リポート

上山堀切川モデルによる地域産業振興

亜細亜大学 都市創造学部 教授 林 聖子

写真:亜細亜大学 都市創造学部 教授 林 聖子

2020年02月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

はじめに

地域産業の振興には、わが国の企業数の99.7%を占める中小企業**1がイノベーションを継続的に創出することが必要である。中小企業は経営資源に限りがあり、一般的には単独でイノベーションを創出することは難しく**2、他との連携**3、すなわち産学官連携が必要となる。中小企業が産学官連携により、イノベーションを次々と創出している取り組みとして、東北大学大学院工学研究科堀切川一男教授(2020年1月29日現在、企業と産学官連携で181件の新製品を開発**4)を核とする支援チームが、希望する中小企業と新製品などのイノベーションを創出している仙台堀切川モデルがあり**5**6**7、福島堀切川モデル**8**9、宮城おおさき堀切川モデル**10へと展開している。本稿では、2017年度からスタートした山形県上山市での堀切川教授の取り組みを紹介する。

本稿では、イノベーションは新たな経済的価値を創造することと定義し、新製品や新サービスを開発し、市場で流通させること、自社製品開発により自社の強みのPRから新たな受注を確保することなどを含めることにする**3**6**11

先行した三つの堀切川モデル

1.仙台堀切川モデル

2002年、わが国は知財立国を目指すことを表明し、産学官連携が活発化し、2003年に東北大学総長、東北経済連合会会長、宮城県知事、仙台市長の4者によるトップ会談「産学官連携ラウンドテーブル」が開催され**12、東北大学が産学官連携により地域貢献をすることが合意され、東北大学教員を兼務で宮城県と仙台市へ派遣することになった。仙台市は2004年4月から複数の東北大学教員を地域連携フェローとして迎え**3**6、その1人が前職山形大学工学部助教授時代に長野オリンピック日本ボブスレーランナー「長野スペシャル」や米油製造後の脱脂ぬかから硬質多孔性炭素材料を原料とする「RBセラミックス」などを地域中小企業と産学連携で開発した堀切川教授である**13

堀切川教授の仙台市地域連携フェローの活動内容はスタート時に決まっておらず、堀切川教授と財団法人仙台市産業振興事業団(2012年公益財団法人へ移行**14)ビジネス開発ディレクター村上雄一氏と仙台市産学連携推進課担当者の支援メンバーで検討し、御用聞き型企業訪問、寺子屋せんだい(堀切川教授などコーディネートによるサロン形式のセミナー**15)、希望する地域中小等企業との新製品開発を行うことになった。この活動を、2006年、筆者が堀切川教授と相談の上、産学連携学会で「仙台堀切川モデル」と命名した**5。堀切川教授を核とする支援チームと地域中小等企業は活動開始年度より開発実績を挙げ、高圧絶縁電線自動点検装置「OCランナー」**7、RBセラミックス粒子配合ソール材を用いた耐滑サンダル**7、入院患者用安全サンダル「安全足進」、食品加工・厨房用の超耐滑スニーカー「シェフメイトグラスパー(2013年度経済産業省ものづくり日本大賞(優秀賞)受賞**16)」など、2020年1月29日までに仙台堀切川モデルの活動で55件(広域連携含む)の新製品を開発している**4

堀切川教授はこの活動当初から「時間とお金をかけずに地域企業の実用化を達成する」というミッションを自らへ課し、事業化成功率を高めるポイントとして「開発前に商品名を決める」と「ミニマム目標を定め、その段階で初めての事業化を行う」を挙げている**17

2.福島堀切川モデル

堀切川教授は、2012年12月復興庁の要請により第6回復興推進委員会で東日本大震災後も産学連携で地域企業と新製品を開発していることを説明したところ、福島県幹部(現県知事)から依頼があり、2013年1月から福島県での講演会や企業訪問を始め、2013年4月に福島県地域産業復興支援アドバイザー(2017年4月から福島県地域産業復興・創生アドバイザーに名称変更)に就任した。ふくいろキラリプロジェクトとして**18、福島県内の産業支援機関と連携しながら当初は意識改革支援のためのセミナー(2016年度ごろまで)を開催し、御用聞き型企業訪問による新製品開発等支援を行い、「ばっぱ鎌」や「NANO-GUI(ぐい呑み)」などの新製品が継続的に生まれている。この活動を2013年筆者と田辺が「福島堀切川モデル」と研究・技術計画学会(現研究・イノベーション学会)で命名した**8。堀切川教授、サブアドバイザー、福島県担当者、各地域の産業支援機関担当者、発明協会(途中から参画)、事務局(株式会社山川印刷所)で支援チームを構成し、企業を訪問し、堀切川教授が新製品開発などのアドバイスを行い、フォローアップは各地域の産業支援機関が行っている。

