リポート

医用光学と計測技術で実用化

静岡大学大学院 光医工学研究科 准教授 庭山 雅嗣

写真:公益社団法人いわき産学官ネットワーク協会 事務局次長 荒木 学

2020年01月15日

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超小型オキシメータの実用化

近赤外分光法(NIRS:Near-infrared Spectroscopy)を用いた一般的な「オキシメータ(血液の酸素化状態や量を測定するための装置)」は名刺ぐらいの大きさの「センサプローブ」を装着して、主に脳や筋肉を計測対象としてきた。

それを従来に比べセンサの体積を100分の1以下にする超小型化・薄型化を実現し、診断者の指に一体化させ触診で表層組織の酸素化状態を計測するという新しいコンセプトの医療機器を産学・医工連携で開発した。

世界的に広く普及しているオキシメータは動脈血の情報を得るパルスオキシメータであるが、われわれが開発しているのは動脈、静脈、毛細血管の情報を含む組織オキシメータであり、その中でも表層組織に着目した装置は皆無であったため新たな組織オキシメータとして多様な展開が期待できる。その開発における経緯や展望などについて述べる。

開発の経緯

静岡大学では医用光学の基礎研究としてNIRS組織オキシメータの定量化の研究を進め、2012年の学会発表において筋組織を対象とした装置の成果発表を行った際に、浜松医科大学(浜松医大)産婦人科の金山尚裕教授より「診断指に装着できる超小型センサができれば胎児の測定も可能になるのではないか」という助言をいただいた。しかし、すぐには実現できなかったため、そのニーズを頭の片隅に入れて様々な製造技術の情報収集や実験を少しずつ行い、約2年後に試作機が完成した。

そこから浜松医大(金山教授)との実用化に向けた医工連携が始まり、製品化するための企業として医療機器製造販売の株式会社アステム(神奈川県川崎市)に加わってもらい、産学・医工連携がスタートした。アステムと静岡大学庭山研究室は2007年ごろから交流があり興味の対象が似ていて、互いに技術を補い合えるため、共同研究も行っていたことから、実用化においてもスムーズに合意が得られた。製品化のための分担として、企業で製品プロトタイプの試作、静岡大学で最終的な計算方法確立**1、浜松医大では試作品を用いたデータ収集を行った**2

製品名は、アステム社長のアイデアで、触診の「触る」をイタリア語にした「toccare(トッカーレ)」に決定した。約1年で電気安全性試験通過と医療機器認証取得ができ、新生児頭部の酸素化状態を把握する装置として2015年に上市するに至った(写真1)。

写真1 診断指装着式超小型オキシメータ「toccare」(株式会社アステム)
写真1 診断指装着式超小型オキシメータ「toccare」(株式会社アステム)

産学連携の円滑化

産学連携において大学側で留意した点が、コスト面とスピード感である。学術研究の中では低コスト化の追求はなじまない面もあり、劇的な低コスト化以外はさほど気にせずに進めることも多かった。しかし企業の方や本学の産学連携コーディネーターと情報交換していくことで、製品化におけるコストの重要性を意識して、部品や手法を選定する癖がつくようになった。例えば、研究用プロトタイプ機では非常に薄いフレキシブル基板と発光素子(ベアチップ)をワイヤーボンディング*1で接続していたが、製造コストが高過ぎたり壊れやすかったりしたため、部品構成や接合方法を再考することとなった。特注の光学素子パッケージを製造することで若干サイズが大きくなったものの特長を損なうことなく低コストで耐久性のあるものができた。

研究では性能や特長の向上を優先的に考えて探求していたが、学術面からどこまで許容してコストを抑えるかという視点でも考察が蓄積したことで、企業との話し合いが円滑になった。また、今回の医療機器は1年弱で認証を得て販売に至っており、企業の努力とスピード感には驚かされた。大学と企業とのスピード感の違いを認識し、学術側で行う検証を高速化して期限までに遂行することに注力した。

迅速に進める上でもう一つ重要と思われるものは、知的財産の契約である。アステムと静岡大学との間で基本的な技術の特許に関してライセンス契約を交わしていた実績があったため、今回の医療機器での契約においても前例を踏襲して契約締結することができた。また、中小規模の企業であることも関係するが決定権を持つ人物と密にディスカッションできたことも順調に開発できた一因であると考えられる。

今後の展開

当初は新生児頭部用のオキシメータ(写真2左)として製品化したが、その後胎児への適用も認められ、周産期医療での利用が広がると思われる。また、2017年ごろから皮弁への利用の有用性が示され(写真2右)、整形外科領域での展開も期待される。

写真2 新生児(左)と皮弁(右)を対象とした測定の様子
写真2 新生児(左)と皮弁(右)を対象とした測定の様子

現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成を受け、皮膚や臓器の酸素化状態をモニターできる機器の実用化を目指しており、今後さらに多様な部位と用途で応用が進むよう産・学(医)・学(工)・官連携で取り組んでいきたい。

参考文献

**1:
Niwayama, M., Yamakawa, T., Implantable thin NIRS probe design and sensitivity distribution analysis, Electronics Letters, 2014, 50 (5), pp. 346-348.
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**2:
Kanayama, N., Niwayama, M., Examiner's finger-mounted fetal tissue oximetry, J Biomed Opt, 2014, 19 (6), 067008, pp. 1-4.
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*1:
直径十数マイクロメートルから数百マイクロメートルの金、アルミニウム、銅などのワイヤーを用いて、トランジスタ、集積回路上の電極と、プリント基板、半導体パッケージの電極などを、電気的に接続する方法。
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