特集地域の商品をブランドにするヒント

宇大浪漫 地元酒造会社と連携して創り上げた大学オリジナルグッズ

宇都宮大学 名誉教授 元農学部附属農場長 津谷 好人

2020年06月15日

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宇大浪漫(うだいろまん)は、宇都宮大学農学部附属農場産の二条大麦(品種:ミカモゴールデン、2019年からニューサチホゴールデン使用)、サツマイモ(品種:ベニアズマ、2019年からベニハルカ使用)並びに麹用米(品種:栃木県産酒米)を全量原料として製造された麦焼酎(写真1)と芋焼酎(写真2)の商品名で、宇都宮大学グッズの中の一つである。宇都宮大学は「豊かな発想を地域に、新たな知を世界へ」をキャッチフレーズに、教育研究とともに地域貢献および産学官連携を進めている。こうした大学の理念に基づき、大学オリジナルグッズ開発を進めようという、当時の大学当局の企画に農学部附属農場が応募し、取り組んだ成果である。開発の経緯は次のとおりである。

写真1
写真1  宇大浪漫(麦焼酎)
宇大浪漫。この2本は2008年に販売開始した宇都宮大学農場産二条大麦「ミカモゴールデン」を原料とした本格麦焼酎。天然吟香酵母(左の青瓶)は、柔らかで、甘く、香り豊かな麦焼酎。花酵母「日々草」(右の白瓶)は、香味のバランスのとれた旨みのある麦焼酎。
写真2
写真2  宇大浪漫(芋焼酎)
2009年に販売開始した農場産ベニアズマを原料とした本格芋焼酎。花酵母「蔓薔薇(つるばら)」を使用し、香味にバランスのとれた旨みのある芋焼酎。

開発の動機と経緯

100ヘクタールを超える全国でも有数の規模を誇り、教育研究用として蔬菜(そさい)・果樹・花卉(かき)類など多種の作物を栽培するとともに、乳牛と肉牛を飼養している附属農場では、「お米と果樹とミルクの不思議体験」や「UUエコファームカレッジ」と銘打った親子での農業体験や、有機農業指導といった食育活動などによる地域貢献を果たしてきた。また、農場の様々な資源を活用した産学共同研究も行ってきた。グッズ開発はこれらの活動をスパイラルに発展させる戦略でもある。

附属農場は、「生物生産と自然・環境との調和を目指した農学を実践する」を理念とし、耕種部門と畜産部門とがバランスよく有機的に結合した資源循環型土地利用を標榜しており、環境に優しい減化学肥料・減化学農薬農法で農産物を生産してきた。しかし、今後を展望すると、農畜産物の生産のみならず、付加価値の高い加工・製造の領域も積極的に展開していくべきとの判断から、農場産の大麦やサツマイモを活かした焼酎の開発に取り組んだ。

ところが宇都宮大学では、農場にはもちろん農学部にも本格的に酒類を研究する学科・講座は存在しないし、ましてや大量に製造できる設備もないことから、地域との連携を構想する以外に方法はなかった。県内の様々な酒造メーカーを吟味した結果、栃木県那須郡の株式会社白相酒造と提携することとなった。また酵母については、東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室との連携が実現した。

日本酒製造一辺倒が多い栃木県内の酒造会社の中で、白相酒造は焼酎も製造している数少ないメーカーである。日々良質の焼酎を製造できる技術を磨いており、さらに、地元農家からの原料調達にもこだわっている。八溝山系麓近くに立地する白相酒造は、例えば中山間地域農業振興対策として、地元農家にベニアズマの栽培を奨励するといった活動をしている。ベニアズマは通常、食用のサツマイモとして栽培されている品種である。

白相酒造がこの品種にこだわったのは、加工専用品種を使用している九州地方などの芋焼酎との差別化を図る意味もあるが、農家サイドに立って、食用の販売ルートの余地も残してあげたいとの配慮からである。

こうした地元農家との連携を重視する地域に根差した商品開発という理念の下、地元農家のイチゴの花から分離した優良な清酒酵母を用い開発した日本酒が、経済産業省「農商工連携88選」に選ばれた実績も持つ。酵母に関しては、焼酎用の多くの酵母を分離してきた実績のある東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室において、様々な酵母を使用した焼酎の試作・試飲を重ねた結果、麦焼酎用に分離開発に成功した天然吟香酵母(NY2-1)と花酵母・日々草(N12)、同様に芋焼酎用に分離された花酵母・蔓薔薇(つるばら)が用いられることに決まり、発酵管理にも助言をいただけることとなった。

商品化とその意義

こうして、大学グッズとして実際に販売していくための次のステップ、すなわち商品名、瓶の色彩や形、ラベルデザインなどを決定する段取りに入ることになる。この過程は農学部長、農場長などから構成された選考委員会を組織し行われたが、まず名称を学内に公募し「宇大浪漫」とした。その後、教育学部美術専攻デザインコースの学生たちに依頼した作品類の中から、「名称から明治や大正時代をイメージし、輝くガス灯の下で待ち合わせ相手を待つ女性のシルエットで浪漫の概念を表現」したとする作品(図1)をラベルデザインとして採択した。

