連載地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか

第6回 大学発地域創生 三重モデル新たなフェーズ

群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授 登坂 和洋

2019年7月15日

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文部科学省がまとめた「2017年度 組織的産学官連携活動における主な取組方針及び取組事例」のなかで、三重大学は二つのプロジェクトを紹介している。

「地域創生を本気で具現化するための応用展開『深紫外LEDで創出される産業連鎖プロジェクト』」は、同大学が確立した深紫外LEDの基板作製などの技術がベースで、同省の同年度「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」に採択された事業である。

「ロート製薬-三重大学共同研究~100年時代を生き抜くために、“三重県”発の健康食材を解析~」は①両者の独自素材の機能性を研究し新しい健康素材を見いだす、②三重県発祥の本草学(中国に由来する医薬に関する学問)を現代の技術で研究し直し、新しい健康学として確立、③地域活性化に貢献――を目指す。

いずれも独創的な切り口だが、本稿のテーマはこれらの内容ではなく、その背景にある同大学の地域連携への構えだ。同じ資料にある「取組方針等」の中の「産学官連携活動における得意分野とその具体例」に次のようにある。

「県内唯一の国立大学として県内公共団体と良好な関係を構築しており、また三重県産業基盤の特徴(北部の二次産業、南部の一次産業)*1を踏まえた地域拠点サテライトの活動を強化している」とし、その結果として同年度に「公共団体との共同・受託研究60件、県内中小企業との共同研究102件の実績を残した」と誇らしげに記している。この実績をどう評価すればいいのか。

同一県内企業および公共団体との連携件数

それを読み解くデータは同省の「2017年度 大学等における産学連携等実施状況について」にある。

この調査は国公私立大学(短期大学含む)、国公私立高等専門学校、大学共同利用機関計1,061機関を対象に、同年度における企業等との共同研究、受託研究、治験の実績、知的財産の活用、制度・組織・人の配置などを調べたものである(毎年実施しているこの調査のデータは本連載の中で何度か使用してきた)。

調査結果分析のほか「個別実績」が掲載されている。「企業との共同研究実施件数」「企業との共同研究費受入額」「知的財産権等収入」など20テーマについてそれぞれトップ30の機関名とその実績、前年度順位を一覧にした表だ。

「個別実績」の最後の2ページは「地域社会との産学連携関係」という項目名で、そこに、調査結果分析では一言も触れられていない――その意味では奇妙な――データが掲載されている。「同一県内企業及び地方公共団体との共同・受託研究実施件数」だ。「同一県内企業」とは、大学等と契約した企業が同一都道府県内にある企業を指す。全国を八つの地域に分け、それぞれの地域で件数のトップ10機関を紹介している*2

表1はこの中から、大企業の本社が集中している「関東地方(東京都のみ)」と「近畿地方」を除いた6地域についてそれぞれ上位6機関(大学の所在地は省略)を抜き出したものである。

表1 2017年度 同一県内企業及び地方公共団体との共同・受託研究実施件数(地方別)
表1

地域産学官連携に特化した大学院研究科

データを見るとき注意が必要だ。東京都と近畿地方以外の6地方でも、産業基盤、人口などの差が著しいので地方をまたがって件数を単純に比較するのは難しい*3。こうした格差は各地方内の県の間でも同様だが、さらに研究者数の多い旧帝国大学などとその他の大学の体力差も考慮したい。

上記を踏まえたうえで表1を見渡すと、地方国立大学では、工学系単科系大学を除き三重大学、山形大学、信州大学の件数が突出していることが分かる。東海地方において、三重大学の件数は岐阜大学や静岡大学のそれを大きく引き離している。中部経済圏の中心の愛知県(トヨタ自動車グループのお膝元)にある名古屋大学の約60%の水準。これは驚異的といっていい。三重大学は、県、市町村や地域の企業と一体となって地域の創生を推進していることでつとに有名だが、この実績はそれを裏付けている。

同大学は、県内4カ所に自治体の施設を活用した「地域拠点サテライト(三重大学分校)」を創設し、各地の企業、自治体との連携関係を強化することで県土全体を教育、研究のフィールドとして活用する体制と環境を築いている。

