巻頭言

地域産業イノベーションの創出に向けて

愛媛大学 学長 大橋 裕一

写真:愛媛大学 学長 大橋 裕一

2020年09月15日

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愛媛大学は「大学憲章」に「学生中心の大学」「地域とともに輝く大学」「世界とつながる大学」という三つの理念を定め、「輝く個性で 地域を動かし世界とつながる大学」の創造を大学のビジョンとして掲げている。また本学は、国立大学に対する重点支援の枠組みの中で「地域貢献型」のカテゴリーを選択しており、地域のニーズに応える人材育成・研究を推進している。これを支える主要な戦略の一つが「地域産業イノベーションの創出」である。

本学の地域連携活動の中核を担う「地域密着型研究センター」には、「地域産業特化型研究センター」と「地域協働型センター」という二つのタイプがある。前者の代表が「南予水産研究センター」や「紙産業イノベーションセンター」であり、これらのセンターでは、教員と学生が当該地域に居住し、地域と密接に連携しながら地場産業の課題解決のための研究開発を進めている。この取り組みは「愛大方式」とも呼べるものであり、地域産業とのオープン・イノベーションを促進する原動力となっている。一方、後者のモデルが「地域協働センター西条」や「地域協働センター南予」であり、これらは、産学官連携、高大連携、リカレント教育などの幅広い分野において、地域のステークホルダーとの連携を強化している。

2018年からは、大学発ベンチャーの設立・育成を目的として、具体的な事業化計画がある研究に対して全学的に活動経費を支援している。また、会社設立・運営に関する「ベンチャー企業支援セミナー」を学内で定期的に開催し、教員にキャリアとしての起業を考えてもらう機会を設けており、起業過程において専門家の助言を仰ぐことができるように、弁護士、税理士、起業経験者などからなるメンター制度も創設している。大学発ベンチャー企業の創出が、地域経済の活性化、雇用機会の拡大、地域への人材定着、地域産業イノベーションの牽引(けんいん)につながることを期待している。

本学の「産学連携推進センター」のプロジェクトとして、学生のベンチャー起業設立を支援する「起業塾」を2020年4月に創設した。現在30人の学生有志が起業に向けた実践活動を開始している。「起業塾」の支援も目的として、学外組織「一般社団法人えひめベンチャー支援機構」を今年6月に設立した。これにより、これまで大学本体では難しかった、投資活動なども含めたベンチャー支援や、大学が保有する様々な教育・研究リソースを活用する事業を展開していくことが可能となる。

さて、新型コロナウイルス感染症は都市の持つ構造的脆弱性(ぜいじゃくせい)を明らかにするとともに、IoTやAI技術の活用を一層促進させることになったが、これはポストコロナ時代の働き方改革の下、地方回帰をもたらす機会となる予感がする。その中で愛媛大学は、地域の自治体、企業、あるいは大学間の連携をさらに強化し、スピード感を持って地域イノベーション創出の中核を担っていく所存である。

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