リポート

大学発ベンチャー経営者として

株式会社アグリライト研究所 代表取締役 園山 芳充

写真:株式会社アグリライト研究所 代表取締役 園山 芳充

2019年9月15日

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「体制」づくり

当社は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「独創的シーズ展開事業大学発ベンチャー創出推進(2008~2010年度)」を経て*1、2011年12月に起業した山口大学農学部発ベンチャー企業であり、現在8期目を迎えている。

同プロジェクトは、大学などの研究成果を基にした起業および事業展開に必要な研究開発を推進することにより、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学発ベンチャーが創出され、これを通じて大学などの研究成果の社会・経済への還元を推進することを目的とした事業である。

専門学術領域である「農業気象学」を得意とする、植物の状態とその生育環境の把握や理解、関連付けのプロセスにより、目的に沿う植物活用の仕組みを創造する、研究・開発技術の商品化や植物解析などを自社研究と受託研究を行う事業を進めている。植物への生育環境や測定で重要な植物への「光」の扱いを特に専門とすることから、社名で表すとおり、「農業に光を当てよう・活性化しよう」という想いである。

私自身は起業1年前までは、研究試薬や機器を扱う民間企業商社マンであったが、前述のJSTプロジェクトを進行中であった山本晴彦先生(現・当社の研究顧問、山口大学農学部教授)や、学術研究員の岩谷潔氏(現・当社の取締役、研究・技術担当、山口大学農学部学術研究員兼任)へも定期的に訪問していた。そして情報交換中、プロジェクト終了時にベンチャー企業を設立するといっても営業マンが不在となる話題となった際、自ら「コト」を仕掛けることができる環境と研究テーマに興味があったことで、思い切って山口大学へ転身、経営者への道が開ける。2010年の9月のことである。

山口大学に入ってもすぐに起業するわけにいかず、理系魂を戻すように研究室ゼミへの参加、学生と一緒に研究などを行いながら(結果的に、起業後も二足のわらじで2018年2月まで研究員として在籍)、研究成果を用いて事業化するなど起業への準備を進め、山口大学へ転身後、約1年後の2011年12月に起業。園山と岩谷の役員2人のみで営業を開始した。研究の進行により博士(農学)への道も開けていたが、大学発ベンチャー企業で役員全てが博士よりも、私は民間企業で営業経験者であることを武器に経営と営業役として、そして岩谷は同研究室を卒業から博士(農学)取得、学術研究員として在籍しており学術担当役と、明確に役割分担している体制がバランスがとれていると考えており現在に至っている。

「モノ」販売の難しさ

起業当初、コア技術である「光害阻止技術」を実装した「LED照明灯具」をOEM製造してもらい、当社で販売する戦略もあったが、商品に求められる専門外の知識の必要性、業界営業経験者が必要なその商流の複雑さに驚いたことがある。また、商品製造を依頼するにもその製造数単位が大きく資金が必要で、またその在庫が売り切れる頃には技術更新や材料・組立工数の低コスト化のため、投げ売りになってしまい、利益が出ないのではないかと考えていた。

そこで光らせ方という技術を、照明器具メーカー*2に伝え、メーカー側は独自のマーケティングにより使用する商品を選択し自由に商品化し、当社は製造数により半年ごとに対価を頂く手法で、開発技術の社会実装(商品展開)を進めている。起業1年目より大手企業と当時2人の役員だけの当社が対等に情報交換しこの体制が構築されたのも、研究成果がJST事業により山口大学で進められ、また知財を保有しているという後ろ盾があったからと感じている。大手となると、扱い数の多さから技術搭載の部材費も各段に安価で構成でき、当社が大量に依頼して大幅に下げられそうと思った数字よりも、20分の1の価格で部材ができると言われた際、面食らったのを鮮明に覚えている。設計・営業部隊を不要として在庫を持たないのが現在の当社のスタイルだ。当社は、大学発ベンチャー企業であるから専門領域があり、やはり研究指向で、技術の商品展開よりも研究が得意な体制であり、次から次へと研究成果を生み出す役割が適役と考えている。

栽培研究設備の一例 Finevege-Lab(ファインベジラボ)

「委託研究承ります」が提示できる立ち位置

研究成果を実装したモノという「商品」の販売にハードルの高さを実感したことが、当社の役割を再考するきっかけとなった。同じ時期、山口県よりも農業が盛んな熊本県へ拠点を移してはとお声掛けを頂く機会もあり、新たなメイン事業品目を立ち上げる検討も始まった(2017年・当社6期中)。