簡単に経過を見ると、2004年、国立大学の法人化と同時に産学官連携を担当する全学的な組織として創造開発研究センター(現在は「地域イノベーション推進機構」)を設立。2009年、地域産業界・自治体と連携した人材育成と研究開発に特化した大学院(地域イノベーション学研究科)を設置した。また、2011年には地域自治体への政策提言を行い、政策実現のためのプロジェクトを実行する地域シンクタンクとして地域戦略センターを設立。2018年4月、同センターの機能を取り入れる形で、大学の本部機能として地域創生戦略企画室(室長は学長)を設置し、地域企業や自治体等との組織対組織による戦略的なプロジェクトの企画、展開を行っている。同大学の取り組みは新たなフェーズに入ったといえる。

大学院地域イノベーション学研究科に入学した社会人大学院生(中小企業経営者ら)は三重大学の教員、自治体関係者、社会活動に関心がある医学部生らと夜遅くまで議論する。地方国立大学は「地域で活動する人々が分け隔てなく集まり、協働作業を行う『たまり場』になり得る地域内の唯一の機関」だというのが三重大学の地域連携を主導してきた西村訓弘氏(副学長(社会連携担当)・大学院地域イノベーション学研究科教授)の認識だ。三重大学も地域もイノベ―ティブになっていく*4

地域の中小企業等との共同・受託研究件数でトップクラスを維持している背景には、10数年にも及ぶ仕組みづくり、現場での地道な活動があるわけだ。

評価される先駆的取り組み

筆者が本誌編集長時代、西村氏に幾度か寄稿をお願いした。2011~2014年のことだ**1

当時も同大学の地域連携はユニークな取り組みとして関係者の間で注目されていたが、その後、大学改革の一つのモデルケースとして一躍脚光を浴びるようになったのは、国の地方創生、一方で国立大学の3類型化が動き出し、“大学発の地域イノベーション”を目指す先駆的な活動があらためて評価されたからである。

例えば、2016年3月21日に開催された文部科学省主催のシンポジウム「地方創生に資する日本型イノベーション・エコシステムの構築に向けて」では、三重県知事が基調講演(「大学との連携でめざす地域イノベーション!」)を、西村氏が事例紹介(「三重大学・三重県が一体となった地方創生」)を行った。

2017年8月31日の同省主催「オープンイノベーション共創シンポジウム」のパネル討論には、西村氏が大学人の代表として参加し、地方創生の促進に向けた地域と大学との連携について持論を述べた*5

同大学の取り組みはその後も注目されている。

三重大学の地域での活動を貫く「人材育成」「地域産学官連携」「地域振興」は、わが国にとってもますます重要なキーワードになっている(図1)。

図1
図1 日本の科学技術イノベーション政策の傾向

地域企業との共同研究の規模は小さい

文部科学省が「地域社会との産学連携」のデータを収録するようになったのは2014年度版「大学等における産学連携等実施状況について」からである*6。国の地方創生の取り組みに対応したものだろう。

これらのデータについて、本論の調査結果分析でなぜ言及しないのか。

同一県内中小企業(および公共団体)との共同・受託研究の規模は総じて小さい。このことが、「組織」対「組織」の「本格的な産学連携」推進から外れるからなのだろうか。2014年比で2025年までに企業から大学等への投資を3倍増とするという政府目標があり、大学は大型の共同研究(1件当たり1,000万円以上)を増やすことが求められている。

あるいは、国立大学の3類型=機能分化があり、各国立大学に求められる「地域との連携」の性質、度合いが異なるからなのだろうか。

本格的産学連携と相関関係

このデータについて気付いた点を挙げてみよう。

  • 三重大学とともに件数が突出している山形大学と信州大学は、地方国立大学のなかで国内外の企業からの共同研究費受入額1位と2位である。
  • 企業からの共同研究費受入額トップ30に入っている、山形大学と信州大学以外の地方大学(熊本、徳島、横浜国立、山口、静岡の各大学。単科系大学を除く)も総じて上位にあるか健闘している。
  • 大幅に順位を上げているのは弘前大学(9位→5位)と群馬大学(5位→2位)。
  • 国立大学3類型の「特定の分野で世界ないし全国的な教育研究型」(機能強化の重点支援②)、「卓越した教育研究型」(同③)を含めても、企業からの共同研究受入額の多い大学は総じて地域連携でも実績を挙げている(規模が大きい大学なので当然だが)。

