらず組織や国境を超えた生産管理を促進させた。即ち、市場や労働力をも構成要素とする生産管理がサプライチェーンマネジメントであり、これにより市場はグローバル市場に発展した。

以上、市場経済は産業革命、経済の自由化、生産プロセスの合理化などにより、地域から世界、そしてグローバルへと拡大し、やがて欧州連合(EU)の国家統合や自由貿易協定(FTA)・環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの自由貿易に見られる、新たな枠組みへと進展している。世界貿易機関(WTO)が認めるFTAの数は、現在304件を数える。

国家の序列化

先進国は、産業革命や市民革命を通して、科学・技術と産業・市場を基本とする生産体制を整え、いち早く工業社会への転換を図った諸国である。また、これらの国々は、民主主義・科学技術・市場主義を規範とすることで、政治的にも経済的にも安定であり、主要先進7カ国と呼ばれるG7は、世界を主導する国として位置付けられる*1

途上国は、戦後の脱植民地化により国民国家を形成した、南米、アフリカ、東アジアを中心とした諸国である。宗主国に対して、長年にわたり農業生産物や天然資源を供給する従属の関係は、国家形成の遅れともに、資本・技術・人材を条件とする工業化への道を阻み、経済活動は低迷している。その一方、市場経済が熾烈になる中で、先進諸国などの技術革新は凄まじく、開発途上国の工業化に向けた障壁は一段と高くなっている。

このような状況の中での大きな変化は、社会主義圏諸国の自由経済への移行である。BRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国は、世界の29.2%の広大な土地と42.7%の膨大な人口を抱え、豊かな国内資源、歴史や文化などの潜在能力を有しており、計画経済の枠組みが外れることで一挙に発展を遂げる。図1に先進7カ国とBRICsの経済成長である国内総生産(GDP)の推移を示す。1990年後半以降、冷戦終結、改革開放政策、WTOへの加盟を梃(てこ)にした中国の成長が特に顕著であり、2000年代には日本や欧州先進国を抜き、世界第2の規模に成長している。

それに続くのが、途上国に労働力や資源を求める先進国の技術移転や投資、所謂(いわゆる)、サプライチェーン化である。韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)などの途上諸国におけるサプライチェーンは、労働集約型の軽工業から出発し、電気・電子機器や自動車、さらには半導体などの分野へと拡大している。G20は、主要先進国G7とBRICsに、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えた新興諸国であり、存在感を高めつつある。

図1:主要国のGDP
図1 主要国のGDP
National Accounts - Analysis of Main Aggregates、国際連合、2020より作成

国際協働の支援

以上の流れの中で、国際社会は途上国、特に後発開発途上国の支援を進めてきた。1945年に設立された国際連合は、植民地支配もしくは信託統治にあった100カ国に及ぶ国々を独立に導くとともに、様々な支援を行ってきた。1946年設立の国連児童基金(UNICEF)は、大戦後の子供たちの援助を目的に、193カ国の批准による「子供の権利に関する条約」の指針を下に活動を展開している。世界銀行は、各国の政府から債務保証を受けた機関に対し、融資、技術協力、政策助言を提供してきた。政府開発援助(ODA)は、先進国の政府および政府機関が行ってきた、後発開発途上国に対するGDPの0.7%の援助や出資である。

1990年代に入ると、国連は国家から人間主体の開発に方向を転換し、2000年に世界規模で解決すべき8つの共通課題からなる、国連ミレニアム開発目標(MDGs)を採択した*2。具体的な課題は、極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の完全普及の達成、ジェンダー平等推進と女性の地位向上、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延(まんえん)の防止、環境の持続可能性確保、開発のためのグローバルなパートナーシップの推進である。このうち極度の貧困の撲滅は、1990年には世界人口の約36%(約19億人)が、2015年には約12%(約8.4億人)に減少し、新規HIVやマラリアの感染者の減少においても成果が見られた。その一方で、サハラ以南アフリカなどは目標達成からほど遠く、開発から取り残されているのが現状とされる。

