リポート

自社栽培と販売を手掛けることで課題に素早く反映
ハウス栽培に必要なスマート農業

本誌編集長 山口 泰博

2020年01月15日

  • Twitterを開く
  • Facebookを開く
  • LINEを開く
  • 印刷ボタン

大企業を辞め新規就農、野菜の栽培と販売事業で起業するも預金が底をつきそうに。
補助金の活用と研究者との共同研究で復活。
自分で栽培し販売しているからこそ分かる栽培管理がそこにある。

大企業を辞め就農経験を積み起業、底つく預金

自身で栽培農場を持ち、AIやIoT技術を活用して実績を積む会社がある。京都市の南西、西京区と大阪府高槻市の境界にあるポンポン山の麓(ふもと)。そんな静かな農村地域のビニールハウスでIoT機器を使い有機野菜を栽培する株式会社オーガニックnico(ニコ)だ。

中村新社長は、2003年オムロン株式会社を退職し企業経営修行のためベンチャーに転職。2007年に農業現場の課題を知るため、京都府南丹市日吉町で新規就農し有機農法を学んだ。2010年に農業生産の傍ら有機野菜の仕入れ販売を事業とした同社を設立した。

中村社長(写真右)
中村社長(写真右)

だが不安定な生育や安定した品質規格の維持、生産と流通・販売などに振り回され農業法人の過酷さを思い知る。さらに追い打ちをかけたのが資金の枯渇。十分に用意したつもりだった預金が底をつきそうになり苦しい時期を過ごした。中村社長は「このときが一番つらかったと」振り返る。

補助金と技術を活用した経営で黒字に

2012年流通部門を縮小し栽培品目を絞り込み、京都府の農業研修生助成金で黒字化に。研修生から「もっと技術を生かした経営をしたらどうか」の言葉に、自分の本来の目的を思い出す。そして、公益財団法人京都産業21の助成金を活用して、保湿性と通気性の良い環境を作り出す「エコグリーンハウス」と生育環境制御システムの「エコグリーンシステム」のプロトタイプを開発した。翌年には1,900㎡のエコグリーンハウスを自社で建設しトマトの大規模生産を開始しながらハウスとシステムの実証実験で精度を高めていった。

2015年には補助金を活用し商品化にこぎ着け、オムロンベンチャーズ株式会社(東京都港区)から出資を受け入れた。しかしハウスは建設事業だ。小さな会社では広範囲をカバーするのは難しく、エコグリーンシステムだけに特化。このとき地域の信用金庫、銀行からの融資で「死の谷」を何とか乗り越えたと言う。そして2年前から、生体センシングに取り組みながら、有機野菜の生産と直販、アグリサイエンスの二つの事業を柱に事業展開を続けている。

自社栽培に基づくIT化で証明

農業のIT化を旗印に、スマートフォンなどのデバイスで栽培現場の状況がリアルタイムに確認できる事業はひしめいている。

システム構築は、協力農家の意見を聞きながらの開発が一般的だが、同社の場合自社栽培だ。35アールのハウスと95アールの露地栽培(畑)を自社で保有し、トマトやベビーリーフ、九条ネギのほか葉物野菜を栽培。圃場(ほじょう)を保有し、栽培した作物は自ら販売する。さらに後継者不足による耕作放棄地を譲り受け、新たに圃場を確保。作付け面積を拡大中だ。その実績に基づいたデータを生かした生育シミュレーションやコントロールユニット設置による自動化を実現させおり、自社栽培に基づくIT化は説得力がある。

制御装置の説明をする鷲田治彦氏(同社アグリサイエンスグループ長首席研究員・農学博士)
制御装置の説明をする鷲田治彦氏(同社アグリサイエンスグループ長首席研究員・農学博士)

ハウス用環境制御装置「Harmony」

開発したハウス用環境制御装置のエコグリーンシステム「Harmony(ハーモニー)」は、ハウス外の風向きや風速、照度、降雨などをセンサーで計測する。

ハウス内では、温度・湿度、CO、土壌水分、地温なども計測可能だ。また換気扇や天窓・側窓の開閉、遮光カーテン、灌水(かんすい)ポンプ、ヒートポンプなどを制御する。

照度センサーとCOセンサーは、その数値を基にハウス内の目標温度を決めて制御、転流温度と組み合わせて収穫量と品質の最大化を図る。オムロンの協力もあり今では中国での販売が伸びている。

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、京都大学、京都先端科学大学、富山県立大学、奈良先端科学技術大学院大学などとの共同研究や協力関係を構築し研究開発型ベンチャーとして有機農業を支える。

2020年1月目次

特集
リポート
連載
巻頭言
視点
編集後記