連載地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか

第7回 大型共同研究の拡大 5大学が貢献

群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授 登坂 和洋

2019年8月15日

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前回は、地域創生に取り組む大学のモデルとして評価される三重大学の歩みとその背景を概観するとともに、「大学の地域社会との連携」が「大学と企業の組織対組織の産学連携」を推進するための一つの駆動力になっていることを確認した。こうした考察のツールとして、大学の産学連携に関するデータの一つ「同一県内企業及び地方公共団体との共同・受託研究実施件数」に着目した。

文部科学省(文科省)が毎年まとめているこの調査結果分析の最新版、すなわち、2017年度「大学等における産学連携等実施状況について」の内容を、「地域社会との産学連携関係」以外のテーマでは取り上げてこなかったので、今回は幾つかの切り口で読んでみたい。

「選択と集中」施策の成果か

初めて見た時「これほどとは」と驚くと同時に「でも、こうなるだろうな」と納得したデータがある。「民間企業との共同研究費受入額1,000万円以上の実施件数」だ。以下が2017年度の実績である。

○1,052件  前年度比 134件(14.6%)増

図1は過去の推移である。同年度の14.6%という増加率をどうみるべきか。このペースで拡大を続けると5年で約2倍になるのだから、相当高い伸び率と見ていいだろう。

図1 企業との共同研究費受入額1,000万円以上の実施件数の推移*1

2014年比で2025年までに企業から大学等への投資を3倍増とする政府目標があり、大学は企業との「組織」対「組織」の「本格的な産学連携」に取り組み、大型の共同研究(1件当たり1,000万円以上)を増やすことが求められている。

上のデータからはまずまずの状況であるとも受け取れるが、果たしてそうか。

表1は増加数上位5機関である。注目していただきたいのは5大学の「対前年度増加数」の合計だ。この121件は、筆者が書き加えたものだが大型共同研究全体の増加件数(134件)の実に90%を占める。5大学に限定するものではないが、トップ大学以外は、全体としては大型共同研究をあまり増やせていないことになる。

表1 前年度と比較して企業との共同研究費受入額1,000万円以上の実施件数が増加した機関*1

「選択と集中」施策の成果が顕著に現れているテーマの一つではないだろうか(増加数134件中、5大学で121件という結果は、産業界側にも問題があると筆者はみている。こうした大型共同研究のなかには大企業の「アリバイづくりの産学連携」も少なくないと思われる。別の機会に論じたい)。

表1でトップの大阪大学は1年間で40件(50%)も増やした。同大学の企業との共同研究の全体像は以下のようになる。

○共同研究実施件数 1,250件 (内 受入額1,000万円以上 120件)

○共同研究費受入額 約68億円 (同  約50億円)


つまり企業との共同研究費受入額約68億円のうち約50億円は、件数で9.6%の大型共同研究(120件)が稼ぎ出しているということになる。

共同研究件数全体に占める大型共同研究の割合は、名古屋大学(9.7%)、東京医科歯科大学(9.4%)、京都大学(9.3%)なども高い。

変わらざるを得ない大学のシステム

規模の違いはあるものの地方国立大学でもこうした傾向は見られる。

表2は、地方国立大学における大型共同研究の位置付けを見るために作成した。「企業との共同研究費受入額」、「大型共同研究の研究費受入額」、「共同研究実施件数のうち大型共同研究の実施件数が占める割合」の3テーマのトップ30機関ランキングにすべて入っているのがこの5大学である。

表2 民間企業との共同研究における大型研究(研究費受入額1,000万円以上)の位置付け*1

読み方はこうだ。山形大学の場合、企業との共同研究実施件数のうちわずか4.0%の大型共同研究(14件)が、共同研究費受入額全体(8億8200万円)の半分近く(4億2400万円)を獲得している。

山口大学でも、大型共同研究(7件)は共同研究件数全体のわずか3.8%だが、その共同研究費獲得額(1億7600万円)は共同研究費受入額全体(3億9000万円)の45%を占める。

弘前大学は共同研究費受入額トップ30のランキングには入っていないが、大型共同研究が8件と多い。共同研究件数のうち大型共同研究が占める割合は8.1%で、地方国立大学のなかでは一番高い。大型共同研究の研究費受入額は1億4300万円でトップ30のランキング入りした(27位)。

