特集防災減災考

陸上のインフラサウンド観測網による津波規模の把握

高知工科大学 システム工学群 教授 山本 真行

写真:高知工科大学 システム工学群 教授 山本 真行

2020年02月15日

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「地球の声」を防災に活用するために

私たちは地球最大の海である太平洋の西縁の列島に住んでいるおかげで、黒潮やジェット気流がもたらす美しい四季の変化を愛で、連綿と五穀豊穣を祈り、世代を超え日本国を形づくってきた。日本列島こそが地球のプレート運動の産物であり、だからこそ私たちは地震・噴火などの自然災害と無縁ではいられず、温暖湿潤な海洋国として、台風・津波などとも無縁ではいられない宿命にある。大規模自然災害が起きるたび、この国で高度文明を謳歌(おうか)する多くの人々の生命や暮らしがはかなくも一瞬に崩れ去ることを思い知らされる。地球規模の事象に襲われたとき人はなすすべを持たない。大規模災害に際し犠牲者ゼロを目指し、かつて祖先がそうしてきたように日本文明を継続し未来ある強靭(きょうじん)な国へとつなぐため、今こそ真摯(しんし)に「地球の声」と向き合うべきであることを本稿では提案する。

様々なプロフェッショナルをお持ちの諸賢は、地球の生み出す「聞こえない重低音」のことをご存知だろうか? ヒトは周波数20kHz以上の高い音(高周波音)を聞くことができず、これは超音波として知られ活用されてきた。一方で20Hz以下の低い音(超低周波音)*1も聞くことができないが空気中で発生・伝搬している。超音波には専用のセンサーがあり自動車の衝突防止などで活用されてきたように、音響計測技術を駆使した超低周波音を計測できる専用センサーを製作すれば「地球の声」も捉えることができるのだ。大太鼓やコントラバスが重低音を生むように、例えば、津波は直径100kmスケールの巨大な太鼓が突如海水面に出現するがごとくであり、雷鳴は長さ数kmもの巨大コントラバスの弦が突如大気中に出現するのごとくと見なせれば、透明で見えないが巨大な空気の粗密(超低周波音)が地球大気中を音速で伝わってくる様子が想像できないだろうか? 大規模自然災害からの被害軽減と安全安心な国づくりが喫緊の課題である今、人知れず地球が発してくれている「地球の声」に対して直接的に聞き耳を立てることが肝要である**1。

理工学の両輪で津波防災イノベーションを

理学と工学はイノベーションの両輪である。高知工科大学総合研究所の重点研究室として2017年4月に発足したインフラサウンド研究室は、インフラサウンド(超低周波音)の発生・伝搬過程を解明する理学的(地球物理学的)基礎研究と、その工学的(防災工学的)応用研究を両輪とし、さらに周辺研究領域の全国の研究者が集う研究拠点と位置付けている**2。私たちは2005年よりインフラサウンド関連研究を開始し、2007年には超低周波音専用センサーの基礎開発に着手、2015年には大学発ベンチャーである株式会社レソナアレス(千葉県船橋市)より、独自技術を用いて開発した「複合型インフラサウンド津波センサー」ADXⅡ-INF01を発表した(写真1)。緊急地震速報と連携可能で、同時搭載した3軸加速度計では地震波のP波およびS波の到来を検出し、その後に超低周波音の到来を待つことにより、着実に津波インフラサウンドの信号を捉える機能を有する**3

写真1 複合型インフラサウンド津波センサー ADXⅡ-INF01
写真1 複合型インフラサウンド津波センサー ADXⅡ-INF01

2016年度には公益財団法人セコム科学技術振興財団から一般研究助成を受けることがかない、本年度までの4年間にモデル地域とする高知県内には計15カ所、これと連携するように全国計30カ所にインフラサウンド観測点を設置、各観測地点で数年間にわたって大規模自然現象、極端気象現象などのモニタリングおよび超低周波音の帯域における音響ノイズ状況のデータを蓄積してきた(図1)。この結果、台風、前線通過、線状降水帯、落雷、九州の火山噴火、火球(大規模流星)、打ち揚げ花火、ロケット発射、人為的爆発などに起因する信号を多地点で捉えることに成功した。

図1 インフラサウンド観測点の分布と観測データからの津波規模推定
図1 インフラサウンド観測点の分布と観測データからの津波規模推定

主目的の津波は2016年以降には当該観測範囲で発生しておらず、その波形を確認するすべはなかったが、2011年3月の東日本大震災における巨大津波発生時には、関連分野の研究者らが津波起因インフラサウンドの観測に成功している**4。2017年度から私たちのグループが科研費・基盤(B)を得て進めてきた基礎研究成果からは、インフラサウンドの観測波形からエネルギーを推定することが可能であり、インフラサウンドセンサー群を用いた「インフラサウンド津波マグニチュード」の準リアルタイム計測にも道が拓けた。