3.宮城おおさき堀切川モデル

地元大企業の生産拠点が海外へ進出し、下請け中小企業の業務量が減少した宮城県大崎市では、特定非営利活動法人未来産業創造おおさき(以下「MSO」)が発足し**19、地元大企業の研究所などに勤務していた加藤義徳氏が統括コーディネーターとなり、市内企業数百社を訪問し、集中特定支援企業を決め、加藤氏の要請で堀切川教授を核とする「ものづくり課題解決研究会**20」が2014年に立ち上がった。研究会当日や翌日に、堀切川教授とMSOの加藤氏と大崎市と東北経済産業局(2014~2017年度)が地域中小企業を訪問し、堀切川教授が新製品開発などのアドバイスを行い、フォローアップを加藤氏が行う取り組みで、2015年筆者が産学連携学会で「宮城おおさき堀切川モデル」と命名した**21。おおさき産業フェアでは2015年度から「Dr.ホッキー賞」を開催し、出展製品・技術を堀切川教授が審査、表彰し、受賞製品は世界的イベントでの展示や大手企業との連携なども具現化している**22

上山堀切川モデル

三つの堀切川モデルが進展する中、2016年度山形県上山市商工課長が自治大学校で堀切川教授の講義に感銘し、同年10月25日筆者がプロジェクトマネジャーとして企画した「第4回ものづくりトップマネジメントセミナー in 上山市」での堀切川教授の講演より**23、上山市は仙台堀切川モデルのような活動の実施を切望した。

2017年4月堀切川教授は「上山市産業振興アドバイザー」に就任し、同年6月1日上山麺類食堂組合と意見交換会を行い、翌6月2日には交流セミナーで講演し、新製品開発に意欲があり、堀切川教授の企業視察、課題聞き取り、試作や販売助言などを希望する参加企業を募った**24。参加希望企業などへ堀切川教授と上山市商工課企業誘致推進室職員1人が年5回10日間訪問し、自社技術発信のための新製品開発を堀切川教授が支援するこの活動を「上山堀切川モデル」と命名する。

2017年度から2019年11月末までに企業訪問は延べ回数85回、同一企業を複数回訪問アドバイスし、試作品開発はもとより、さくらんぼ種とり機「チェリースター」は山形エクセレントデザイン2017に入賞し**25写真1)、ドリンクホルダー「YOKOZUNA」**26はすでに販売されている**24。2019年度には堀切川教授と上山麺類食堂組合と市内食品製造業者が共同して、地元産たくあん漬けと地元産そばの実と大豆ミートを組み合わせた「上山そばたく」(写真2)を開発し、市内飲食店で新メニューが考案提供されている**27

写真1 さくらんぼ種とり機チェリースター
写真1 さくらんぼ種とり機チェリースター
出典: PDF(4.17MB)(accessed 2020-02-15)
写真2 上山そばたく上山そばたく
写真2 上山そばたく**27
出典: 参考文献**27

2019年4月かみのやま温泉IC(インターチェンジ)が開通し、上山市は「かみのやま温泉インター産業団地」を分譲中である**28。堀切川教授は地域中小企業が自社製品開発により技術力を発信し、ものづくりサプライヤー集団存在のPRが「かみのやま温泉インター産業団地」の企業誘致ににつながり、地域産業の振興を望んでいる**4

まとめ

上山堀切川モデルは、人口約3万人の都市で堀切川教授と市の担当者1人で地域中小企業を訪問し、イノベーション創出を支援するコンパクトな取り組みで、4地域での堀切川モデル各支援の仕組みの差異は図1の通りであり、新商品たるイノベーションが継続的に創出されている。地域企業の課題解決を、堀切川教授が他の堀切川モデル地域の企業に橋渡しする広域連携も始まっており**4、堀切川モデルの横展開による一層の地域産業振興が期待される。