以上のように大規模有名大学においても地方国立大学においても、研究費獲得競争において大型共同研究への依存度がここまで高くなると、研究テーマの発掘・シーズの作り込み、企業への提案の仕方といった狭義の「産学連携」分野にとどまらず、研究の在り方、さらに大学のシステムの変容をもたらすだろう。

上位5大学で67%

国公私立大学等全体の「民間企業との共同研究」の数字も確認しておこう。件数、研究費受入額は以下のように、ともに増加した。

○共同研究実施件数  25,451件 前年度比2,430件(10.6%)増

○共同研究費受入額  約608億円 前年度比約83億円(15.7%)増

金額ベースで年間15.7%の増加は好調と言っていい。企業からの資金導入が急ピッチで拡大している主な要因は、上で述べてきた大型共同研究の急増である。

トップ大学への集中を示す次のようなデータもある。「前年度と比較して受入額が増加した機関」トップ5(表3)である。

上位5大学の「対前年度増加額」を合わせると55億7500万円。合計額は筆者が書き加えたものだ。全体の増加額が約83億円だから、国立5大学で67%を占めている。

表3 前年度と比較して民間企業との共同研究費受入額が増加した機関*1

受託研究伸ばした長崎大と鹿児島大

大学が企業から資金などを受け入れる方法は共同研究だけでなく、受託研究、治験、知的財産権等収入などがあり、2017年度は合わせて約960億円。内訳は共同研究約608億円、受託研究約126億円、知的財産等42.9億円などである。

共同研究による研究費受入額は全体の63.4%を占める。各大学の毎年の数字も振れが小さいので、大学間の比較も容易だ。これが企業との共同研究をよく取り上げる理由である。

一方、企業からの受託研究は“マーケット”が小さいので大きい受託研究契約が1、2件あるとランキング順位が跳ね上がることが多い。このため、大学の実力を見る指標として取り上げるのが難しい面がある。

半面、その大学の研究の特徴や産学官連携戦略を読み取れることもある。また受託研究は、共同研究と比べ企業の研究開発のテーマがより明確、具体的で、そのために受託研究自体が秘匿されることが多いような気がする。

2017年度のデータで気になったのは長崎大学と鹿児島大学。それぞれ企業からの受託研究費受入額トップ30のランキングの11位と12位である(表4)。

表4 民間企業からの受託研究費受入額*1

両大学とも前年度はランキング外だったから、研究費受入額が大幅に増加したことを示している。前年度の大学別のデータと比較すると、増加額は長崎大学が約1億1400万円、鹿児島大学が約1億2000万円。大口の受託研究契約があったとみるのが自然だろう。そこで「民間企業からの受託研究費受入額1,000万円以上の研究費受入額」トップ30のランキングを見ると、はたして、長崎大学は1億7700万円で7位、鹿児島大学は1億6500万円で8位。前年度は両大学とのランキング外だった。

再び、大学別のデータで両大学の「受入額1,000万円以上の民間企業との受託研究実施件数」を見ると、長崎大学は4件(2016年度は2件)、鹿児島大学は5件(同2件)の実績を挙げている。

この先をどう読むべきか。

両大学は企業との大型共同研究費受入額でも健闘したことを見逃すべきでない。ランキングを見ると、長崎大学は約1億4500万円で、順位は26位(前年度は28位)。鹿児島大学は約1億3900万円で28位(前年度はランキング外)である。

長崎大学の大型共同研究は5件で、企業との共同研究件数に占める割合が3.4%で22位に入っている(前年度はランキング外)。

上記のようにデータを見るだけで、両大学の産学連携が新たな段階に入り、戦略的に重点分野に経営資源を投入しているのではないかということが推察される。

長崎大学は地方国立大学のなかで、研究テーマの重点化(熱帯医学・感染症、放射線医療科学など)が実質化しているという意味で最もエッジが効いていると筆者は思う。同大学の中期目標の報告書や各部局の情報などで研究や産学連携の流れは分かるが、文科省のこのデータを読むことには別の楽しさがある。

(次号に続く)

*1:
「2017年度 大学等における産学連携等実施状況について」より
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