連載地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか

第9回 領域広げる「地域連携」 大学を動かす

群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授 登坂 和洋

2019年10月15日

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教育、研究と並ぶ大学の使命である「社会貢献」については、多くの国立大学が「産学(産業)連携」、「地域(社会)連携」、「国際連携」などの機能に分けて取り組んでいる。このうち「地域連携」は、関連する部門を再編するなどして強化する大学が増えている。何が起きているのか。

4組織を統合して「人と地域共創センター」

徳島大学は2019年4月、地域創生センター、大学開放実践センター、研究支援・産官学連携センターの産業人材育成部門およびCOCプラス推進本部の四つの組織を統合して地域の人材育成を行う新組織「人と地域共創センター」を設立した(図1)。各組織が長年続けてきたこれらの取り組みは、地方国立大学の地域貢献活動としては代表的なものだが、それらを統合して組織的、戦略的に推進しようというのだ*1

図1 地域の人材育成組織を統合

その人と地域共創センターが初めて取り組む大型プロジェクトの一つが徳島県と連携して2019年10月に開設した「とくしま健康寿命からだカレッジ」。全学協働によるリカレント学習プログラムである。

徳島県は糖尿病死亡率や要介護認定率が高く、健康寿命が都道府県別では男性44位、女性43位(共に2016年)と短いことが背景にある。

10月に開講したのは基礎課程(2020年3月まで)で、2020年5月に資格認定を伴う専門課程を開設する。基礎課程では、健康寿命を延ばす基礎資質の向上(メタボリックシンドローム、ロコモティブシンドローム、認知症の予防)を目指し、健康寿命パートナー(健康寿命延伸に関わるボランティア活動を行う人)を育成。専門課程では基礎課程修了者、医療関係の専門職とそのOBらを対象に、健康の目的に応じた具体的な健康運動指導、生活支援ができるリーダー・指導者(健康寿命マイスター)の養成を目指す。

ポイントは募集定員の約半分の「市町村推薦枠」だ。徳島大学は既に県および県内全市町村と連携協定を締結している。このネットワークを生かし、カレッジで養成した専門人材をマンパワーとして県内各地で健康プロジェクトを展開しようという構想だ。大学の人材育成の効果を県の隅々に波及させることができる(図2)。

図2 とくしま健康寿命からだカレッジ 基礎課程

徳島大学の講座は本格的な総合的学習プログラムで、「国立大学初の取り組み」とうたっている。本連載第3回と第4回で取り上げた弘前大学の健康増進プロジェクトにも地域の保健活動の担い手を養成する仕組み*2がある。

高い糖尿病死亡率

関連情報を二つ記す(同カレッジの講座案内等に「関連」との記述があるわけではないが)。一つは、徳島大学が2010年に設立した糖尿病臨床・研究開発センター*3の存在だ。「企業と大学」2019年6月号の紹介記事によると、糖尿病は世界保健機関(WHO)が唯一指定する克服すべき疾患で、世界では6秒に一人の割合で糖尿病に関連する死亡が生じているという。徳島県の糖尿病死亡率は、1993年から数年間を除き、国内ワーストワンがほぼ続いている。こうした課題を克服するために研究*4を進め、近未来の糖尿病診療へ展開することを目指している。

糖尿病臨床・研究開発センター長の松久宗英教授は、2019年7月7日、同大学常三島キャンパスで開かれた人と地域共創センター設立記念・同カレッジ開設フォーラム(「本気で延ばそう! 楽しく延ばそう! 健康寿命」)のパネル討論で「健康寿命の敵、メタボ」について分かりやすく解説した。

もう一つ。2018年7月26日に開催された科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会第9期地域科学技術イノベーション推進委員会(第4回)で野地澄晴学長が同大学の地域科学技術イノベーションについて話をした。そのなかで、シーズよりニーズから行く方が社会実装の成功率は高いのではないかと述べ、その例の一つとして同県の糖尿病死亡率ワーストワンを取り上げた。「不名誉な1位だが、糖尿病を解決することをむしろ頑張ろう。これもニーズドリブンのイノベーションを起こそう」と、異分野融合研究の一環で進めている。

