リポート

大学間知財連携による単願特許の生かし方
しらさぎプロジェクト

富山大学 研究推進機構 産学連携推進センター 知財・リエゾンオフィス 千田 晋

写真:富山大学 研究推進機構 産学連携推進センター 知財・リエゾンオフィス 千田 晋

2019年7月15日

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はじめに 単願特許*1とは? 先端的アイデアの宝庫!

産学連携の場における、大学の単独出願(単願)特許について考えてみよう。

「大学は単願数不足のためマネジメントできていない」と指摘されているが、各校は支出許容の限界から、企業と大学間の共同研究成果については、企業負担で共願とするか出願前譲渡による発明者名の確保に努めていると思われる。一方、大学負担で出願する単独出願は「まだ企業の目に触れていない」コーディネート活動による展開の可能性を秘めた「新鮮な」かつ「先端的」アイデア、つまり「原石」が含まれている可能性大であり、その活用策が必須で企業の「休眠特許」とは異なる点である。

北陸4大学連携の知財活動

北陸の旧国立大学(富山大学、金沢大学、北陸先端科学技術大学院大学、福井大学)は「北陸地区国立大学学術研究連携支援事業」*2を行ってきた。4大学知的財産(知財)関係者も、知財マネジメント高度化研究をテーマに申請、採択されて活動してきた。これまで各校の知財関係者は横のつながりとして相互に各種セミナーを開催するなど(特許検索手法から安全保障貿易の研究、生物多様性条約に対応した研究、ベンチャー事例による支援策検討など)による知財管理力と各学内の知財力向上を図ってきている。また並行して、各校共通の課題である保有単願特許の活用に取り組んできた。

具体的には、2013年よりリストアップ、整理に着手し2015年から「Matching HUB」*3に共同出展、単願を出口分野ごとのリストで特許情報として企業へ提供してきた。これらのデータを地域の中小企業の事業に生かすには、特許情報にとどまらない、提案型の発信が必要との議論から、単願の発明者に着目した新たな共同研究を通してビジネス展開を期待すべきとの結論に至った。各校単願の集約と外部露出による新たな産業界とのつながりから、共同研究に展開することを目的に、産学連携のチャンネルを増やすことが大学の希望であり、そのためのきっかけとして単願を位置付けている。2017年には、外部資金獲得による活動の拡幅を目指し、本学が幹事機関となり中部経済産業局の「地域中小企業知財支援力強化事業(やる気補助金)」*4に申請、「しらさぎプロジェクト」が採択された。各校100件余の保有単願を集約し、約500件の単願(発明研究者が在席するもので、企業のリクエストに即応可)を出口別に再整理し展示会などで情報発信した。当初紙ベースであったところ、データベース(DB)の希望が寄せられ、昨年度はDB化しホームページ(HP)に公開した。特許検索から発明研究者情報へリンクさせることにより、新たなビジネスヒントを得て地域中小企業の開発を促す目的である。

図1
図1 しらさぎプロジェクトポスター

使ってみよう「しらさぎDB」*5

各校単願の2~3割が「ライフサイエンス系」(医療、介護、バイオ、創薬など)であることから、2017年度には共通分野として該当する展示会10件ほどにプロジェクトとして出展した。その際、北陸本線特急しらさぎ沿線での連携(図1参照)として金沢医科大学、滋賀医科大学、石川県立大学にも協力いただき約600件のDBとなった(図2)。フリーワード検索では該当する特許のリストが挙がり、その後は関心のある研究者をクリックすればさらに周辺の技術情報にもアクセスできる。「特許検索」では対象大学の選定、研究分野(教育、医療、計測、創薬からアグリ・バイオまでの11分野)を指定した検索も可能である。「研究者検索」では各校の単願に関わる研究者の情報を探すことが可能である。アクセス状況については、管理者画面で関心の持たれたテーマや研究者の情報を得ることができ、今後の情報発信の参考とするようになった(表1)。

