連載とある科学の研究管理者(アドミニストレーター)

#1 起源

本誌編集長 山口 泰博

2020年08月15日

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産学連携――このことを世間の人は果たしてどこまで理解しているのだろうか。

この分野のコアに立ち会うようになり常に抱いてきた疑問だ。この連載では、産学連携ってなに? 社会連携や地域連携と何が違うのか。活動を推進するには政府(政策)に基づき、都道府県市区町村などの自治体、大学や研究機関と研究者、産業界(企業)、地域社会、さらには金融機関が加わる産学官金連携など多くの人が関わる。そのため、それぞれの立場の違いから見えてくる指向の隔たりもありそう。

近年、少子化や高齢化による国の医療費や各種社会保険料の増大などが顕在化し、さらには自然災害や新型コロナウイルスといった想定外の試練も社会に打撃を与えている。

国や地方自治体の税収が落ち込めば、大学に配分される国立大学への運営費交付金や私立大学への助成金などが減ることになる。さらに少子化は、大学の根幹収入源である入学者数を減らしかねない。そのような社会を取り巻く環境とともに大学に求められる機能は大きく変貌し、産学連携の下、企業や地域社会と深く関わる産業を支援し自ら収入源の獲得に乗り出す地方創成に力を入れている。大学が民間資金の活用に積極的にならざるを得ない状況も存在する。

ヤクルトや味の素、東芝も

青色発光ダイオード(青色LED)やiPS細胞は、ノーベル賞受賞の後押しもあり、産学連携による事業創出のインパクトは大きかった。

テレビジョン技術の祖、高柳健次郎博士の浜松ホトニクス株式会社や装着型ロボット開発を手掛けるサイバーダイン株式会社などは大学発ベンチャーでもある。元をたどれば、ヤクルトや味の素、東芝なども産学連携からグローバル企業と成長した。

産学連携はこのようなインパクト事業ばかりではない。地域の中小企業や自治体などの課題解決のため、地方大学では様々な取り組みを実施する。

都道府県、地域の産業振興団体、商工会議所、銀行などが産学連携の各パートを担い、大学と連携する。例えば、地元のものづくり企業と共同で新製品を生み出す。公園の空間デザインで市民の憩いの場所を再生する。食の研究から地域の新ブランド食品を生み出すなどその種類は膨大だ。近畿大学の養殖マグロ(近大マグロ)やウナギの代替食とした「養殖ナマズ」(近大ナマズ)が話題になったがそれらも同様である。

文部科学省が2013年に立ち上げた「大学COC事業」。COCとはセンターオブコミュニティーの略で、大学が地域のコミュニティーの中心になり課題を解決しようという取り組みで、正式には「地(知)の拠点事業」という。さらに強化されたものが2015年にスタートした「COC+」。「地(知)の拠点大学による地方創成事業」だ。これは、大学が自治体と企業などとともに地方創成となる人を育てる活動で、そのために必要な教育カリキュラムを国が支援するものだ。COCが教育と研究を対象にしていることに対し、COC+の目的は、学生が地元に定着することである。いずれにせよ、地域を志向した教育・研究・地域貢献を進める大学を国が支援することで地域創成の期待が大きい。

教育と研究と社会貢献

大学の役割を三つ答えなさい。こんな街頭インタビューをした場合、三つ答えられる人はどのくらいいるだろうか。

専門分野を学ぶところといった認識は誰にもあるだろうから「教育」なら正答率は高いかもしれない。さらに「研究」と答えられる人はおそらくぐっと下がるのではないか。答えられずにインタビューアーが、研究と教えることで合点がいく姿が想像できよう。しかし、もう一つを答えられる人はほとんどいないのではないだろうか。

それは第三の機能として、2006年の教育基本法の改正によって「社会貢献」が追加され、大学の機能の三本柱と呼ばれるこの言葉の中に内包されているからだ。

ここでやっかいなのは、教育と研究はこの言葉だけですぐに連想できて分かりやすいが、社会貢献はあまりにも範囲が広く具体性に欠ける。さらにその社会貢献の中の一項目に産学連携が組み込まれていること、さらに産学連携からイメージできる人が一般にはほとんどいないことから、ごく限られた関係者にしか理解できず、教育や研究ほど浸透しにくい。知人に「(仕事は)何やっているの?」と聞かれ説明するとき、その仕事内容を話しても、理解されないのはこのような理由からだろう。

社会貢献について大学に限って言えば、学生による地域でのボランティア、キリスト教系大学が行う奉仕活動などはごく当たり前に行われてきた。近年では持続可能な開発目標(SDGs)の傘が社会全体を覆いその高まりがさらに広がり深まる。いったいどこからどこまでが従来の社会貢献で、産学連携や社会連携、地域連携による社会貢献の枠組みはどこまでなのか、SDGsの範囲はどこまでなのか。さっぱり分からない、そんな声が聞こえてくるほど複雑化している。

産学連携でいうところの社会貢献とは、地域社会、経済社会、国際社会など社会全体の発展への寄与という意味が込められていて、研究成果などを社会に還元し貢献しようというものだ。国際協力や公開講座、産学連携や社会連携などを通じた直接的な貢献が含まれ、近年では関係者の範囲のみで、産学連携や地域連携、社会連携、イノベーションと言った言葉で浸透しつつある。

大学が地域の企業や自治体、地域住民などと連携し、何のために、またどのようにして第三の機能である社会貢献を実践しているのか。一般的に大学は高等教育機関である「大学等」を指し、通常の4年生大学、大学院専門の大学、短期大学、高等専門学校(高専)、各種専修専門学校を意味するが、特にここでは、大学、大学院、高専に加え研究の専門機関としたい。

産学連携の実施状況 産学連携の肝はビジネス

文部科学省は2020年1月に、「平成30年度大学等における産学連携等実施状況について」を発表した。全国の大学などを対象に産学連携などの実施状況を2003(平成15)年度より毎年度調査しているもので、2018(平成30)年度は、全国の大学や高専、大学共同利用機関などの1,069機関を対象に調査を行った。

発表によれば2018年度の民間企業からの研究資金等受入額は約1,075億円だ。調査を開始した2003年度以降初めて1,000億円を超えた。

共同研究・受託研究・治験・知的財産などの研究資金の受入額はおよそ3,432億円と、前年度と比べ約143億円増加し、およそ4.3%増となった。このうち民間企業からの研究資金等受入額はおよそ1,075億円。前年度に比べ12.0%ほど増え115億円の増加だ。全体の伸びを牽引(けんいん)するのは683億円と全体の約63.5%を占める共同研究に対する受入額だ。

民間企業と実施する共同研究によって研究費を受け入れた額は、前年度と比較するとおよそ74億円増で12.2%も増加した。研究実施件数は2万7,389件で前年度よりも1,938件(7.6%)増加していることから、受入額・実施件数ともに増加傾向にある。

研究実施件数の個別実績を見ると、ベスト3は東京大学が1,797件、大阪大学1,243件、東北大学1,201件。京都大学1,098、九州大学739、東京工業大学679、名古屋大学666、慶應義塾大学652と続く。

民間企業との共同研究費受入額がもっとも多かったのは大阪大学で74億7,656万円だ。次いで東京大学( 7 2 億1,874万円)、京都大学(47億8,423万円)。

民間企業との共同研究に伴う1件あたりの研究費受入額は聖マリアンナ医科大学の1,052万円が最高額となったことは注目される。

日本での産学連携が活発化してきたのはここ16、7年だが、一般にはまだまだ浸透しているとは言い難い。しかし一歩一歩、確実に進展し深化してきた。

(次号へ続く)

2018年度 研究実施件数の個別実績

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