「大きな物語」の可能性

整理しよう。同カレッジで健康指導できる専門人材を養成し、その人たちと県内各地で健康プロジェクトを展開する。糖尿病臨床・研究開発センターでは文字通り先端的な臨床、研究開発を進める。さらに産業院ではニーズ(糖尿病死亡率ワーストワンから抜け出したい)起点のイノベーションを目指す――。

これら三つを組み合わせたらさらに大きな物語が書けるだろう*5。例えば、全国一の短命県(青森県)からの脱出を目標とする弘前大学の住民コホート研究が国の大型競争的資金プログラムに採択されてからわずか数年で、県民運動の盛り上がりを背景に、国家的プロジェクトに大化けしたように。

こう見てくると、大学の人材育成機能を活用した同カレッジ=地域貢献事業が、産学連携・資金獲得、研究の高度化などの駆動力になる可能性があることが分かる。大学の中で、地域連携の位置付けが変わりつつあるのではないか。

地域社会課題解決を目指すプログラム

文部科学省は2019年度、「科学技術イノベーションによる地域社会課題解決(DESIGN-i)」という新しい競争的資金プログラムを始めた。採択課題は図3の4件である。

図3 DESIGN-i 採択課題

いずれも各フィールドでの地道な活動が背景にあるのだろう。テーマは、ひと昔前の感覚では “こてこて”の地域連携だ。第2期科学技術基本計画(2001~2005年度)時代の知的クラスター創成事業から現在の地域イノベーション・エコシステム形成プログラムなどへと続く地域科学技術イノベーション政策分野のプログラムだが、大学から地域産業への技術移転を目指す従来の地域産業振興策(シーズプッシュ型重視の量的+質的拡大)ではなく、地域の社会課題を起点にして科学技術を活用する(ニーズプル型重視による質的拡大)という新しい仕立てにしているのが特徴だ*6。COCプラスなど古くからある「地域連携」系のプログラムとも趣を異にする。

地域の社会課題という視点は地域科学技術政策の分野にとどまらない。本連載で見てきたようにセンター・オブ・イノベーション(COI)のような拠点型競争的資金プログラムでも地域課題解決のストーリーを組み込んだプロジェクトが少なくない。また、地方創生では各府省がさまざまな事業を展開し、大学に関わるプログラムも多い。

こうしたことを裏付ける分析がある。科学技術振興機構(JST)によると、日本の科学技術イノベーション政策では「人材育成」、「産学官連携」、「地域振興」の3領域に共通する施策が増えている、という*7

「地域連携」が浮上した背景の一つは国の「地方創生」。もう一つは、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成にもつながる「社会課題解決」というキーワードが科学技術イノベーション政策の前面に出てきたことだろう。

一言でいえば従来、大学の経営者、研究者らから等閑視されていた「地域連携」にお金がつくようになったのである。

地域連携、産学連携にまたがる案件

これまで地域連携部門と産学連携部門はあまり接点がなかったが、上述のようなことを背景に両部門にまたがる案件が増え業務の調整が必要になってきた。競争的資金プログラムによっては、学内の研究、教育、産学連携、地域連携の各機能を融合させて申請しなければならない。DESIGN-iでは、ベースとなる地域連携課題の発掘・つくり込みと、産学官金連携、技術移転(将来的に大学のシーズを取り込む)、「課題解決の達成を『産業構造の転換』と捉える視点」などを組み合わせてストーリーを作る必要があった。

こうした環境の変化が大学の組織に“改革”を強いている。

金沢大学は2019年2月、先端科学・イノベーション推進機構と地域連携担当部局(地域連携推進センター)を統合して「先端科学・社会共創推進機構」とした(事務部も合わせて改組)。金沢大学と同じ「卓越した教育研究型」(機能強化の重点支援③)グループの西日本の大学は2019年10月から産学連携、地域連携、URA組織などを一つの組織に統合*8。両大学とも、産学連携部門と地域連携部門の双方から「これはうちの仕事ではない」と言われる案件を調整しやすいようにするのが狙いだ。

徳島大学以外の地方国立大学はどうか。

組織対組織の地域連携だが、三重大学は2018年4月、シンクタンクである学内組織の地域戦略センター(自治体への政策提言を行い、政策実現のためのプロジェクトを実行)を取り入れる形で、大学の本部機能として地域創生戦略企画室(室長は学長)を設置し、地域企業や自治体等との戦略的なプロジェクトの企画、展開を行っている*9

