リポート

メディカルデザイン
~富山大学の新たな産学官連携・全学連携~

富山大学 学術研究部 工学系 教授 田端 俊英

2020年05月15日

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メディカルデザインとは

本学ではメディカルデザインという名の下に、産学官連携・全学連携で医療・福祉機器・サービスの研究開発を推進する活動を展開してきた。活動はようやく助走を終えた段階であるが、これまでの活動とその中で分かってきたことを概括する。

医療・福祉機器は、工業先進国であるわが国において、珍しく輸入超過となっているジャンルである。医療・福祉機器あるいは関連するサービスの分野は、付加価値の高い製品づくりやサービス提供が期待できることから、新規参入を考えている企業が富山県内外にも多数存在する。しかし、医療・福祉の現場ニーズの把握、製品・サービスの事業化・販売のために必要な独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による承認の獲得など幾つかの超えなければならないハードルがある。一方、現在、各省庁から多くの競争的開発資金が供出されているが、これらの申請には産官学コンソーシアムの構築が前提となっていることが多い。本学では、複数の学部にまたがる教職員、地元企業、官公庁の連携によって諸問題を解決し、富山発の画期的な医療・福祉機器・サービスの開発・事業化を目指している。

これまでの活動

2017年より、本学の二階堂敏雄研究推進担当理事・副学長(当時)の呼び掛けで、学内外の有志が集まり、メディカルデザイン活動の方向性を模索してきた。学内からは、筆者(学術研究部工学系・田端俊英教授)、富山大学附属病院脳神経外科・赤井卓也臨床教授、谷内雅彦支援員が、学外からは富山県商工労働部、経済産業省中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局、北陸銀行地域創生部が参加した。地元企業に聞き取り調査を行ったところ、多くの地元企業が医療・福祉機器・サービスへの新規参入を検討したことがあるものの、どのような製品を手掛けるべきか、それらについて承認を獲得する方法、販売する方法などが分からず、躊躇(ちゅうちょ)していることが明らかになった。

そこで一つの試みとして、Biodesign(バイオデザイン)を地元企業に体験学修してもらうことにした。バイオデザインは米国スタンフォード大学においてdesign thinking(デザイン思考)の医療版として確立された開発手法である。バイオデザインでは、様々な学術・技術バックグラウンドを有するイノベーター(必ずしも医療・福祉分野の専門家である必要はない)がチームを組んで、医療・福祉の現場を観察し、ユーザー(患者および医療従事者)の潜在的なニーズを発掘し、チームメンバーのブレインストーミングによりニーズを満たす医療・福祉機器を案出する。2018年度には、2回のバイオデザインのワークショップを開催した。一般社団法人ジャパンバイオデザイン協会のBiodesigner Expert course を修了した本学教員が講師となってバイオデザインの方法論を説明し、参加者に医療・福祉の現場を観察してもらい、ニーズの発掘と解決法の案出に挑戦してもらった。第1回(図1)は、富山大学附属病院で開催し、12社の富山県内外の企業、官公庁関係者、本学の文系・理系学部の大学教員が参加した。第2回は、富山西総合病院・富山西リハビリテーション病院で実施し、12社の企業、官公庁関係者、医学部や工学部の大学教員が参加した。

図1
図1 ワークショップ開催概要

いずれの回でも参加者は、多数のニーズと解決法を見つけることができ、産学官連携の開発ポテンシャルの高さが確認された。これらイベントの参加者の多くが2019年度のイベントにも参加しており、本学の産官学連携・全学連携の強化につながった。

2019年4月より、本学研究推進機構の正式な研究プロジェクト「メディカルデザイン・プロジェクト」として活動を継続・発展させた。北島勲理事・副学長・研究推進機構長の指揮の下、具体的な医療・福祉機器・サービスの研究開発を学際的に行うために産学官連携体制を強化した。まず、幾つかの連携グループで、幾つかの省庁・自治体の競争的開発資金に申請を行った。その結果、認知症の予防につながるエピソード記憶能力のトレーニングを行うスマホ・アプリの産学共同開発が総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)に採択された。

次に、2019年11月に、公益財団法人富山県新世紀産業機構「メディカルデザイン開発推進事業」の委託を受け、主として地元企業を対象としてセミナーを実施した(図2)。このセミナーでは、先進的な医療ベンチャー企業の経営者およびコンサルタント(株式会社多磨バイオ・澤田真言氏、エムスリーアイ株式会社・梅田和宏氏)が講師となり、開発資金をベンチャーキャピタルなどから集める手法や医療機器の承認をPMDAから得るための実践的なノウハウを参加者に伝授した。セミナーに参加した13社の企業からは、非常に有用な情報が得られたとの評価を得た。

図2
図2 セミナー開催概要

さらに2020年2月には、富山大学附属病院においてセミナーと医療現場見学会を開催した(図3)。リハビリテーション科・服部憲明教授が講師となってセミナーを行い、同科の日ごろの業務と現場が抱えている問題点を説明した。続いて、附属病院リハビリテーション室の見学会を行った。リハビリテーション科スタッフが実際の設備を用いて、それらがどのように使用されているかを詳しく説明した。さらに、リハビリテーション科スタッフと参加者が少人数グループに分かれて、現場ニーズ−技術シーズ交換会を行った。スタッフが現場ニーズをプレゼンテーションし(リハビリテーション室でどのような問題が生じているかをイラストやリハビリテーション器具を用いて説明)、参加者とスタッフでそれら課題の解決法についてディスカッションを行った。参加者には多岐にわたる分野の企業16社が含まれており(精密機械、金属加工、樹脂加工、繊維、建築部材、IT、ヘルスケアなど)、実現性の高い製品・サービスのアイディアが多数提案された。

図3
図3 セミナー(見学会付)開催概要

分かったこと、今後の展開

上記イベントの参加者は異口同音に、1)現場スタッフと交流することで、大学および附属病院にアクセスがしやすくなった、2)医療・福祉機器・サービスの開発のモチベーションが高まったなどの感想を語っている。このことから、上記のようなイベントは産学官連携の構築に非常に有効と考えられた。そこで本学では今後、臨床研究管理センターをはじめとする附属病院のコミットメントを強化し、企業と医療現場の交流を醸成するイベントを頻繁に開催していく予定である。イベントには、地元だけでなく全国の企業にも参加してもらい、またこれまでとは異なる分野の企業に参加してもらうことで、画期的な医療・福祉機器・サービスの案出を目指す。一方、イベントでは秀逸な製品・サービスを提案しているのに、実際の研究開発に踏み出さない企業が多いことも分かってきた。そこで現在、本学の学術研究・産学連携本部がコーディネーターを各企業に派遣して、あらためて産学連携開発を促すなどフォローアップを行っている。

なお現体制のメディカルデザイン・プロジェクトは、2019年度をもって終了するが、本学では2020年度から本プロジェクトの業績を引き継ぎ、北島勲理事・副学長をリーダーとする全学的組織体制を構築し、本格的かつ実働的な産学官連携開発推進組織を新たに始動させる予定である。

2020年5月目次

リポート
巻頭言
視点
編集後記