巻頭言

テラスのような大学を目指して

公立大学法人京都市立芸術大学 理事長・学長 赤松 玉女

写真:公立大学法人京都市立芸術大学 理事長・学長 赤松 玉女

2020年04月15日

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人類は長い歴史にわたって、それぞれの地域や文化の中で芸術を愛し尊重してきた。それは、芸術という創造活動がいつの世にあっても、人々に自由や刺激、癒し、喜びを与え、深く感じ、考える機会を与える豊かな営みであるからだ。芸術家たちは、各時代の新しいサイエンスやテクノロジーを駆使しつつ、かけがえのない一人一人の作品を制作してきた。また革新的な芸術家たちの存在は、それぞれの時代にあって異彩を放つが彼らの存在なくしては、人々の価値観の多様性は、今日のような豊かさを見なかったに違いない。芸術をもって、今この時代に何を残し、何を伝えていくのか、また次世代の芸術を生み出す担い手を、どのように育んでいくのかを問い直し、確かめ続けていくことが芸術大学の使命だと考える。

京都市は、人口の1割に相当する約15万人の学生が学ぶ「大学のまち」である。学生たちは、京都の歴史や伝統、自然や文化に触れるとともに、特に最近は地域に出て学ぶことを各大学で行っている。市民は各地からやって来る「学生さん」を温かく見守り、応援してきた。継承すべき伝統文化を持つ一方で、新しいもの未知なものを摂取することで起こる化学反応が、京都の独自性を作ってきたと言える。

京都に文化庁が移転してくれば、今まで以上に日本の文化・芸術振興の先導役を求められることになるだろう。そのために、京都市立芸術大学(京都芸大)が担うべき役割は大きいと感じている。美術と音楽を両輪とする京都芸大は、創立以来、芸術界、産業界で活躍する人材を輩出してきたが、いわゆる芸術家のみならず、無から生み出すことを学んで身に付けた豊かな表現力や創造力を通じて、社会の様々な分野に貢献する人材を育てたいと考えている。

今年、創立140周年を迎えた京都芸大は、「テラスのような大学」を目指している。テラスとは、外に向かって開かれ、多様な人々が往来できる場所である。大学間や産業・地域との連携を充実させ、さらには性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無など社会の多様性にも積極的に関わり、創造的な交差・交流を「芸術」をエンジンとして活発に行っていくのが「テラスのような大学」である。一番大切なことは、テラスで受け取った刺激や情報を、教員や学生たちそれぞれが吸収し、作品や研究、演奏に昇華させていくことであり、それが京都芸大の社会に還元できる最も大きな公共の利益と考えている。

芸術には様々な変化に対応していく柔軟さがあり、困難を乗り越える力がある。京都芸大は、2023年度にJR京都駅近くへのキャンパス全面移転を予定しているが、この移転を未来に向けたさらなる飛躍のきっかけにしたい。そのためにも、多様な価値観を認め合う寛容な大学、当たり前を問い直しオルタナティブな価値観を提示できる大学として、さらに発展することを目指していきたい。

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