特集大学発ベンチャー表彰2020

アーリーエッジ賞
分子標的農薬により安全安心な食を提供する

株式会社アグロデザイン・スタジオ 代表取締役社長 西ヶ谷 有輝

写真:株式会社アグロデザイン・スタジオ 代表取締役社長 西ヶ谷 有輝

2020年10月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

創“農”薬という分野に挑戦する企業であり、研究者自らがアントレプレナーシップ講座への参加を経て研究成果の社会実装のために起業をしており、これまでの資金調達や事業体制推進などの一連の流れが評価できる。これまでに無い分子標的農薬をデザインするものであり実用化による大きな社会的インパクトの創出を期待したい。

会社紹介

株式会社アグロデザイン・スタジオ(以下、当社)は、創薬ベンチャーの農薬版として、農薬の原体(有効成分の化合物)の研究開発を行っている。医薬業界において創薬ベンチャーは数多く存在しており、画期的な新薬を生み出すイノベーションの原動力になっているが、農薬業界において創薬ベンチャーはまだ珍しい存在である。一方で、近年は農薬の安全性に対する審査基準の厳格化から、既存農薬会社といえども新剤開発はリスクの高い事業となっている。そこで医薬業界のビジネスモデルを農薬業界に持ち込むことで、リスクの高い初期の研究開発を当社が担い、後半の開発と販売を既存の農薬会社が行うことで、安全性の高い画期的な農薬新剤が次々と生み出されるようなエコシステムを形成したいと考えている。

当社が研究開発中の農薬は、害虫や菌などの防除対象生物が持つ重要なタンパク質をターゲットとして、低分子化合物構造をデザインする分子標的農薬である。分子標的薬の研究開発は、医薬においては一般的であるが、農薬においてはメジャーな手法ではなかった。医薬では研究開発初期に直接ヒトに投与することはできないが、農薬の投与対象は昆虫・雑草・菌であるため、開発初期から多数の化合物を投与する「ぶっかけ探索法」が主流であった。しかし、ぶっかけ探索法で探索された薬剤は作用機序が不明で安全性が担保できないため、作用機序の明確な分子標的農薬が求められるようになってきた。そこで当社では、タンパク質の立体構造解析を活用した構造ベース創農薬法によって、新しい作用機序を持つ分子標的農薬の開発を行っている。具体的には、昆虫ホルモンの仕組みを利用したヒトに安全な殺虫剤や、作物の収量アップや環境保全に有効な硝化抑制剤などのパイプラインを持つ。

農薬のターゲット・タンパク質の結晶構造の図
農薬のターゲット・タンパク質の結晶構造

基礎研究の開始からベンチャー設立までの経緯

当社設立のきっかけは、創業者の西ヶ谷が東京大学大学院の博士課程在学中に東大連携大学院の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、当時は独立行政法人農業生物資源研究所)で始めた硝化抑制剤の研究にある。この研究はもともと硝化菌由来の酸化還元酵素の学術研究であったが、この酵素を阻害する化合物を創れば新しい硝化抑制剤になることに気が付き、硝化抑制剤の研究開発が始まった。2015年ごろにはリード化合物も創出されたが、アカデミア発農薬は近年ほとんどなく、実用化までに大きな壁が存在することが分かってきた。そこで、アカデミア研究と事業化のギャップを埋めるため、ベンチャー設立も手段の一つとして考えるようになった。

そこで東京大学/文部科学省による研究志向の起業家養成講座であるEDGEプログラム(2016年度)に参加した。このプログラムでは、研究成果と顧客ニーズのマッチングを重視しており、農薬会社へのヒアリングを行う機会を得た。その結果、アカデミアメンバーで構成されていた研究チームが考えていた研究目標では、農薬会社の求めるデータは得られないことが判明した。そこで農薬会社に注意深くヒアリングすることで、研究計画を大幅に見直し、実用化に即したものに変えた。

一方で、西ヶ谷は大学院生・ポスドクとして硝化抑制剤の実用化研究を続けていくことに限界も感じ始めていた。アカデミア研究者は定期的に論文や学会での研究発表が求められるが、知的財産戦略では開発中の研究データを秘匿することが重要になる。実用化のための長期的な研究は、アカデミアよりむしろベンチャーの方が取り組みやすいのである。そこで、アカデミアと農薬会社のギャップを埋めるため、当社は2018年3月に西ヶ谷によって起業された。その後、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のNEDO Entrepreneurs Program(NEP)への採択をきっかけに研究開発を進め、農薬ベンチャーとして国内初のベンチャー・キャピタルからのシード投資を受けることができた。

今後の抱負

現在は、東京大学アントレプレナーハブ(柏IIキャンパス)を拠点とし、NEDOのSeed-stage Techn ology-based Startups(STS)への採択を後押しに研究開発を進めている。当社の農薬の上市は研究開発が順調に進んでも2028年以降と長い期間が必要になるが、安全安心な農薬を世の中に普及させることを目指し、挑戦を続けたい。