特集大学発ベンチャー表彰2020

科学技術振興機構理事長賞
次世代スマートアパレルe-skin

株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO 網盛 一郎

写真:株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO 網盛 一郎

2020年10月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

ウェアラブルのスマートアパレルで実際に製品を上市し事業として成立している。また、経営方法においても日本だけではなくグローバル展開を目指した組織体制・経営方法で推進しており高く評価できる。日本発のスマートアパレルの実用化により、今後大きく成長することが期待される。

会社紹介

株式会社Xenoma(ゼノマ)は、東京大学/JST ERATO*1染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトからスピンオフして2015年11月に設立された、次世代スマートアパレルe-skinのスタートアップです。東大の伸縮性エレクトロニクスをコア技術として、高い伸縮性と洗濯可能な耐久性を有するPrinted Circuit Fabric(以下、PCF)技術を確立しました。このPCFを用いて普通の服の着心地のまま複数種・複数個のセンサーを搭載したものが“次世代”スマートアパレルe-skinです。

従来のウェアラブルデバイスや心電計測シャツは、手首や心臓周辺などの限られた部位からしか情報を得ることができません。e-skinが次世代たる所以(ゆえん)は、全身の好きな場所にいくらでもセンサーを配置し、それらをPCFの回路でつなぐことによって全身センサーシステムとした点にあります。これにより心拍や呼吸のような生体情報だけでなく、高精度のモーション情報も取得できるようになり、一気に応用範囲が広がりました。睡眠を見守るパジャマe-skin Sleep、スタイリッシュな筋電気刺激スーツe-skin EMStyle、世界一簡便に高精度モーションキャプチャーができるe-skin MEVAなど、日常生活における楽しみや利便性を向上すると同時に、予防医療につながるデータが得られる製品・サービスの提供を開始して、順調に事業成長しています。

先端科学技術を「社会に役立てる」ということ

筆者は18年にわたる大企業での新規事業開発を通じて、社会をよくするために科学技術がどうあるべきかを考えるようになり、「科学技術とはそれ自体は役立つ存在ではなく、それを役立てるという活動を通じて初めて役に立つものである」との考えに至りました。Xenomaはその実践として先端科学技術を社会に役立てるべく設立したという背景を有しています。ポスト高度経済成長期のわが国が科学技術に抱く期待は、右肩下がりの国内主要産業による市場縮小を上回る、米国のGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ集団、テンセント、ファーウェイ)に匹敵するような規模の新産業創生です。そして日本が目指すべきは、高度経済成長に支えられたBATH のフォロワーモデルではなく、GAFA のようなフロントランナーモデルでなければなりません。

そのような問題意識の中、2014年にJST/ERATOプロジェクトに中途参画し、インターフェースグループのリーダーとして筆者が目指したのは、理想的な生体情報取得ツールとそれを用いたヘルスケアビッグデータの構築でした。現在のビッグデータによるAI活用の潮流はスマートフォンやリストバンド型ウェアラブルに支えられていますが、われわれが自分たちの健康状態を知る上では情報の質・量ともに不足しているのは明らかです。東大の伸縮性エレクトロニクス=伸縮する導電性材料技術は、人間の全身を覆うセンサーをつなぐ回路を衣服上に形成するのに必須となる要素技術であり、自然な衣服として実現できればそれが理想的な生体情報取得ツールとなります。そして、そこから得られたデータを用いて予防医療サービスを提供するのが、筆者が先端科学技術を社会に役立てるストーリーでした。

次に重要と考えたのは、単に材料を提供するだけでなく、エンドユーザーがそれを利用する=社会価値を創造するところまでやる必要がある、という点でした。それはマイケル・ギボンスのモード論における従来型モード1=専門分野に依拠した伝統的な知識生産から転換し、モード2=専門分野を越えた超領域的(transdisciplinary)な知識生産への挑戦とも言えます。大学の産業貢献の一つに特許が挙げられますが、エンドユーザーが利用するものに使われなければ産業上の価値は生まれません。つまり、特許もまたモード1の知識生産です。Xenomaが事業性あるサービスを提供できるようになった背景には、大学時代からの友人である共同創業者の東京大学・染谷教授と筆者とがそれぞれ、アカデミアの研究開発(モード1)と企業の事業化(モード2)の役割を担ってきた信頼関係の上に成り立つ体制があります。

わが国の経済を支えるというにはまだまだほど遠くはありますが、Xenomaが科学技術への社会の期待に応える大学発ベンチャーのロールモデルとなるべく、スマートアパレルとヘルスケアビッグデータの世界的スタートアップとしてGAFA超えを目指します。

*1:
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 ERATO(エラトー)
本文に戻る