リポート

学金連携による地産都消プロジェクト

東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 准教授 勝川 俊雄

写真:東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 准教授 勝川 俊雄

2020年02月15日

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地産都消とは

国立大学法人東京海洋大学(海洋大)は、水産海洋の研究と教育に特化した大学である。全国の水産地域・企業から寄せられてくる相談の中で、食材を通した都市部と産地との交流事業を「地産都消事業」と呼び、東京に本部を持つ大学の特色を生かした地域貢献として推進している。

学金連携の経緯と可能性

海洋大は2005年に東京東信用金庫(ひがしん)と協定を締結し学金連携に取り組んでいる。産学金連携の成果である深海探索機・江戸っ子1号が、第12回産学官連携功労者表彰において、内閣総理大臣賞を受賞するなどの実績を重ねてきた。学金連携をさらに推進するために、2016年にひがしん本店内に東京海洋大学東向島オフィスを開設した。新しい学金連携のテーマとして選ばれたのが、宮城県気仙沼市と東京都墨田区をつなぐ地産都消プロジェクトである。

海洋大では、東日本大震災復興支援の一環として2012年に気仙沼市と包括連携協定を結び、市内に「東京海洋大学三陸サテライト」を設置して活動を展開してきた。ひがしんは、信用金庫(信金)のネットワークを活用して震災復興支援を進める中で、地元の気仙沼信用金庫との人的関係を構築していた。こういった経緯から、海洋大、ひがしん、気仙沼信金の三者が連携し、気仙沼と東京を結ぶ地産都消プロジェクトがスタートした。

大学は研究や教育のリソースは豊富だがビジネスの現場には必ずしも精通していない。一方、信金は、地元の顧客企業との間にネットワークが構築されており、事業性の評価や資金調達戦略などのノウハウを持っている。得意分野が異なる大学と金融機関が有機的に連携することで、より質の高い地域貢献が可能になる。

地産都消プロジェクトにおいては、大学が中心になり、水産物の価値や産地の情報を東京の消費者に伝える教育活動を行うのと並行して、両信金がそれぞれの顧客である加工流通業者と飲食店をつなぎ、黒字で回るビジネスを育てるような方向を模索している。

プロジェクトの概要

本プロジェクトは、特定の予算を持っているわけではない。参加者持ち出しで事業を進めている。身の丈に合った規模の活動から始めて、試行錯誤をしながら、徐々に活動を広げてきた。月に一度のペースで、海洋大の三陸サテライトと東向島オフィスをつないで、ビデオミーティングを開催している。ノートパソコン、ウェブカメラおよびプロジェクターを両オフィスに設置し、ランニングコストがかからないシステムを構築した。和気あいあいとした雰囲気で、雑談を交えながらミーティングを行っている。

ミーティングは、来るものは拒まず、去る者は追わずというポリシーで運営している。これまでにも墨田区、気仙沼市、加工業者、飲食店経営者など、当プロジェクトに関心を示してくれた人には積極的に参加してもらっている。一方で、関心が薄れてきた人を、無理に引き留めることはしない。結果として、このプロジェクトに意義を感じて、主体的に関わってくれる人が集まる場になった。

ウェブ会議の様子
ウェブ会議の様子
活動事例① 魚食教育活動「地産都消プロジェクト さかな大好き!」

墨田区の食育を担当している部署の職員の提案で、保育園児を対象にした魚食教育イベント「さかな大好き」が2017年から毎年行われている。「子どもにこそ本物に触れてもらいたい」という考えから、気仙沼のベテラン漁労長の話を園児に聞いてもらい、本物の漁具や魚に触れてもらった後に、給食で気仙沼の新鮮な魚を提供した。食育のコンテンツは大学が主に準備をし、信金は原材料の調達や当日の運営などを担当した。

さかな大好きの様子
さかな大好きの様子

イベント当日の給食で提供したメカジキのコロッケは園児からおいしいと評判で、「もう一度食べたい」というリクエストが多く寄せられ、卒園前にも再度給食メニューに取り入れられた。さかな大好きは保護者からの評判も良く、年に1~2回のペースで、今後も継続していく予定である。また、墨田区の小学校を対象とした魚食プログラムについても現在検討中である。

活動事例② 産地と飲食店のマッチング

信金のネットワークを活用して、気仙沼の水産物の東京での販売促進に努めている。ひがしんの顧客である墨田区の飲食店が参加して、「気仙沼フェア」を開催した。フェアに参加した8店舗にサンプルとなる気仙沼産メカジキを提供して、メニュー開発や顧客へのアンケート調査を行った。店頭にはメカジキののぼりも配置して、産地である気仙沼をアピールした。期間限定、数量限定の企画であったが、顧客からのリアクションも良く、3店舗がフェア終了後も一般メニューに気仙沼産のメカジキを取り入れることになった。

今後は、アンケートで得られた情報を基に戦略を練り、飲食店に適切な食材を供給し、販売促進支援を行うための体制作りを推進したい。流通やマーケティング戦略など、様々な観点から、大学としても貢献する予定である。また、大学の所有する加工技術の知財などを活用して、飲食店に使いやすい形態で原料を供給するような仕組みも模索している。

今後の展望

地産都消プロジェクトは4年目に突入した。産地と消費地の持続可能な関係を構築するという目標に向けて、着実に進んでいる。大学と金融機関は組織文化が大きく異なるので、有機的な連携を行うには相互理解のためのそれなりの時間が必要になる。短期的なアウトプットを求めずに人間関係の構築を重視したことは、結果として近道だったように思う。

地産都消プロジェクトは、学金連携で地方創生を支援するユニークな事例として注目が高まっており、「気仙沼シャーク地産都消プロジェクト」が、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の2018年度「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』」に選出された。社会的な期待に応えていくために、今後も学金連携の可能性を模索していきたい。

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