SDGsの概要

人類の持続可能な開発目標(SDGs)は、MDGsの後継として、2015年の国連サミットで採択された*3図2にSDGsの概要を示す。17の目標と169のターゲットは、MDGsで達成できなかった途上国問題と、これまで見過ごされてきた国内格差などの問題を包括的に捉え、生活と教育、産業と経済、社会と行政、環境と国土の4分野と、外部からの支援であるパートナーシップの分野によって構成される。先進国は、途上国の支援と自国の改善の両方への対応が求められるが、SDGsの分野を連関した全体のシナリオは、後発開発途上国の支援となっている。

図2:SDGsの概要
図2 SDGsの概要

目標1から7は、貧困、飢餓、健康と福祉、教育、ジェンダー、水とトイレ、エネルギーのアクセスなど、生活基盤の確立であり、人間の生存の権利や尊厳が重視されている。目標8と9は、科学・技術に依拠した製造・サービス業や市場を拡大するなど、産業と経済の推進である。目標10から12は、市民の権利と責任に裏付けられた社会と行政についてである。目標13から15は、地球環境問題に対する適応能力の拡充や強靭(きょうじん)性など、環境と国土の構築についてである。パリ協定の主目標は、温室効果ガスの削減による大気温度の2℃目標(1.5℃を追求)にあるが、これについては触れられてはいない。最後の目標16と17は、これまでの目標を達成するための、実施手段の強化と国際社会のパートナーシップである。

なお、SDGsは、将来の問題に対して誰一人置き去りにしないことをスローガンとしている。ジェンダーの平等、人や国の平等、住み続けられるまちづくり、つくる責任つかう責任、平和と公正などの目標は、SDGsのスローガンを強調するメッセージといえよう。

SDGsと後発開発途上国

2019年6月の時点で、後発開発途上国は47カ国にのぼる。図3に、SDGsが目標とする生活基盤、産業と経済、社会と行政、環境と国土の4分野と、後発開発途上国(LDC)の現状を対応させて示す。現状は国連による指定の条件を基本としている。また、パートナーシップは、現状を改善して、それぞれの目標を達成するための支援であり、資金、技術、能力構築、貿易体制、マルチステークホルダー・パートナーシップなどの事項よりなっている。

図3:後発開発途上国の成長モデル
図3 後発開発途上国の成長モデル

後発開発途上国における最も深刻な現状は、所得水準1.025米ドル以下の生活、栄養不足の人口割合、成人識字率と中等教育就学率の低さである。これらは、国民総所得(GNI)比0.15~0.20%のODAをもって、生活基盤の確立が目指される。不安定な農業生産、製造業などのGDP反映の低さ、小さな国内市場規模は、脆弱(ぜいじゃく)な国家経済の現状を示している。これらは、多角的貿易体制の促進やサプライチェーン化により、産業と経済の発展が図られる。内戦や紛争などの不安定な国情、道路や鉄道などのインフラの未整備、さらには小島嶼(しょうとうしょ)や砂漠地帯などの地勢的なハンデキャップは、後発開発途上国が抱える現状である。これらについても、それぞれの実情に応じた手段やパートナーシップなどの支援が期待される。

以上、後発開発途上国の成長モデルを、SDGsの目標とターゲットに照らして言及した。これまで先進国を中心に、国際的な協働と民間活力の下で、後発開発途上国の支援が行われてきた。SDGsは、これらの実績を踏まえた支援目標であり、全体で一つのシナリオを形成している。生活基盤の改善は、現状を抜け出すための直接的な支援であるが、産業と経済の発展は、外部からの支援によって、それらの現状を内発的に打破する仕組みである。特に、国外の民間企業によるサプライチェーン化は鍵となっているが、安価な労働力のメリットを引き出すには、国内の成人識字率と中等教育就学率の向上は必至である。また、開発途上国の中で、ある分野において開発の進んだ国が、別の途上国の開発を支援する南南協力による工程の連携、公平な多角的貿易の体制や市場アクセスの推進も重要であり、それには東南アジア諸国の発展がモデルとなろう。

(次号へ続く)

*1:
「21世紀の科学・社会を支える新たな教養のあり方を考える」、JST政策セミナー座談会記録、科学技術振興機構研究開発戦略センター、2016.12
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*2:
ミレニアム開発目標(MDGs)、国際連合広報センター
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*3:
人類の持続可能な開発目標(SDGs)、国際連合広報センター
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