熊本大学は2017年4月、地域と連携する学内の3組織を集約して熊本創生推進機構を設置し、2018年度、さらに地方創生を強力に推進する中核的組織として再編・強化した。同機構(機構長:研究・社会連携担当理事)では熊本創生推進本部の下に地域連携、リスクマネジメント、イノベーション推進の3部門がある。地域の窓口を一本化し、地域ニーズ集約や大学全体の地域の課題解決の取り組みをマネジメントできる体制だ*10

態勢立て直すチャンス

政権の要求(「地方創生」への大学の貢献)であれ、科学技術政策の世界的なうねり(社会課題解決への大学の貢献)であれ、打ち出される施策(競争的資金など)は大学が地域に対して役割を果たすための呼び水に過ぎない。

「地域連携に多くの予算がつくようになったから対策を強化したほうがいい」と考えるのではなく、学内の経営資源を基に地域に対して何ができるのかを再検討し態勢を立て直すチャンスと捉えるべきだろう。

(次号に続く)

*1:
人と地域共創センターのサイトのトップページにあるコピーがなかなかいい。「多様な人々の生涯にわたる学びに対応し、創造的社会に貢献する人材の輩出とそのコミュニティの共創を使命とする」
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*2:
弘前大学の健康増進プロジェクトのなかに「短命県からの脱出」を目指した以下の仕組みがある。
・ひろさき健幸増進リーダー制度……弘前大学と弘前市が連携して、地域や職場における保健活動の担い手を養成する講座を開設。修了者を認定。
・弘前市健康づくりサポーター制度……町会を単位として市の保健師とともに地域の健康づくりに取り組んでもらう人を専任。
・県医師会附属「健やか力推進センター」……県内の健康増進の中核的組織として積極的な健康増進介入活動を展開するとともに、地域、職場、学校でこの活動を行う「健やか隊員」を育成研修。
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*3:
糖尿病臨床・研究開発センターは2017年4月から、徳島大学先端酵素学研究所の附属施設となっている。
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*4:
糖尿病患者に特有の筋障害の病態と機序を明らかにする、新しいICT医療連携基盤を糖尿病診療に最大限活用する、病態の本質であるインスリン産生細胞である膵β細胞の障害を生体で可視化する――の三つを目指す研究が柱。(「企業と大学」2019年6月号「徳島大学から世界に発信する糖尿病研究開発拠点『糖尿病臨床・研究開発センター』」)
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*5:
徳島大学をはじめ徳島県の産学官金は2014~2018年度、「とくしま『健幸』イノベーション構想推進地域」(プログラムのテーマ「徳島糖尿病研究開発イノベーションの創出による糖尿病克服と健康・長寿社会の実現」)という名称で知のネットワーク構築や人材育成による地域活動を展開した。文部科学省・経済産業省・農林水産省・総務省連携事業「地域イノベーション戦略推進地域」および文部科学省「地域イノベーション戦略支援プログラム」の支援を受けた。
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*6:
「科学技術イノベーションによる地域社会課題解決(DESIGN-i)」に関する記述は同プログラムの公募要領や公募説明会資料などを参照。
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*7:
JST研究開発戦略センターがまとめた研究開発の俯瞰報告書「日本の科学技術イノベーション政策の変遷 ~科学技術基本法の制定から現在まで~」(2019年3月)によると、日本の科学技術イノベーション政策を10領域(基本政策、人材育成、産学官連携、地域振興、知的財産・標準化、研究基盤整備、研究開発資金制度、評価システム、国際活動、科学技術と社会)に分類して俯瞰すると人材育成、産学官連携、地域振興の3領域に共通する施策が増えている。
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*8:
本稿執筆の9月7日までの情報。
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*9:
大学広報誌「三重大X」vol41(2018年12月発行)の「地域創生戦略企画室特集」では、同企画室設置の目的について「地域創生の推進を行うプロジェクトを、全学を総合的に見ながら組み上げ、本学の研究力・教育力を深化させること」としている。
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*10:
熊本大学熊本創生推進機構のサイトを参照。「機構長挨拶」によると、「震災(2016年の熊本地震)を契機に、研究者個々人の研究テーマに応じた地域貢献から、地域の課題に複数の研究者の研究テーマを複合化して対応する地域貢献に変わりつつある」ことが背景だった。
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