リポート

環境清拭材「Hydro Ag+」のインフルエンザ集団感染抑制効果

東海大学医学部外科学系 救命救急医学 准教授 梅澤 和夫

2020年08月15日

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はじめに

インフルエンザウイルスの環境残留について複数の報告がある。紙面、布、手指表面のインフルエンザウイルス残留は数時間との報告が多い**12。一方、ステンレス表面には数時間〜数日の間、感染性を有したまま残留するとの報告が複数ある**34。環境に残留したインフルエンザウイルスを消毒することによりインフルエンザの抑制効果が期待できる。

様々な消毒剤が存在するが、病棟環境は繰り返し汚染されるため、環境清潔度を保つためには、複数回の環境消毒が必要になる。しかしながら、1日複数回の環境消毒の実施は困難である。よって、拭き上げ後も抗菌活性が持続する消毒薬は有用性が高いと考えられる。そこで、神奈川県西部地区中学校において、富士フイルム株式会社が開発した徐放性銀粒子を含む持続性消毒効果を有する消毒薬(Hydro Ag+、富士フイルム)を用い、高度接触面消毒によるインフルエンザ抑制効果を検討した。

持続性抗菌活性を有する消毒薬の検討

まず、持続性抗菌活性を有する徐放性銀粒子を含む消毒薬(Hydro Ag+、富士フイルム)の消毒効果について検討した。Hydro Ag+は、シート製剤(Hydro Ag+/sheet)、液体製剤(80% エタノール含有、Hydro Ag+/Et-OH)、ワイプ製剤(液体消毒薬の含有ワイプ、Hydro Ag+/wipe)の3種類を検討した。

1)Hydro Ag+/Et-OH の最小発育阻止濃度の検討**5

Hydro Ag+/Et-OH とエタノール(Et-OH)の抗菌活性を検討した。Et-OH とHydro Ag+/Et-OH の10倍段階希釈系列を作成、黄色ブドウ球菌 (S.aureus) に対する抗菌活性を検討したところ、終濃度30%まで両者ともに抗菌活性を示した。Hydro Ag+/Et-OH は80%Et-OH 含有である。Ag とEt-OH の相乗作用が認められた。また、ウシ胎仔(たいじ)血清(FBS)懸濁菌液、実験汗(10% グリセリン・生理的食塩水)懸濁菌液に対しても抗菌活性の減弱は見られなかった。Hydro Ag+/Et-OH は、体液による消毒効果減弱に対し耐性があることが示唆された。

2)Hydro Ag+/Et-OH 塗布後の消毒効果の検討**5

Hydro Ag+/Et-OH 塗布後の消毒効果を検討した。直径90mm の滅菌プラスチックシャーレにHydro Ag+/Et-OH を500μL、1 回、200μL、5 回、10,000μL、1回、2,000μL、1回とHydro Ag+/sheet を比較した。S.aureus ATCC25923 株を生理的食塩水(NS)、FBS、実験汗に懸濁、Hydro Ag+ 塗布乾燥後の滅菌シャーレ、または、滅菌シャーレと同サイズのHydro Ag+/sheet に接種、1時間後、ブレインハートインフュージョン(BHI)寒天培地を20mL 注入し、37℃、24hr 培養、コロニー数を測定した。

NS 懸濁菌液、実験汗懸濁菌液共にHydro Ag+/Et-OH、200μL、5回塗布では抗菌活性が認められたが、他の塗布方法では抗菌活性が認められなかった。また、FBS 懸濁菌液では全ての塗布方法で抗菌化性が認められなかった。一方、Hydro Ag+ /sheet ではNS、FBS、実験汗懸濁菌液に抗菌活性が認められた。

Hydro Ag+のコーティング膜を形成するためには、大量を1回に塗布するよりも、少量ずつ塗布するほうが、効率的に有効なコーティングが可能であることが示唆された。5回以上、拭き上げ消毒を行うことにより、十分な抗菌活性を有するコーティング膜が形成されることは期待される。

一方、Hydro Ag+ /sheet は安定的コーティング膜が製品として形成されているが、シートが厚く、硬い素材のため、モニター画面のような平滑面への貼り付け使用が可能であるが、高度接触面である。ドアノブ、キーボード、手すりのような複雑な表面形状、急峻な曲面構造に貼り付けすることができない。複雑な表面形状の物には、Hydro Ag+/wipe の拭き上げによるコーティングを行うことにより、持続抗菌活性を付与することが可能になる。

環境消毒によるインフルエンザ抑制**5

2018/2019年シーズンにおいて神奈川県西部地区(松田町、中井町、山北町、南足柄市、開成町、小田原市、真鶴町、湯河原町)の中学校で、高度接触面をHydro Ag+/wipe を用い環境消毒を行い、インフルエンザの抑制効果を検討した。

対象

 対象校数/地域全中学校数(小田原保健福祉事務所 3/14 校、同足柄上センター 8/9校)
 対象学級数/地域全学級数115/288、対象生徒数/地域全生徒数3,375/8,080人

期間

 2018年11月1日~ 2019年3月31日のうち、各校3~5 か月間 実施

方法

Hydro Ag+ / wipe による拭き消毒
高度接触面の拭き消毒(生徒の机回り、教卓、電灯のスイッチ、ドアの取っ手部、階段の手すり、イス・トイレの座面)
生徒の机回り;1回/日、共有場所;1回/日~週(登校日のみ実施)

結果

神奈川県全中学校のインフルエンザ罹患数(対象地域を除く)は5,494人で罹患率25.3%であった(表1)。環境消毒参加校は4.3%~ 16.2%であった。

学級閉鎖は神奈川県全中学校335 クラス、5.3%で、環境消毒参加校では学級閉鎖はなかった。

基本再生産数(R0)は神奈川県全体(全年齢)では1.43 であったが、中学校(対象地域除く)では4.69と約3倍になっていた(表2)。一方、参加校の地域でのR0 は1.61 と1.85 で地域社会と参加校の差は無かった。

環境消毒によるインフルエンザ抑制効果が期待できるため、2019/2020 年シーズンにおいては参加校、参加地域を増やすべく検討中である。

表1 インフルエンザ患者数と学級閉鎖数**5
表1

インフルエンザ警報発令期間(2018/12/3-2019/2/24)
全中学;インフルエンザ様疾患施設別発生状況(神奈川県、除:小田原、足柄上)

表2 中学校と地域の基本再生産数(R0**5
表2

インフルエンザ警報発令期間(2018/12/3-2019/2/24)  mean(平均値)± SD(標準偏差)
全中学;インフルエンザ様疾患施設別発生状況(神奈川県、除:小田原、足柄上)

まとめ

教育環境(学校)は、インフルエンザ拡大のリスクであり、標準予防策に加え、環境消毒を追加することは、インフルエンザの感染対策に有用である。

参考文献

**1:
Greatorex JS. et al. PLoS One 2011; 6: e27932.
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**2:
Bean B. et al. J Infect Dis 1982: 146; 47-51.
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**3:
Perry KA. et al. Appl Envron Microbiol 2016; 16: 3239-3245.
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**4:
Thomas Y. et al. Clin Microbiol Infect 2014: 20; O58-O64.
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**5:
梅澤和夫他、臨床麻酔 2020: 44; 784-797
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