図1 四つの堀切川モデルの仕組みの差異
図1 四つの堀切川モデルの仕組みの差異
出典:参考文献3,5,8,9,10を参考に筆者作成

参考文献

**1:
中小企業庁:2019年版中小企業白書
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf),(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**2:
D.North et al. : Public Sector Support for Innovating SMEs, Small Business Economics, 16(4), 303-317, 2001.
本文に戻る
**3:
林聖子:地域産業振興を促進する中小企業のイノベーション創出支援機能,都市創造学研究,創刊号,101-115,2017.
本文に戻る
**4:
2019年11月29日、2020年1月29日堀切川一男教授へのヒアリング
本文に戻る
**5:
林聖子:仙台堀切川モデルの成功シナリオに学ぶ産業支援機関の産学連携による地域振興,産学連携学会第4回大会講演予稿集,18-19,2006.
本文に戻る
**6:
林聖子:仙台堀切川モデル―地域中小企業との産学連携成功の秘訣,産学官連携ジャーナル,3(10),10-13,2007.
本文に戻る
**7:
林聖子,田辺孝二:地域中小企業のイノベーション創出を促進する仙台堀切川モデルの考察,産学連携学,7(1),31-41,2010.
本文に戻る
**8:
林聖子,田辺孝二:震災復興支援のための福島堀切川モデル,研究・技術計画学会第28回年次大会講演要旨集,639-642,2013.
本文に戻る
**9:
林聖子:福島堀切川モデルによる震災復興支援(特集2-大震災から3年 挑戦が拓く産業復興),産学官連携ジャーナル,10(3),42-44,2014.
本文に戻る
**10:
林聖子:地域中小企業振興を促進する宮城おおさき堀切川モデル,産学連携学会第13回大会講演予稿集,131-132,2015.
本文に戻る
**11:
林聖子:中小企業のイノベーション創出への公的支援に関する一考,研究・イノベーション学会第31回年次学術大会講演要旨集,353-355,2016.
本文に戻る
**12:
林聖子,堀切川一男:仙台堀切川モデルの発展要因となる新たなる制度設計,産学連携学会第5回大会予稿集,152-153,2007.
本文に戻る
**13:
堀切川一男:プロジェクト摩擦tribologist-「米ぬか」でつくった脅威の新素材,講談社,東京,2002.
本文に戻る
**14:
https://siip.city.sendai.jp/z/01.html(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**15:
https://siip.city.sendai.jp/o/04/01_2.html(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**16:
https://www.monodzukuri.meti.go.jp/backnumber/05/index.html(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**17:
堀切川一男:新しい地域産学官連携スタイル 「仙台堀切川モデル」及び「福島堀切川モデル」の概要,「ものづくり強化方策について―アイディアの具現化等(講演)」第4回ものづくりトップマネジメントセミナー in 石巻(東北経済産業局令和元年度地域中核企業ローカルイノベーション支援事業(とうほく自動車関連部素材産業競争力強化事業),2019.11.28.(講演配布資料)
本文に戻る
**18:
http://fukuiro-kirari.jp/index.html(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**19:
http://www.mss-osaki.com/index.html(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**20:
東北経済産業局平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業「とうほく自動車部素材産業強化事業」の再委託事業
本文に戻る
**21:
林聖子:地域中小企業振興を促進する宮城おおさき堀切川モデル,産学連携学会第13回大会講演予稿集,131-132,2015.
本文に戻る
**22:
http://www.mss-osaki.com/pdf/fea2019/2019_a4v2.pdf(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**23:
堀切川一男:「ものづくり力強化のための方策(講演)」,第4回ものづくりトップマネジメントセミナー in 上山市(東北経済産業局平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業「とうほく自動車部素材産業強化事業」),2016.11.25.
本文に戻る
**24:
2019年12月20日上山市商工課企業誘致推進室ヒアリング
本文に戻る
**25:
http://daito-seimitsu.jp/(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**26:
http://pressya.com/publics/index/11/(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**27:
http://www.yamagata-men.com/shibuinfo/%E6%96%B0%E5%90%8D%E7%89%A9%E3%81%AE%E9%96%8B%E7%99%BA(accessed 2020-02-15)
本文に戻る
**28:
https://www.city.kaminoyama.yamagata.jp/uploaded/attachment/11098.pdf(accessed 2020-02-15)
本文に戻る

2020年2月目次

特集
リポート
巻頭言
視点
編集後記