連載地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか

第11回 競争的研究資金獲得と産学連携を推進する組織の力

群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授 登坂和洋

2019年12月15日

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研究の高度化、競争的資金の獲得、共同・受託研究の推進、あるいは知財活用――。いずれのテーマも、やるべきことはどの大学も分かっているし、実際に推進している。しかし、各部門のトップが号令を掛けるだけで計画が次々と実現していくわけではない。組織がうまく回るとはどういうことなのか。現場での具体的な取り組み以前に、トップの危機意識が教員・研究者、職員にどれだけ浸透しているか、職場の雰囲気が明るくて教職員間のコミュニケーションがよく取れているか、といったことが案外重要なのかもしれない。

CREST、さきがけは研究力の一つの指標

興味深いデータがある。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が2019年度の「CREST」、「さきがけ」の新規採択課題を発表した時に「参考」として付けた「応募件数・採択件数の属性別比較」である*1

説明が必要だ。JSTのファンディングの柱は「基礎研究・未来共創研究」と「シーズ育成から企業化開発」*2。後者は産学官連携、前者はその技術シーズを創出するための研究である。

CREST(科学技術イノベーションにつながる卓越した成果を生み出すチーム型研究)と「さきがけ」(科学技術イノベーションの源泉を生み出す個人型研究)は「基礎研究・未来共創研究」のなかのプログラム名で、ERATO(卓越したリーダーによる独創的な研究)とともに長い歴史がある*3。これらに幾つ採択されているかは、その大学の研究力の一つの指標になる。

「応募件数・採択件数の属性別比較」は前年度までの発表にはなかった資料だが、各プログラムの2017~2019各年度の応募件数、採択件数、採択率(応募件数5件以上の機関が対象)の上位10機関のリストである。

トップ大学のRU11*4と国の研究機関・大学共同利用機関を除き、複数個所に名前の出てくる国立大学が二つある。「卓越した教育研究型」(機能強化の重点支援③)の金沢大学と、地域貢献型の横浜国立大学である。

横浜国立大学は2018年度のさきがけの採択率(28.6%)が2位、2019年度のCRESTの採択率(20.0%)がトップだった*5。これに関連する情報を同大学が「競争的研究資金獲得実績等」で公開している。この中から各年度のCREST、さきがけの(参考までに「科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(S)」を加えて)採択件数を拾ったのが表1である。

表1 横浜国立大学 競争的研究資金獲得実績(年度、採択件数)

2015、2016年度から増え始め、この基調が続けばという条件付きだが、安定的に獲得できるようになったように映る*6。それにしても短期間にこのように足腰を強くできるものなのだろうか。情報系の研究者の健闘も大きな要因と思われるが、採択を重ねるのに伴いノウハウを蓄積しているはずである。

産学連携についてのこの連載でなぜ「研究」のことを取り上げるのか。ハイレベルの競争的研究資金獲得の増加が、学内組織・人の歯車が滑らかに回り始めたことの表れであるとすれば、そうした組織の活性化は産学連携にも影響を及ぼしているかもしれないと思うからだ。

研究を高めた組織の力

文部科学省の「大学等における産学連携等実施状況」のデータを見よう。実績が発表されている2017年度までの数年間の横浜国立大学の「企業からの共同研究費受入額」をグラフにしたのが図1である。増加傾向にある。機関別の順位は2013年度に30位に低下したものの、その後上昇し、2015年度以降、25位が続いている。2017年度の場合、地方国立大学では6位だ。

図1 横浜国立大学の企業との共同研究費受入額と機関別順位の推移

同年度、以下の二つの項目で躍進した。

  • 企業との大型共同研究(1,000万円以上)の研究費受入額は約1億4600万円で25位。前年度はトップ30の圏外だった。地方国立大学では6位。
  • 「企業との共同研究に伴う研究者一人当たりの研究費受入額」は67万4千円で21位(前年度は30位)。地方国立大学では工業・単科系の名古屋工業、豊橋技術科学、長岡技術科学の各大学を除くと、山形大学に次ぐ位置だ。

横浜国立大学は包括連携協定を締結した地元企業との結び付きを大型共同研究に発展させているケースが多いと思われる。それにしても同大学は研究者600人でよく戦っている。山形大学の研究者は1,200人である。

文部科学省が2018年度分の調査結果を公表するのは2020年2月末の見通しだが、横浜国立大学は研究推進機構サイトで2018年度までの「共同研究・受託研究受入状況」を発表している。

