リポート

産学官連繋を加速する
信州100年企業創出プログラム

信州大学 学術研究・産学官連携推進機構 教授・学長補佐 林 靖人

写真:信州大学 学術研究・産学官連携推進機構 教授・学長補佐 林 靖人

2020年05月15日

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信州100年企業創出プログラムとは

次の100年を切り開くための成長を目指したい「地域企業」、さらなる挑戦を求める「首都圏の人材」、この両者を信州大学の「リサーチ・フェロー(客員研究員)」として研究と学びのプログラムで結びつける地域の課題解決事業。それが、「信州100年企業創出プログラム」です。

首都圏と地方の人材循環を加速させるために、人材サービス会社、地域のシンクタンク、学会関連団体、大学が連携し、「リカレント」という新たな文脈から取り組んだ新しい地方創生事業とも言えます(図1)。

図1
図1 信州100年企業創出プログラム事業概念図

地方から未知の100年に挑戦する意味・必要性

2010年ごろをピークにわが国は人口減少が始まりましたが、社会は人口増を体験してきた世代が大半です。そのため、どうしてもマンパワーを前提とした計画や増加を至上とする成長を描きがちですが、人口の自然増はもちろん、社会増も急激には生じません。我々は根本から考え方を変える必要があります。

今まで人類が体験したことがない未知の100年に向けては、国の事業や企業経営も「Plan-Do型」から「Prototyping型」へと柔軟性や対応力を強化し、一騎当千となる多能・多経験な人材とIT・AIを掛け合わせるなど、維持、成長・発展への新たなシナリオを描く必要があります。

その意味では、これまで100年以上続いてきた老舗企業も新たなベンチャーも同じ状況に置かれています。そして、首都圏や大都市圏は周回遅れで発生しますが、全国の多くの地方は既にそのスタートラインを越えており、次の100年を一つのマイルストーンとして新しい取り組みを加速しなければなりません。

そこで本事業では、「次代の地域を牽引(けんいん)する/未来創造に挑戦する企業」を「100年企業」と位置付け、長野県をプロトタイピングの場所とした新たな実践的研究に取り組みました。

地域・分野を縦横につなぐコンソーシアムと四つのリカレント学修による人材アップグレード

本事業は、平成30(2018)年度中小企業庁「地域中小企業人材確保支援等事業」を活用し、国のモデル事業としてスタートを切りました。

申請主体は信州大学で、プログラム全体設計・事務局を担いました。そして首都圏人材の巻き込みは政府系人材サービス会社の株式会社日本人材機構が、リカレント設計の協力者として地域活性学会の関連団体、一般社団法人Lamphi(ランフィ)が、地域の参画企業発掘やリカレント教育の実践者として信州大学発の社会科学系ベンチャー、シンクタンクである特定非営利活動法人SCOP(スコップ)が参画し、コンソーシアムを組織しています。

なお、首都圏人材の募集や地域の受け入れ企業発掘においては、それぞれ図に記載した様々な人材サービス会社、地域の行政や金融機関が事業構想に賛同し、「パートナー」として協力をいただくことで実現可能になりました。募集時はそれぞれ64社・105人が集まり、研究員候補と受け入れ企業を丁寧にマッチングする中で8社・9人とともにモデル事業を開始しました(図2)。

図2
図2 地域企業と研究員とのマッチングの経過

マッチングした研究員は原則、長野県に居住あるいは頻繁に通い、受け入れ企業の現場に入り込みます。そして平日は現場で、アクションをしながら当該企業が100年先まで成長するための活路とそのために今すべきこと、すなわち「未来シナリオ」に必要な材料を探したり、創り出すことをミッションとします。週末には、1週間のワーク・分析結果を持って大学に来て、担当する教員のゼミで他の研究員とともに未来シナリオを精緻(せいち)化するためのディスカッションを行い、それをまた次週現場でアクションに戻す。これを6カ月間繰り返します。また、初年度はゼミ以外にも、集合での知識研修(例えば、財務・会計)や特別セミナー(例えば、地域の100年企業訪問・社長講演など)を実施し、研究員にとって必要なリカレントの内容を検証しました。

本事業の特徴となる「エンゲージメント・デザイン」

初年度、最終報告会を終えて研究員の皆さんが、地域企業で雇用されたり、委託事業やアドバイザーなどの契約を継続した状況(定着率)は、約90%(9人中8人)を達成することができました。高い定着率については様々な要因があるとは思いますが、仮説としては「エンゲージメント・デザイン**1」が一定の役割を果たしたと考えています。つまり、地域・企業と研究員の「繋がり構築のシカケ」です。

例えば、6カ月間という通常の人材派遣などとは異なる長期のマッチング期間を設け、自分の将来/企業の未来に関わる投資判断の時間を確保したこと、移住や通う際の負担を軽減するために受け入れ企業に月額30万円の活動費を用意してもらったことは、新たなつながりを創る際のリスクマネジメントにもなったでしょう。

また、研究員が残らなかったとしても受け入れ企業には未来シナリオやその作成においてトライアルした活動成果が残りますし、研究員自身も違う道を選択したとしても半年間、研究員という立場でそれまでの経験知を構造化したり、バックキャスティング手法を体系的に学ぶことでスキルアップする時間を持てることは挑戦するモチベーションとして機能したと考えています。

2019年度活動と2020年度への発展

2019年度からは、昨年度受け入れ企業として参画したサッカークラブ運営会社の株式会社松本山雅(長野県松本市)が新たにコンソーシアムメンバーに参画し、プログラムとして自走化する仕組みの構築に取り組んでいます。そのために2019年度プログラム自体は、戦略的に受け入れ人数を5人(5社)に縮小しています。その中でマッチングや支援などにかかる経費、成果報酬などビジネスプランとして必要な事項をリアルに検証しました。

一方で新しい広がりも生まれています。昨年度研究員だったメンバーが中心になり、地域企業の若手人材が今現場でやるべきことを学ぶリカレント事業「明日シナリオ創造ゼミ」(長野県元気づくり採択事業)が、始まりました。他にも、第1期生の研究員の中には、本年度学会発表をし、信州大学でのキャリア教育講師を担当した者も生まれたり、共同研究や研究員の所属企業同士のコラボレーションも生まれてきています**2

また、本年度は、本モデルを他地域へ展開するため、積極的に視察の受け入れや日本と同様に地方創生を課題とする韓国と台湾など海外でのプレゼンテーションを行ってきました。そして具体的な横展開としては、同様の中小企業庁の支援事業を活用し、金沢大学が新たに観光産業分野でわれわれが構築した事業フレームを活用した取り組みをスタートさせました。

2020年度は、プロジェクトとしてビジネスモデルの精緻化や新しい事業メニュー創出を行い、産学官民の連携による地方創生を加速させていくつもりです。

参考文献

**1:
信州大学放送公開講座2019「第3 回 国内初!大学発地方創生モデルに挑む!」.
https://www.shinshu-u.ac.jp/zukan/report/2019.html,(accessed 2020-05-15).
本文に戻る
**2:
林 靖人.信州100 年企業創出プログラムの挑戦.ほくとう総研機関誌NETT.2019.Vol.4,p.4-7.
http://www.nett.or.jp/nett/pdf/nett104.pdf,(accessed 2020-05-15).
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