大学の役割や研究成果について、私自身社会人となって三つの立ち位置で見ていたことの経験値が、新たな着想へ至る原動力となった。三つの立ち位置とは、①大学や民間企業の研究室に試薬や研究機器を提案して販売する商社マン、②山口大学農学部の学術研究員、③現在の山口大学農学部発ベンチャー企業の代表取締役であり、人生の約半分の約20年間、3種類の異なる視点から山口大学を見続けてきた。

民間企業が新商品の開発を行う際、大学の研究成果を活用、また大学に新商品の性能試験評価を依頼するなど、民間企業は大学と連携している関係性や評価頂いたデータの活用、いわゆるお墨付きを欲するシーンがある。一方、大学は教育機関の役割もあり、民間企業を含む外部機関との共同研究や委託研究は、外部から研究員を短期雇用で雇えるほどの求心力と外部機関からの資金が得られない場合は、研究室の人員、つまりは所属する大学院生や学部生のマンパワーを活用して研究を進めることとなる。また日本の大学は、売上利益を追求する機関ではなく、研究成果の実績、つまり学会や論文発表、さらには特許出願などの件数を追求する考えが根強い。民間企業が「大学にお願いしたい!」とアプローチする場合、こういった事情を知らないケースが多く、データ評価に想定以上の時間がかかった(スケジュールに融通が利かない・希望通りに進まない)、学会発表されてしまい技術の一部が公知となってしまったという声を聞く。

先述のように大学の研究成果は、民間企業を経由して商品となる「社会利用化」シーンもあるが、それは成果の一部に過ぎない。これは、基礎的な研究成果を社会利用できるようにするためには、民間企業が商品として成立させる過程で、より多条件での再現性確認、技術効果を生み出す機構のコスト検討、その他、容積や重量、危険物表示の承認など、再現試験を含めた応用研究を実施するための時間とコストを要してしまうからである。これが、大学の研究成果が教育機関の役割として研究が実施され学会発表などで公表はされるが、社会実装させるシーンは一握りとなる現状の理由の一つである。

そこで、民間企業が大学へ求めているものを当社が役割を担えないかという着想が生まれる。当社の専門学術領域は「農業気象学」であるが、その専門性を生かして大学と同様に文献調査に基づく先行研究の成果を参考に、民間企業からの依頼内容を進める上での仮説を設定することで、依頼研究のための試験構築が可能となり、専門性が必要となる植物サンプルなどの(生育)管理、専門的視点や作法での評価、そして研究の最重要項目である得られたデータの意味付け、つまり依頼内容に向けたデータ解析と読み解き、知見の展開まで担う事業である。民間企業が大学に研究依頼する動機部分を質的にかなえる一連の動作を、フットワーク軽く必要な工数の積み上げによる明確な費用見積もりの上、役務を承るという「受託研究」事業を全面に展開し始めた。新規プロジェクトや新規事業立ち上げをもくろむ民間企業をターゲットに、「御社の研究室になります!」という立ち位置である。

すると、誰もが知る大企業より問い合わせが入るようになってきた。その大企業の既存事業内容からは植物や農業とは全く無縁の印象であるところがほとんどで、聞くと「次世代に向けて植物から得られる成分を利用して新事業を立ち上げたい」「自社の得意分野であるこの資材や機構を利用して、植物生育に利用できる新商品を展開したい」など植物を対象とする農業分野への新事業を模索しているとのことで、「研究チームを立ち上げる前の調査段階」「全く異分野なので自社内に専門研究員が不在」という事情から、当社の「受託研究」事業へのアプローチと受注が増加している。

大学の役割や研究成果を三つの立ち位置で見ていたことで、かゆい所に手が届く事業を立ち上げることができたが、民間企業からの依頼はさまざまである。今後も、多くの学術分野や異業種の方ともコミュニケーションを取り、自らの技術のみに縛られることなく課題解決をモットーとする「課題ドリブン」型大学発ベンチャー企業として、新たな需要を喚起しサービスを展開できると考えている。提示される課題をいかにして解決するかの「ひらめき」を大切に、確かな技術力と課題解決力を発揮し続ける大学発ベンチャー企業として、さらなる発展と新たな地平を目指したい。

*1:
JSTによるプレスリリース
https://www.jst.go.jp/tt/topics20120201.pdf(accessed 2019-09-15)
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*2:
http://www.agri-light-lab.co.jp/?p=4711(accessed 2019-09-15)
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