リポート

産学官金連携による新たな企業支援スキーム

公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構 フォトンバレーセンター長 伊東 幸宏

写真:公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構 フォトンバレーセンター長 伊東 幸宏

2019年7月15日

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フォトンバレーセンターの概要

フォトンバレーセンター(以下「センター」)は、主に静岡県西部地域を対象に、光・電子技術を活用した産業支援を戦略的に進める中核支援機関として、2017年4月に公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構の内部組織として設置された。

これまで地域の取り組みとして、2000年の「地域結集型共同研究事業」の採択を契機に、2002年には「知的クラスター創成事業」、2012年には「地域イノベーション戦略支援プログラム」の採択を受けるなど、浜松地域を中心に産学官金が連携し、国の事業を活用した研究開発および地域産業振興のためのプロジェクトを実施し、成果を創出してきた。

その一方で、地域の基幹産業である輸送用機器産業は、生産拡大により関連企業群が形成され、地域経済全体の発展をけん引するとともに系列企業の技術や経営の高度化に貢献してきたが、経済・生産活動のグローバル化が進むにつれ、「現地調達・現地生産」へのシフトが進み、地域経済は縮小の一途をたどっている。

このため同地域は、従来の輸送用機器産業のみの「単峰型」の産業構造から、次世代自動車を含む輸送用機器の主峰に加え、航空宇宙、ロボット、健康医療、新農業など新たな産業から成る「連峰型」の産業構造への転換を図ることが喫緊の課題であり、それら連峰の共通の基盤技術として光・電子技術に対する期待は大きい。

その光・電子技術を活用して地域の産業振興を推進する中核的支援機関としての役割をセンターが担っている。

センターは静岡大学浜松キャンパス内にオフィスを構え、2019年4月現在13人の職員(うちコーディネーター7人)が在籍し、中小企業に対する技術指導をはじめ、各種セミナーの開催や国内外の展示会出展支援、人材育成やものづくりへの助成など、広範にわたり事業を展開している。

図1 静岡県西部地域における光・電子技術への期待

静岡発!! 中小企業支援の新たなスキーム「A-SAP」

現在、センターの重点的な取り組みは「A-SAP」(エイサップ)であり、2018年度に事業を開始した。A-SAPは「Access Center for Innovation Solutions, Actions and Professionals」(最速で望む未来へ到達するための新たな仕組み)の略称で、欧州連合(EU)域内で実施され成果を上げている光技術を活用した中小企業支援の先進的なスキームである「ACTPHAST」を手本としている。

中小企業が、製品化を目指して研究開発をしようとする時に活用する支援策で一般的なものとして、国や地方自治体、産業支援機関が実施している「補助金」が挙げられるが、この「A-SAP」も目的は同じであるものの、補助金と違う次のような特徴がある。

  • 研究開発を進める上で、支援依頼企業(以下「企業」)単独では解決できない課題を、大学等の支援研究機関に所属する専門家で構成するプロジェクトチームが主体となって解決する
  • プロジェクト期間は6か月と短期間である
  • 課題解決の経費は企業ではなくプロジェクトチームに支払われ、企業はプロジェクトの成果を手に入れる
  • 企業にとっては、簡単な手続きで申請が完了し、煩雑な資金管理や進捗管理などはプロジェクトチームが行うため労力が少なくて済むというメリットがある
  • 採択されない場合でも、センターによる他の適切な支援策へのマッチングや今後に向けたアドバイスを受けられる
図2
図2 A-SAP事業スキーム