図2
図2 しらさぎDBフロントページ
表1 特許、研究者アクセスリスト(ある日の上位から)
表1

データベースとしては、(古い言葉ですが)紙媒体から電子化することで管理しやすい形態となった。データ更新(新規登録、削除)は各校の責任で行い、問い合せについては相互に連携している。2017年には、展示会での名刺交換から本学のコーディネータに問い合わせがあり、該当する2校に連絡、その後2校+企業での共同研究につながった事例を聞いている。一方、「やる気補助金」の趣旨である中小企業の知財を支援する力の向上の点ではどうであろうか。

課題とソリューション

「しらさぎプロジェクト」としては2カ年度の取り組みで、DBの骨格が整ったことにより大学側(支援側)の情報提供のしやすさの点で向上しており、10数件の新たな共同研究契約につながっているとの連絡を参加校からは得ている。共同研究先企業名を挙げることはできないが、特許譲渡の事例も出て大学から見れば本プロジェクト中心に単願特許に関して計数千万円超の収入につながっており、今後の各企業による事業成果が期待される。出展が切っ掛けのJAISTと金沢医科大との共同研究は企業を入れてOPERA申請、採択につながり、滋賀医科大では秋田大発ベンチャーとの測定受託ビジネス検討が始まった。また、昨年度(2018年)は大学以外で北陸産業活性化センター(HIAC)と富山県アルミ産業協会も参画したことで大学だけでは展開し得なかった事例も出た。富山大一押し分野で(「軽金属研究会」開催12/3を切っ掛けに)地域のアルミ産業*6と研究力に関するプロモーションビデオ(PV)*7を作成、マッチングイベント(11/29富山)でプレゼンした富山大教授がHIAC主催のバイオセミナー講師に招聘(しょうへい)、北陸経済界への情報発信の機会となった。富山県アルミ産業協会が会員企業に仲介、富山大の2教授とのアルミ鋳物に関する申請が富山県イノベーション創出事業に採択された。

単願を生かす点では、本取り組みに並行して福井大では有望そうな単願を知財部門からURAへ伝達し、彼らが学内を取りまとめて提案、地域イノベエコシステムにつながった例があり、コンソーシアムを形成し地域の特長である“メガネ”を生かした新たな産業形成に進んでいる。今、 “単願数不足”の指摘に対し、一校では100件余でも、7大学連携により600件余、発明研究者140名ほどのDBが構築され件数的には前進したが果たしてどうか。電機業界に比するまでもなく企業レベルでのポートフォリオマネジメントからすれば十分とは言えず、ビジネステーマに集約、提案できていない。各校の特長分野での単願を活かすURAの(原石を磨く)活躍と大学間連携の促進が期待される。

*1:
大学の場合、独自資金による出願、権利化対象となる知的財産で、国内出願では大ざっぱにみて30万円余掛かり、海外では桁違いの額となる。年間の出願可能件数に限りがあり、単願特許のみで独自に技術戦略を立てることは難しい。
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*2:
複数校の研究者が連名申請、毎年度20件程度を(10万円/件・校で40万/テーマまで)助成し次のステップへの展開を期待する連携事業
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*3:
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)主催、URAが集めた地域の大学や企業のシーズ、ニーズのマッチングを図るイベント
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*4:
地域の知財支援体制の構築や連携強化を通じ、地域の先導的・先進的な知財の取り組みを支援する経済産業局知的財産室による特許庁事業で広域の連携が期待されている。
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*5:
「富山大学」「しらさぎ」で検索するとすぐに掛かります(図2参照)。
https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/shirasagi/(accessed 2019-07-15)
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*6:
高岡市を中心に呉西(ごせい)6市の中小企業等
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*7:
高岡市公式ホームページ「ほっとホット高岡」に掲載
https://www.city.takaoka.toyama.jp/sanki/event/6shirenkei.html#koukinou(accessed 2019-07-15)
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