連載産業技術調査

第1回 大学発ベンチャーの成長は「出世払い方式」で加速できるか

経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室  

2019年7月15日

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今や2000社を超える大学発ベンチャー。イノベーションの担い手として産業界からの期待も高まっているが、厳しい資金繰りが成長の妨げになっている。経済産業省では、そんなボトルネックを解消する、「大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き」を公表した*1

大学発ベンチャーの数は右肩上がり

大学の革新的な研究成果を実用化する担い手として、大学発ベンチャーへの期待は高い。最新の調査では、日本における大学発ベンチャーの数は過去最高の2278社を記録した(図1)。うち64社が上場しており、時価総額は2.4兆円にまで成長している*2

図1
図1 日本における大学発ベンチャー数の推移

ただ、実用化までに長い時間と膨大な費用がかかる大学発ベンチャーにとって、資金繰りは死活問題だ。一方で大学としても、次世代のベンチャー支援のためには一定の財務基盤を確保したい。これまで、ベンチャーと大学の間で知的財産のライセンスなどを巡って交渉がうまくいかず、大学がベンチャーの成長を阻害していると言われる場面もあった。

「出世払い方式」でボトルネック解消

解決策の一つとなるのが株式・新株予約権による「出世払い方式」である。特許のライセンスなどに伴い、将来ベンチャーが成長すれば価値が跳ね上がる可能性もある株式などを大学に付与する。米国においては一般的な手法であり、ベンチャー側と大学側の利害を一致させることができる。

2005年に文部科学省がライセンスの対価としての株式取得を可能とする解釈を提示してから、同省は数回にわたり柔軟な運用のための通知を発出してきた。そして2019年1月、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律が施行され、国公立大学が大学発ベンチャーへの支援を行うに当たって、株式・新株予約権を取得・保有できることが、法律上初めて明記された。法的な枠組みは着実に整備されてきたと言える。

しかしこれまで、歴史的に株式などの取り扱いの経験が少ない日本の大学においては、ノウハウの不足などにより、実践事例は極めて限定的であった。

大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する調査

このような状況を踏まえ、経済産業省では、内閣府および文部科学省と連携し、大学におけるノウハウ不足を解消するための「手引き」の策定のための調査に着手した。

検討に当たっては、大学、TLO(技術移転機関)、VC(ベンチャーキャピタル)、公認会計士、弁護士という一連の手続きにそれぞれ異なる立場から関係する有識者による調査委員会(図2)を組織し、それぞれの立場からアドバイスをいただいた。

国内の先進事例および米国の事例を調査し、4回に及ぶ議論を経て、令和元年5月8日、一連の手続きにおける基本的考え方と具体的な留意事項を整理した「大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き~知的財産権のライセンスに伴う新株予約権の取得を中心に」を策定した。

図2
図2 大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する調査委員会の委員構成

手引きの内容

本手引きは大きく二つのパートに分かれる(図3)。

前半では、大学が大学発ベンチャーの株式・新株予約権を取得する上での基礎的な情報(法律・通知などが規定する範囲、考えられる意義、日米の具体的な取り組み状況)を整理した。

後半では、日本の大学の基本的なケースとして、知的財産権、特に特許のライセンスに伴い新株予約権を取得するケースを想定し、当該ケースにおける新株予約権の「取得時」「保有時」「行使、株式の売却時」の3フェーズに分けて、大学が具体的に取り得る対応方針と先進事例を紹介した。

また、巻末には、東京大学における新株予約権契約書の例を掲載している。

図3
図3 大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き(概要)

2006年に設立し、全国に先駆けてライセンスの対価として新株予約権を東京大学へ付与したペプチドリーム株式会社は、2013年に株式公開し、初値で時価総額が1,018億円となった。東京大学は2014年事業報告において、新株予約権の行使および株式の売却による売却益が、収入の増加に大きく寄与したことを伝えている。

今回の手引きでは、日本でもある程度実践事例の蓄積がある知的財産権のライセンスに伴う新株予約権の取得を中心に記載したが、現在の枠組みでは、大学はインキュベーション施設の入居料やコンサルテーションなどのさまざまな支援の対価として、株式・新株予約権を取得することができる。

今後、この方式が広く普及することで、大学発ベンチャーの成長を大学がさまざまな形で支援できるというだけでなく、成功したベンチャーの資金の一部が大学に環流されることにより、大学を中心としたベンチャー・エコシステムが、ますます充実したものになっていくことを期待したい。

(次号に続く)

*1:
大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/tebiki.html(accessed 2019-07-15)
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*2:
2018年度 経済産業省調べ
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