リポート

学生広報部と社会連携のシナジー

本誌編集長 山口 泰博

2020年02月15日

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学生による部員を広報部の要員とし、学内の広報宣伝活動を学生に任せている大学がある。
全国的にも珍しいこの取り組みは、社会連携ともシナジーをもたらしている。

事務職員の仕事も学生が関わる

鹿児島県霧島市の都築教育学園第一工業大学は昨年4月、工学部から独立した航空工学部を新設、2学部としてスタートした。新たな学部設置に伴い学外に大学の良さを伝え、入学者を増やす目的で「学生広報部」を立ち上げた。大学組織である「広報部」にぶら下がるれっきとした学内組織だ。

部員は、取材と記事作成がメインだが、学生広報部員自らオープンキャンパスの受付、誘導なども行い主体的に運営。学生目線で高校生を案内する。この志望者を増やすための一大イベントは全国の大学が力を入れ定期的に実施しているのだが、学生広報部が「仕切り」だしてからは、訪れる高校生からも、近い年代の学生が説明してくれるのは分かりやすいと評価も上々だという。

大学には、学内新聞やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などインターネットを発信媒体にした、学生主体の広報系サークルがある。同大学はそれらと異なり、学内組織においても学内の広報宣伝に対する最高機関とする。そして学友会(学生会)と同列に扱いながら、他大学と違うのは、鹿児島県の最低賃金を基準とした対価を受け取る責任ある業務として本来事務職員がこなすべき仕事を学生が担っている。

8人の部員

8人の部員は、取材先を大学の外と中に分担し、写真撮影と執筆を担当。掲載するウェブサイトの特徴を高めるため、AR(拡張現実)専用の撮影担当も加え、志望者を意識した工夫を凝らす。とは言うものの、何の制約もなく全て自由ではない。そこは組織であり、広報部が指導し、マスコミ対応などは大学が対応する。

デメリットをメリットに

大学の規模によって体制も異なるが、大学広報は教員やマスコミ出身の教員が運営し、事務部門がその業務を担う場合が多いが、組織立っているのは規模の大きな大学に限られる。同大学は、学生数1,000人ほどの小規模大学である。要員に学生を充てることで小規模ゆえのデメリットをメリットに変えたといえる。

仕掛け人でもある、広報部長兼社会・地域連携センター長の福山厚子教授(写真中央)は「地方は人と人とのつながりが強く、常々社会貢献活動の一環で、地域の人と交流のあった学生は地域からの信頼が元々ありました。学生が学外で取材を始めてから、地元企業や自治体、団体へも大学の広報として行くので、学生時代に社会を知り、つながりが持てます」と人材育成にも一役買っているようだ。

小規模ゆえに産学連携など社会連携にも行き届いていなかったが、地域課題や共同研究などの相談も寄せられようになった。

建築デザイン学科4年で、広報部学生広報部長の麻生大雅氏(写真左)は、地元で就職が決まっていたが、国立の大学院大学に進学し地域連携を学び、卒業後は鹿児島に戻りたいと言う。また、同3年で部長補佐の金枝秀憲氏(写真右)も卒業後は、地元の熊本へ帰り地域貢献の力になりたいと話す。

大学が用意した授業と短期間のインターンシップ、そしてアルバイトで過ごす学生生活が一般的だとすれば、学生広報部は、大学を「伝え」、地域とのつながりを深めるハブ機能となり始めたようだ。

SNSで誰もが気軽に情報発信が可能になったいま、社会に情報を発信するにはメディア、情報、ITといった三つのリテラシーが必要だ。表現、法律や社会背景も絡んでくる。まかり間違えば、非難や中傷され、組織として傷を負うリスクもある。そのようなことも含め、学生には社会に出る前に筋書きのない社会体験ができ、ネットワークを広げられる。やがて1年、緒に就いたばかりかと思えば、大学の規模だけでは計り知れない、社会連携と広報が地方の風になりそうだ。

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