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防災ISO規格活動の開始 ―防災イノベーションに向けて

東北大学災害科学国際研究所 所長・教授 今村 文彦

写真:東北大学災害科学国際研究所 所長・教授 今村 文彦

2020年09月15日

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はじめに

わが国はこれまで様々な自然災害を受け、その被災経験から得られた教訓に基づき、知見を法規制や計画の策定、技術や製品の開発などに反映させてきた。また、法律や技術基準に従って、都市開発やインフラ整備を行い、事前に投資することで防災・減災の対応力を向上させてきた。さらには、防災文化を形成しながら、地域での資産・資源(経験・教訓、智恵、科学・技術)を地域の防災活動に生かすという「地産地防」というシステムも育み実践している。しかしながら、近年の災害像の変化や規模の増大により、残念ながら各地で被害を繰り返している。また、防災の取り組みも地域での格差が広がっているとの指摘もあり、従来の防災・減災の在り方の見直しも迫られている現状がある。また、世界に目を向けると、都市化・人口過密による脆弱性(ぜいじゃくせい)の高まり、社会インフラの未整備、防災啓発や教育の未浸透、などの課題により、深刻な被害を受けている。

このような状況下、東日本大震災の被災地である仙台において、2015年3月に国連防災世界会議が開催され、延べ15万人の参加の下、「仙台防災枠組2015-2030」が採択された。四つの優先行動および七つのグローバルターゲットが折り込まれ(図1)、世界での防災活動推進の指針となっている。この趣旨に沿って防災・減災の活動を新しく推進するための基本概念を定義し「国際標準化」を目指す中で、国際社会での防災力を向上させたい。さらに、わが国で生み出された防災技術やシステムを新しい防災産業の創出に結びつけ、継続・発展できる防災活動を目指したい。これが「防災ISO(国際標準化)規格」の目標であり、本文で、以下にその活動を紹介させていただきたい。

図1
図1 仙台防災枠組と防災・減災についての改善(KAIZEN)の取り組み

防災ISO規格に向けた活動

昨年(2019年)11月、世界BOSAIフォーラム(第2回)が仙台で開催され、国内外の産官学の関係者が一堂に集まり、現在の防災活動の課題や展望、協力の在り方が議論された。その企画セッションの一つが、「地産地防を踏まえた取り組みを国際標準化へー仙台防災枠組の実現化、仙台・宮城・東北からの発信」であった。基調講演、民間主体の取り組み事例の紹介、そしてパネルディスカッションが行われ、(1)日本の防災力とは何か、(2)防災力を高め続けるためにどうすればよいか、(3)国際標準化に向けての期待と課題、などが議論された。災害は地域特有のハザードに加え、そこでの防災活動や住民意識が強く関係しており、これらの対応を世界基準化にするのは困難であるとの意見があったが、近年のグローバル化や地球規模での気候変動もあり、国際的な視点や協力が不可欠であることから、防災ISO規格活動への賛同や支援の声が挙がった。

今年度(2020年度)には、経済産業省戦略的国際標準化加速事業(産業基盤分野に係る国際標準開発活動)で「Smart Community Infrastructure 活用した防災に関する国際標準化」の受託が決まり、東北大学が事務局となり本格的な活動が始まった。委員メンバーには、国際防災や国際標準化の専門家、独立行政法人国際協力機構(JICA)、中央官庁、自治体、民間企業、などに賛同いただき着任いただいている。国際社会における自然災害などに対する地域の防災力の持続的な向上に貢献するため、過去に多様な災害を経験した日本から、国連採択案件である仙台防災枠組2015-2030 の趣旨に沿ってスマートシティにおける防災・減災に必要なインフラ・システムなどに関連する国際標準の提案を行う準備が整ってきた。今後はISOでのWG(ワーキンググループ)の新規提案、テクニカルレポートの作成、IS(国際標準)に向けての本格的議論が始まる予定である。