以上のことが読み取れる。本連載の第4回と第5回で、地域での緊密な産学官連携活動が大学の研究拠点形成に大きく影響していることを述べたが*7、「同一県内企業及び地方公共団体との共同・受託研究実施件数」のデータは地域連携が持つ不思議なパワーを示しているようにみえる。

(次号に続く)

*1:
桑名市、四日市市、鈴鹿市を中心とした北部は中部経済圏の一翼を担う工業地帯で、自動車、電機分野の大企業の工場が集積し、大企業向けの部品製造で高度な技術を蓄積した中堅企業が数多く存在している。
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*2:
調査結果分析には、地域別に分析したものや地域との関わりについて言及したものはないから、これが地域社会と大学の産学官連携を示す唯一のデータである。
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*3:
製造品出荷額を都道府県別にみると、多いのは愛知県、神奈川県、静岡県、大阪府、兵庫県など。逆に少ないのは沖縄県、高知県、鳥取県、島根県、秋田県などで、全国1位の愛知県の出荷額は最も少ない沖縄県の約100倍だ。
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*4:
経済産業省の2018年度大学発ベンチャー実態等調査によると、同年度の三重大学発ベンチャー企業は21社で、地方国立大学では4番目に多い。
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*5:
本稿の三重大学の地域連携に関する記述は、西村訓弘氏の本誌記事、これらシンポジウムの資料、三重大学サイトを参照。
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*6:
2014年度は全国で件数トップ30機関のランキング。2015年度版はトップ30の表に加え、新たに8地方に分けたランキング(各トップ10機関)も収録された。2016年度からは地方別だけの表になった。なお、該当する全機関のデータは各年度の「大学等における産学連携実施状況 共同研究実績(機関別)」でみることができる。
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*7:
2013年に採択された「弘前大学COI」については、同大学の取り組みに青森県や弘前市などが乗り、さまざまな機関を巻き込んで県民運動に広がっている、と書いた。それは事実なのだが、一方で日本一の短命県からの脱出は青森県民の長年の夢。青森県議会でも(確認できた範囲で)1986年からしばしば取り上げられている。数十年という期間でみると、健康増進という地域の課題を解決するために同大学の中路重之教授が健康増進プロジェクトを始めたともいえる。第1回、第2回で取り上げた山形大学、信州大学も地域連携が躍進の引き金になった。有機エレクトロニクスの一大研究開発拠点になった山形大学。山形県は2003年、世界で初めて白色有機エレクトロルミネッセンス(EL)の開発に成功した同大の城戸淳二教授を所長に迎えて研究所を開設し、7年間約48億円を投じて照明用有機ELの開発に取り組んだ経緯がある。信州大学が医療機器の研究開発に本格的に取り組むようになったのは10年ほど前、長野県から新しい産業を創出できないかと相談があったことがきっかけだった。
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参考文献

**1:
西村訓弘.連載「大学の社会貢献・産学官連携 三重モデル」第1回~6回.産学官連携ジャーナル 2011年3月号~8月号.
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/center_contents/category_article/4_series/1103.html,(accessed 2019-07-15).

西村訓弘,武田保雄.地方大学が地域に必要な大学となるために 三重大学・地方大学シンクタンクの地域貢献.産学官連携ジャーナル 2013年2月号.
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2013/02/articles/1302-04/1302-04_article.html,(accessed 2019-07-15).

西村訓弘.三重大学 県の政策と連動した地域産業界の海外展開支援.産学官連携ジャーナル 2014年9月号.
https://sangakukan.jst.go.jp/journal//journal_contents/2014/09/articles/1409-07/1409-07_article.html,(accessed 2019-07-15).
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