特集地方自治体の気概

市内の大学と中小企業で人工衛星を宇宙へ「がまキューブ」の挑戦

蒲郡市企画政策課 主事(がまごおり産学官ネットワーク会議事務局) 青木 佑紀
愛知工科大学 電子制御・ロボット工学科 教授 西尾 正則

写真:蒲郡市企画政策課 主事(がまごおり産学官ネットワーク会議事務局) 青木 佑紀 写真:愛知工科大学 電子制御・ロボット工学科 教授 西尾 正則

2020年01月15日

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地元の大学と町工場で宇宙を目指す

本プロジェクトは、2017年5月に愛知県蒲郡市内の中小企業7社(飯島産業、飯島精密工業、加藤カム技研、蒲郡製作所、三協、中川製作所、細井鉄工所 順不同)によるプロジェクトチーム「超小型衛星部会」が立ち上がり、本格的に始動した。

蒲郡市では、「がまごおり産学官ネットワーク会議(以下「本会議」)」という団体を設立している。2007年に蒲郡市と市内唯一の大学である愛知工科大学、商工会議所、農業協同組合などの主な産業関係団体が集まり設立した団体で、産・学・官が連携することで、市内の課題解決や産業振興につなげることを目的としている。本会議では2016年ごろより、「市内のものづくり企業の支援につながる産学官連携プロジェクト」を模索していた。

同じく2016年ごろ、愛知工科大学の西尾研究室では、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が公募した「2018年度に打ち上げ予定のH-ⅡAロケットに相乗りする超小型人工衛星」の申請に向けて計画を進めていた。愛知工科大学より情報提供を受け、本会議では、企業が持つ金属加工の技術が人工衛星の製作に生かせるのではないかと、プロジェクトの構想が浮かび上がった。西尾研究室としても人工衛星完成のために精密な金属フレームの製作が不可欠であった。

そして2017年5月、本会議は、西尾研究室とともに人工衛星を製作する企業の募集を行った。地元大学と一緒に宇宙を目指そう!という声掛けに集まったのは、医療機器や自動車関連の部品などを製造する中小企業7社。蒲郡から宇宙を目指すプロジェクトが始まった。

超小型衛星「がまキューブ」の誕生

プロジェクトチーム「超小型衛星部会」立ち上げの間に、愛知工科大学の超小型人工衛星の計画が無事JAXAによる公募に採択されたため、2017年6月より、西尾研究室と超小型衛星部会の7社は製作に取り掛かった。製作するのは、愛知工科大学の宇宙研究に使用される予定の実験衛星「目で見る人工の星」。一片約10cmの立方体と人工衛星の中でも特に小型だが、搭載したLEDや魚眼レンズカメラを使用し、四つの実験を行う計画であった。

超小型衛星部会 話し合いの様子
超小型衛星部会 話し合いの様子

公募に採択されても、JAXAが規定する環境試験の基準を満たせなければロケットへの搭載を許可されないため、打ち上げまでの短い期間に基準を満たす試験用の衛星と、実際に宇宙へと向かう衛星であるフライトモデルの二つの衛星を製作する必要があった。超小型衛星部会はジュラルミン製の衛星の筐体(きょうたい)部分を担当したが、皆手探りのスタート。本業の合間を縫って加工し、夜間に集まって組み立てることを繰り返した。西尾研究室も限られた時間でクリアしなければならない課題が多く、研究員一丸となり全力で取り組んだ。

そんな中、2017年11月に超小型衛星に名前が付いた。愛称募集で、市内の子どもたちを中心に691通の応募の中から、「がまキューブ」という名前が選ばれた。市民の関心も高まっていった。

2018年8月、がまキューブは完成し、メディア関係者へお披露目した後にJAXAへ納品された。

超小型衛星「がまキューブ」
超小型衛星「がまキューブ」
がまキューブ完成発表
がまキューブ完成発表

超小型衛星部会の担当した筐体はJAXAが求めた規定の10倍を超える精度を達成していた。

2018年10月29日に、種子島宇宙センターから宇宙へと無事打ち上げられた。打ち上げ当日、愛知工科大学で実施したパブリックビューイングでは、開発関係者や市民の方たち約130人が会場で打ち上げを見守った。

がまキューブと産学官連携

今回の取り組みは市内の産学官連携の新しいモデルとなった。超小型衛星部会は衛星の製作だけでなく、共同で展示会に出展するなど宇宙産業参入に向けた活動も行った。宇宙産業に大きく参入するまでには至っていないものの、展示会への参加で新規の取引につながる成果もあった。

がまキューブは打ち上げ後、通信状況が芳しくなく予定の実験を行えていないが、その原因について西尾研究室にて解析中である。また、解析をもとに、新たな衛星の開発準備を進めている。

西尾研究室と超小型衛星部会は、打ち上げ費用などの課題があるものの、さらなる宇宙への挑戦を続けていく。

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