ここでの「共同研究」は企業以外の様々な機関も含んだ数字だと思われるが、受入額(カッコ内は受入件数)は以下のように推移した。2014年度3億3500万円(176件)、2015年度3億5500万円(198件)、2016年度3億9600万円(206件)、2017年度5億9800万円(214件)、2018年度5億9200万円(257件)。

2017年度に激増し、2018年度も底堅さを維持している。これだけで、ブレイクスルーが起きているとは断定できないが、前述のハイレベルの競争的研究資金獲得の躍進と合わせて考えると、2015、2016年頃から研究推進、産学連携部門に何らかの“化学反応”が起きているのではないか。別の言い方をすると、組織・人の歯車がかみ合い始めたのだろう。

グループ研究を重点支援

横浜国立大学はグループ研究を比較的古くから重点支援している。学内の研究者が独自に形成した研究グループの中から優れたものを認定する「YNU研究拠点」である。関連サイトによると、拠点は現在27あり、拠点の研究から高度な競争的研究資金獲得に結び付いているケースが多い。

工学系のテーマの認定が一巡したせいなのか、2017年度以降に認定された7件の拠点の拠点長の所属は国際社会科学研究院、都市イノベーション研究院、環境情報研究院。これらの研究内容には「持続可能な海洋の開発利用」「パラグアイ他中南米諸国における開発政策・社会開発政策」「生態リスクを中心とした地域環境学」「学際的な国際開発研究」などがあり、SDGsにも対応できる。

同大学が強みとしている研究情報分析を生かした、次の時代への布石なのだろう。

地方国立大学の産学官連携の先頭集団を走っている横浜国立大学は、大都市圏の医学部のない中規模大学として、研究と産学官連携をつなぐ新しいモデルを模索しているように見える。

「世界トップレベル研究拠点プログラム」に採択

金沢大学にも触れておこう。前述のJSTの資料では2018年度のCREST採択件数(2件)が9位で、採択率(40.0%)はトップ。同年度のさきがけの採択率(20.0%)も6位と高い水準だった*7

同大学は2013年にスタートした研究大学強化促進事業に採択されなかった。同事業では以下の「ヒアリング対象機関選定のための指標」が示されていた。

  • 若手を含む多くの研究者による質の高い研究(科研費の4指標、拠点形成事業採択数、戦略的創造研究推進事業「新技術シーズ創出」)採択数)
  • 国際的に質の高い論文(トップ10%の割合、国際共著の割合)
  • 研究成果の社会還元(研究開発状況:企業との共同・受託研究、技術移転状況:特許権実施)

同大学は対策の強化に乗り出し、特に「戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)」のCRESTとさきがけに力を入れたようだ。期待した事業中間評価での支援大学入れ替えは行われなかったが、取り組みの効果は大きかったわけである。さらに2017年9月、文部科学省「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)に採択された。

こうした良い地合いを、今後、産学連携にどう生かしていくのか。

(次号に続く)

*1:
「応募件数・採択件数の属性別比較」には、「ACT-X」というプログラムのデータも載っている。
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*2:
JSTホームページの「目的別事業紹介」を「ファンディングを利用したい方」で検索すると、ファンディングプログラムを持つ以下の7分野が示される。「基礎研究・未来共創研究」、「シーズ育成から企業化開発」、「国際共同研究・研究交流」、「科学と社会との対話・理数教育」「SIP」「文科省受託事業」「出産・子育て・介護支援制度」
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*3:
CREST、さきがけ、ERATOなど事業名は「戦略的創造研究推進事業」。
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*4:
トップ大学を自任する11大学(旧帝大、早稲田、慶應義塾、筑波、東京工業)で構成するコンソーシアム。正式名称:学術研究懇談会。
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*5:
採択率の前者は7件応募し2件採択、後者は5件のうち1件採択ということになるが、これはすごいことだ。2019年度のCRESTでは、58件応募したある旧帝大が、採択数トップ10(10位の採択件数は2件)に入らなかったという例がある。
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*6:
2017年度に採択されたCREST1件とさきがけ2件はいずれも「量子」に関するテーマだが、重点化の成果なのだろうか。
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*7:
金沢大学先端科学・社会共創推進機構が公開している「特色あるプログラム」によると、CRESTは2015年2件、2018年2件。さきがけは2014年3件、2016年2件、2018年2件それぞれ採択された。
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