津波版の緊急速報の実現に向けて

以上のように「地球の声」を聞く科学技術的イノベーションの基礎段階はほぼ完了したと言える段階に入った。今後は、防災・減災を本気で目指した「事業」として全国インフラサウンド観測網の構築と「インフラサウンド津波マグニチュード」の早期算出・伝達を実現する実証段階に入ることを期待する。理学研究成果によれば、インフラサウンドセンサー1台でも「インフラサウンド津波マグニチュード」の算出はできるが、音響観測は常に局所でのノイズとの戦いでもある。従って、インフラサウンド観測点の追加は1カ所からでも有効であると言えるが、インフラサウンド観測網としてはセンサー設置箇所が多ければ多いほど、また設置地点の間隔が密であればあるほど、相乗的に効果を生む。

令和の時代を迎えた直後の2019年5月4日、北海道の宇宙ベンチャー企業インターステラテクノロジズ(IST)株式会社がMOMO3号機*2写真2)にて民間単独開発として国内初となる宇宙(高度113.4km)到達を果たした際、私たちはロケット搭載型インフラサウンドセンサーにより高層大気中の音波伝搬に関する科学観測に初成功した**5。この際の小型化技術を用いた新型センサーADXⅢ-INF04LEを30台用い、急傾斜地区や高速道路周辺の土砂災害への防災に活用すべく現場実証的研究を進めている。また、総務省SCOPE(戦略的情報通信研究開発推進事業)の支援と電波有効利用制度の下で特定実験試験局の免許を受け、防災IoTセンサー群からの専用電波回線を活用した小電力長距離通信の現場実証試験も実施し、大規模災害発生時にも強靭な防災IoTセンサーネットワークの構築にも道が拓けてきた**6

写真2 IST射場で打ち上げを待つ観測ロケット 「宇宙品質へシフトMOMO3号機」(北海道大樹町)
写真2 IST射場で打ち上げを待つ観測ロケット 「宇宙品質へシフトMOMO3号機」(北海道大樹町)

日本や世界の海洋国における大規模災害から人命を守るため、これらを有機的に結合しつつフル活用し、日本発のイノベーションとして海外展開の準備もすでに進めている。聞こえない「地球の声」に耳を澄ませ、地域の人々に伝える事業を進めていく段階にある。今後とも、産学官の様々な立場の心ある人々との連携で、国家規模の津波防災や土砂災害などの地域防災に役立つシステムの整備に尽くしたい。読者の皆さまにも自由な意思と発想で、「地球の声」の防災活用にご協力を賜れれば、本稿執筆の機会を頂けた意義は大きい。

参考文献

**1:
山本真行.国内外のインフラサウンド研究の現状.月刊地球.2012.34,p.554-559.
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**2:
山本真行,齊藤大晶,甲斐芳郎,菊池 豊,柿並義宏,横田昭寛.地域防災/減災へ向けたインフラサウンド研究室の取り組み.高知工科大学紀要.2019.16,p.29-37.
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**3:
横田昭寛.津波検知装置,特許5660586号(JP5660586B1).2014.
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**4:
Arai, Nobuo; Iwakuni, Makiko; Watada, Shingo; Imanishi, Yuichi; Murayama, Takahiko; Nogami, Mami. Atmospheric boundary waves excited by the tsunami generation related to the 2011 great Tohoku-Oki earthquake. Geophysical Research Letters. 2011. 38, L00G18.
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**5:
安河内祐輔,齊藤大晶,山本真行.大気中での爆風圧の定量評価及び低周波音/可聴音伝搬特性の直接計測.2019.JpGU 2019,MTT49-P03, 千葉.
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**6:
山本真行,瀬川典久,矢澤正人,横田昭寛.「地球の声」を聞く時代へ~インフラサウンドセンサーとMAD-SS通信を用いた新時代の防災観測網~.電波技術協会報FORN.2019.327,p.32-35.
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*1:
超低周波音、微気圧波、インフラサウンド等の呼称がある。英文ではinfrasoundと表記。20Hzは単にヒトの可聴範囲の下限であり物理学的な性質による境界ではない。超低周波音は空気中の縦波(粗密波)である点で可聴音と同じであるが、周波数が低い(波長が長い)ほど空気の粘性による減衰が少なく長距離を伝搬できる。
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*2:
正式名称は「宇宙品質にシフトMOMO3号機」で同日5:45 (日本標準時)に打ち上げられた。高知工科大学はインフラサウンドセンサーを搭載し成層圏、中間圏、熱圏における音波伝搬特性を計測した。地上の打ち揚げ花火からの衝撃波音を高層大気中で計測できたほか、ロケットが音速を超える際の衝撃波音を地上設置のインフラサウンドセンサー群で捉えることにも成功した。
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