防災ISO 規格ヘの期待

仙台防災枠組に加えて、国連のSDGs(Sustainable Development Goals)となっている分野(環境、防災など17分野)などに対応し、今までのわが国の経験・知見、技術の貢献が強化される。特に、地域の防災力は、ハード整備だけではなく、日々の暮らしの中で育まれるシステムが必要であり防災力を高め続けるシステムをいかに地域に実装するのかが重要である。ここに新しい標準化による【概念】として共通理念が形成されれば、様々な地域での防災の活性化が期待される。今回の国際ISOのコンセプトである地産地防を他の地域と連携できれば、わが国で開発された防災関連技術や製品・商品(保険関係)の性能が明確になり、諸外国に輸出(市場)を拡大することも可能である。自然災害(ある程度予測・評価出来る災害)に対して備えることにより他の災害(人為災害、気候変動、テロなど;予測が難しい災害)に対しても対応力を向上させ、日常生活の向上にもつながる。例えば、非常時の自然災害対応を強化することで、スマートコミュニティにおけるインフラ維持管理、情報コミュニティ形成、技術的なイノベーション促進、などの活動も強化することができると考える。

そのためにも、各地域での事前防災(計画、投資、実践と評価)が重要であり、それに、緊急対応、復旧・復興を視野に入れた総合防災・減災対策(地産地防)が不可欠である。特に、地産地防の考えを、仙台防災枠組の四つの優先行動に対応させ、スマートコミュニティ・インフラを活用した各対応フェーズでの対策を総合的に検討していくことが不可欠である。ここでは、関係のマルチステークホルダーの参画が必要であり、それぞれの役割(分担)と連携を定期的に確認し改善(KAIZEN)していかなければならない(図1)。

おわりに

今後、新しい国際標準化【概念】が実現化されれば、今まで経験に基づいた対処療法的な防災対応・対策であった状況に対して、モニタリングや評価を導入することが可能となり、改善(KAIZEN )すべき点などを明確にでき、防災力の総合的な向上につながると期待される。系統的な防災・減災効果の改善により地域の弱点を突いた被害の軽減を図ることが可能となり、負の経済効果も低減できる。

この【概念】は、例えば、東日本大震災後の仙台市の具体的な復興プランに関係する(図2)。大震災で沿岸部で津波の被害を受けたが、沿岸部では最低限必要な(レベル1に相当)海岸堤防を整備し、それを津波が乗り越えた場合は、海岸防災林といった自然の力を利用したり、既存のインフラ利用ということで道路をかさ上げ(盛土道路)、避難タワーの設置などにより多重防御を実現している。今後は、災害時に地域全体がブラックアウトにならないように、自律分散型のエネルギー管理を行うことが重要であり、センサーやドローンやAIなどを使った防災情報の収集と伝達、コミュニティの形成や備蓄文化の定着も検討されている。

仙台市は「仙台市経済成長戦略2023」を2019年3月に策定し、ICT 関連企業と幅広い分野の民間企業などとの協業を創出しイノベーションを促進するとともに、「防災×IT」(BOSAI-TECH)やドローンなどの実証実験などを通じた防災関連産業の創出を通して地域産業の活性化を目指している。今年度から、BOSAI-TECH イノベーション創出促進プログラムが開始されている。このように総合的なフレームの下で実施しながら、学術による新しい科学技術の導入、民間などによる投資と整備、行政による支援とプラットフォームの形成などの協力が不可欠であり、このような取り組みにより防災分野でもイノベーションが生まれることを期待したい。

図2
図2 復興プランとSmart Community Infrastructure 活用したレジリエントシティ構想
(仙台市での復興計画に加筆)*1

参考文献

**1:
外務省 仙台防災枠組2015-2030, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000071588.pdf
**2:
第2回世界BOSAI フォーラム,http://www.worldbosaiforum.com/2019/
**3:
仙台市 BOSAI-TECH イノベーション創出プログラム
http://www.city.sendai.jp/renkesuishin/jigyosha/kezai/sangaku/minkan/bosai-tech.html
https://sendai-bosai-tech.jp/#briefing

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