リポート

東工大におけるスタートアップ支援

東京工業大学 研究・産学連携本部 副本部長特任教授/ベンチャー育成・地域連携部門長/
知的財産部門長 武重 竜男

写真:東京工業大学 研究・産学連携本部 副本部長特任教授/ベンチャー育成・地域連携部門長/知的財産部門長 武重 竜男

2020年04月15日

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東工大のスタートアップ支援は発展途上だ。しかし、加速的に進歩している。その最新状況の一端を紹介したい。

スタートアップ支援組織

東京工業大学(東工大)のスタートアップ支援は、研究・産学連携本部のベンチャー育成・地域連携部門が中心となって実施している。部門長の下に、この1年半で新しく採用した3人のURAと事務スタッフで構成される。そこに、知的財産部門URAと産学連携部門URA、産学連携課の事務職員が、同じ執務室内に机を並べる。まさにUnder One Roofである。シナジー効果により、限られた人的リソースで高いパフォーマンスが発揮できると期待する。

東工大発ベンチャー称号 110社

2003年から、東工大の研究成果・人的資源を活用して起業された企業に、東工大発ベンチャーの称号を授与している。2019年末時点で累計110社に達した。この1年半ほどで急増しており、2018年度の授与は12社、2019年度は20社を超えた。ベンチャー企業からの申請に基づき審査し、称号を授与している。そのため、実際に東工大から生まれたベンチャー企業数は110社を上回る。大学が称号という形で公式に認めることで、起業して間もない大学発ベンチャーにとって有益な後ろ盾となる。

学生スタートアップ支援

学生によるスタートアップも支援している。その一つとして、学生が自分のアイデアやビジネスモデルを検証するための資金支援がある。概念実証(POC)やプロトタイピング制作費、外部ピッチイベントなどへの参加費や旅費などに使用できる。1件(1組)当たり最大100万円とした。アントレプレナーシップ、ベンチャー起業に知見を有する学内外の審査員による面接審査を行い、即日に結果を出す。この支援を受けた学生の起業事例が毎年のように生まれる。この経験を踏まえ2020年度には、さらなる発展・改善を進める予定である。

Attic Lab(アティックラボ)

2019年4月には、本学の学生が企画に加わってプロデュースしたコワーキングスペース「Attic Lab」が誕生した。スタートアップを創業したい、自分のアイデアを実現したい、ネットワークを広げたい学生が集まる場である。場のデザインから内装工事に至るまで、学生が自ら作り上げた。開設後の施設運営とイベント企画も学生が主体である。ただ、この建物全体が間もなく壊される。刹那プロジェクトであった。

学生主体で自由度を確保する過程の苦労話は尽きない。壊される運命の建物であったことが、学内説明のためには都合が良かった。開設から1年がたち、そろそろ飛躍を促す時期に入りたい。この場を使った起業塾を開講する予定だ(2020年5月)。物語のクライマックスとともに続編の作成に入る。Attic Labの精神は、建設中の新しい施設に取り込まれる見込みとなった。Attic Labの名も、学生たちの思いとともに残ると良い。このプロジェクトで体験したワクワク感が、未来を築く創造性を生むことを期待する。

Attic Lab (学生による内装作業中)
Attic Lab(内装作業済み)

東工大横浜ベンチャープラザ

神奈川県横浜市の東工大すずかけ台キャンパスには、大型の研究拠点が集結している。そのキャンパス内に、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)、神奈川県、横浜市、東工大が連携して運営するインキュベーション施設「東工大横浜ベンチャープラザ(東工大YVP)」がある。がん細胞への酸素・栄養供給を遮断する腫瘍(しゅよう)標的型低侵襲療法を開発するメディギア・インターナショナル株式会社や、立体画像認識技術を用いて世界の安全と幸せの向上に貢献するITDLab株式会社など、ディープテック系ベンチャーが入居。時間と費用を必要とするが、世界を変える企業に飛躍するポテンシャルを有する。

東工大・芙蓉GAPファンド

東工大は、芙蓉総合リース株式会社(東京都千代田区)、株式会社みらい創造機構(東京都渋谷区)と2017年に協定を締結し、GAPファンドを運営している。東工大の特許技術を実用化・事業化するために必要な試作品製作など、起業直前に大学内で必要となる活動の資金不足を補う。学内ピッチ審査を経て1件に100万円を提供する。芙蓉総合リースが拠出する資金による産学連携型ファンドであり完全なる民間資金で運営している。

同窓会のサポート

東工大OBの同窓会である一般社団法人蔵前工業会も、スタートアップ支援に力を入れている。同会は、全学科・全専攻にわたる唯一の同窓会で、卒業生、教職員など約8万人が所属する大組織である。大企業の役員なども多数おり、そのネットワーキング力は半端ではない。蔵前ベンチャー賞という独自の表彰制度も持っている。大学と同窓会の一体的な連携も東工大発ベンチャーにとっては利点となる。

JR山手線田町駅前・田町キャンパスをインキュベーション施設に

あまり知られていないが、JR田町駅前に田町キャンパスがある。現在は東工大の附属高校が大部分のエリアを占める。田町駅ホームから目の前に見える人工芝グラウンドの持ち主である。そこに大学のビルも建っている。ある報道機関は、これを東工大のキラーコンテンツと表現した。その好立地を効果的に生かすべく、2020年4月から東工大発ベンチャーに個室を賃貸することした。同じフロアにコワーキングスペースも設ける。東工大発ベンチャーであれば無料で利用可能である。

今後、附属高校は大岡山キャンパスに移転し、高校跡地に民間資金を活用した高層ビルを建設する。国内外の大学、企業および研究機関などとの戦略的パートナーシップと共創型コミュニティーを形成し、10,000㎡を超える都心型の大型コミュニティー・ワーキングスペース、インキュベーション施設、新技術の情報発信スペースを提供する予定である(2029年供用開始予定)。本学の新たな魅力の一翼を担うものと期待される。

なお、東工大の3キャンパスは、すべて駅前という好立地だ。この3キャンパスを有機的に連携させたイノベーションエコシステムを構築し、科学技術と産業の発展に大きく貢献したい。

イノベーションの新拠点となる田町キャンパス

まだまだ足りない

以上のように、東工大のディープな研究成果を事業化するために、多角的なスタートアップ支援を続けている。しかし、まだまだ人的にも金銭的にも足りていない。そのため、この2年ほどで外部機関と連携協定の締結を加速させ、積極的に外部支援を受け入れている。みらい創造機構が組成したベンチャーキャピタル(VC)ファンドは、東工大関連ベンチャーを中心に投資中。Beyond Next Ventures株式会社(東京都中央区)は、アクセラレーションプログラムや経営者マッチングなどで協力。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、ビジネスプランコンテストなどを通じた東工大発ベンチャーの創出、ベンチャー支援人材の育成協力を実施。横浜銀行は、銀行の顧客ネットワークを活用し、東工大の技術シーズ・知的財産(特許)と地域ニーズのマッチング支援を実践。さらに、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市といった地方自治体とも連携協定などを締結した。大学周辺に、スタートアップのための集いのカフェなども生まれている。東工大の扉は開いている。東工大のスタートアップ支援との連携に興味がある方は声掛けいただきたい。

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