「宇大浪漫」は主に、大学構内にある生協の売店とミニストップに設けた特設コーナーで販売されている。販売箇所を限定しているのは、生産量に限りがあるためもあるが、大学への帰属意識や愛着心の深まりを期待して、顧客ターゲットをまず宇都宮大学の学生と教職員に絞っているためである。ここでの売上を確保できなければ、他での売上も期待できないと捉えていたが、2015年からは販路を拡大し、市内ショッピングモールやスーパーマーケットなどでも購入可能となった。売上は現在のところ堅調である。

このオリジナル焼酎「宇大浪漫」の開発・販売が起爆剤となり、大学初の食用米オリジナル品種「ゆうだい21」の全国展開、農場産小麦を活かしたうどん「宇どん」の発売、放牧乳を活かしたオリジナル乳製品「純牧」シリーズの開発・発売などが後に続き、現在では多くの農場オリジナルグッズを販売している。

図1
図1 採択されたラベルデザイン 芋焼酎「宇大浪漫」

今後の課題

これからの課題として、①ビジネスギャップ解消による原料調達問題の解決、②より科学的根拠に基づいた商品情報によるマーケティングについて最後に述べる。

農商工連携を推進していくにあたっての大きな課題は、「農」のビジネスサイズと「商」・「工」のビジネスサイズの大きなギャップをいかに埋めるかにあると言われるが、我々の取り組みにおいても同様の問題が存在する。

大学の附属農場はもともと教育・研究のための農場であって、生産のための農場ではない。しかしグッズを製造する連携先の白相酒造は企業であるため、ビジネスとして成立しなければならない。企業側からするとビジネスとして成り立つミニマムな要求であっても、農場側からするとマキシマムを超えそうな要求になるなど、事業内容や事業規模の相違による様々なギャップが存在するのである。

白相酒造は多数の地元芋農家から焼酎原料を調達している。一日あたりの加工処理能力は決まっている一方で、他方では芋の収穫適正期は限定され、鮮度も要求されるため、原料調達が集中しがちになる。従って供給サイドは、処理能力を超えないよう相互に調整しながら生産・出荷に対応しなければならない。しかし、栽培方法や商品名が異なることから、附属農場産は別扱いとなり、この農家間の調整に関係しない。すなわち出荷は農家が優先されるため、農場産は適性期を逃す危険があり、栽培管理が難しい。また現在以上の出荷量を要求されると、他の作業との関係から対応が困難となる。

これらの問題を解決するためには、農場における農法を近隣農家に普及させ、別扱いとならないように同一品質原料の確保を図るといった農家の組織化あるいは農家との連携という新たな課題に取り組む必要が出てくる。こうした取り組みは、大学の研究成果の普及・啓蒙といった視点からも重要と考える。

上述のように、附属農場は環境保全型・循環型生物資源生産システムの構築を目指してきており、農畜産物は、総合防除IPM*1研究やアニマルウエルフェア研究に基づく技術に基づいて生産されている。その成果として、水稲生産体系は、2019年にAsiaGAP(安全に関わる農業の国際基準の「GAP」を取得し、アジア圏の農業を国際基準まで押し上げる基準)認証を取得した。また、畜産分野の乳牛と肉牛部門は、2020年に全国の大学では初となるJGAP(GAP を取得し、日本の農業を国際基準まで押し上げる基準)認証を取得し、「安全・安心」を実践している。また連携している白相酒造も地域の農家や企業・教育機関との連携を重視している。宇都宮大学農学部の学生は、全員が必ず附属農場で実習する。安全・安心な農業生産だけではなく、加工や流通、そして地域との連携についても実践的に学んだ貴重な人材の育成にも、「宇大浪漫」は貢献していると言える。

しかし残念ながら、宇都宮大学農学部附属農場の生産品が、必ずしも風土・地域個性を生かした地域ブランドを確立しているとは、まだ言い難い。例えば、地域によって異なる土壌成分(ミネラル)や土壌微生物の生態まで含めた生態学的風土の科学的解明がなければ、地域固有の農・食の発展に貢献することはできない。こうした視点での研究はまだまだ発展途上である。大学農場ブランドの開発をきっかけに、フランスの原産地呼称管理AOC*2制度のように、差別化されたブランド食品に科学的お墨付きが付き、各地の特色ある農と食が持続的に発展できるような体制が構築されることを期待したい。

*1:
Integrated Pest Management.農薬、施肥、水管理、輪作などのさまざまな手段を組み合わせて、雑草や病虫害を防除する方法。
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*2:
Appellation d’Origine Contrôlée.全国原産地呼称管理局Institute National des Apellations d’Origine(INAO)下で行われている、フランスにおける食品の地域ブランドを認証・管理する制度。津谷好人:農業、No.1518, p.53,大日本農会 (2009).
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