A-SAPにおける支援の流れは以下のとおりである。

  • ①「相談・支援依頼登録フォーム」により、アイデアや相談内容を簡潔に記載してインターネット経由で応募
  • ②センターのビジネス専門家および技術コーディネーターが企業を訪問し支援依頼内容の詳細を調査
  • ③センターが支援依頼内容についてA-SAPに適合するかどうかを判断(適合性評価)
  • ④適合性ありと判断した場合、企業が指定した金融機関から派遣されたBFC(Business and Financial Coaches:ビジネス・財務コーチ)と研究機関から派遣されたスカウト(大学のコーディネーター等)が企業に詳細な調査を行い、企業と共に事業面および技術面の課題を明確化
  • ⑤BFC、スカウトの調査結果(事業の成長性、支援技術の適合性等)を審査し、支援対象案件を採択(採択審査)
  • ⑥採択された場合、専門家(大学教員等)の中から課題解決に適した人材がPL(プロジェクトリーダー)として選任され、支援内容をスカウトおよびBFC、企業と共に詳細に検討し、プロジェクト計画を作成
  • ⑦プロジェクト計画の適否を審査し適正な場合は委託契約を締結しプロジェクトを開始、不適正であれば修正を指示(プロジェクト計画審査)
  • ⑧プロジェクト計画が承認されるとPLがプロジェクトチームを結成し、PL管理のもと、企業と協同でプロジェクトを実施(センター、PL所属支援機関、企業の三者で契約締結)
  • ⑨6カ月程度のプロジェクト活動の後、企業はプロジェクトの成果を獲得
図3
図3 支援の流れ

A-SAPでは支援対象を試作品の製作までとしており、プロジェクト終了後、市場投入までの技術的課題の解決やそのための資金の獲得は、企業の努力により行うこととしている。これが円滑にできるよう、企業の支援依頼後、早い段階から金融機関や大学の産学連携担当者が関与するようにしている。

また、これまで企業支援経験の少ない大学教員などに、その方向に目を向けてもらうためにはインセンティブが必要と考える。A-SAPではプロジェクト経費のうち30%を上限として大学への間接費を認めている。一部の大学では、受け取った間接費の一定割合の金額を、PLを担当した教員などの固有の研究費に別財源から充当するシステムを作っている。

今後の課題・展望

現在、静岡県、浜松市からA-SAPの財源を拠出していただいているが、行政の予算は単年度主義であり、支援機関の事業もほとんどがそれに準じている。しかし、企業の課題は年度に合わせて発生するわけではなく、企業が困った時にタイムリーかつ単年度主義に縛られない支援をするのが理想的である。

補助金のように、ある一定の募集期間が設定され、それに間に合わない、あるいは審査で不採択となった場合、1年待たなければならない。そうなると、補助金申請にたけた企業が有利になってしまう。

ACTPHASTでは、常時案件を受付し、2カ月に一度、すなわち年間6回審査を実施している、われわれの目指すところも同様である。一度不適合・不採択となった企業も、数カ月で計画を練り直して再チャレンジできる、そのようなシステムにしたいと思っている。

 

取り急ぎ、A-SAPは現時点では、年に2回案件の募集を行っているところであるが、早ければ来年にも年4回の審査と年度をまたいだプロジェクトの実施が可能となるよう、関係機関と調整中である。

またA-SAPは、国内初の試みとして静岡県でスタートしたが、例えばA-SAP東京やA-SAP大阪、A-SAP栃木といったように、いずれはこのスキームを他の地域にも広めていきたい。

その前に、まずそれらの地域の研究者を、静岡県で実施するプロジェクトの専門家として招聘(しょうへい)したい。現時点では、主に静岡県西部地域の研究機関(静岡大学、浜松医科大学、光産業創成大学院大学、静岡文化芸術大学、静岡理工科大学、静岡県工業技術研究所、はままつ次世代光・健康医療産業創出拠点)との連携・協力のもと事業を展開しているが、専門家が足りていない、すなわち企業の課題解決に対応する技術基盤が不足しているのが実情である。このため、今後は県外の大学などの研究者にも静岡県の企業に力を貸してもらえるよう、県外の研究機関にも声を掛けていきたい。

その次の段階として、A-SAPのメリットや便益を理解していただいた研究者を介して国内各地域に広がりを見せていく、そのような構想を抱いている。