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生涯学習のためのマジメ番組はまちづくりの母

NPO法人コミュニティネットワークCAST(キャスト)会員 庄司 輝昭

写真:NPO法人コミュニティネットワークCAST(キャスト)会員 庄司 輝昭

2019年7月15日

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りんご王国こうぎょくカレッジ

青森県弘前市で2000年(平成12年)3月4日に放送を開始したコミュニティFMアップルウェーブに「りんご王国こうぎょくカレッジ」という番組がある。

ネーミングの由来は「青森県はりんごの生産量日本一でいわばりんご王国だ。そのりんご王国にある弘前大学の教員が語る番組を作ろう。大学はユニバーシティだとリズムが悪いので、似たような意味のカレッジにしよう。「りんご王国カレッジ」だけではやっぱりリズムがないので間に品種名を入れよう」ということで、筆者がハンドルネームに使っていた「こうぎょく」を、ひらがなのまま入れた。極めて個人的な事情である。

りんご王国こうぎょくカレッジの手作りホームページ*1には『最先端の研究をわかりやすく! 弘前大学にこんな先生がいるんだ! こんな研究をしてるんだ! 聴いて面白い内容と人材発見が同時にできるオトクな番組です。』と紹介している。また、弘前大学生涯学習教育研究センターホームページ*2には、過去の放送分が音声ファイルとともに掲載されている。

番組の駆け出し時期

放送局であるアップルウェーブと、筆者が属するコミュニティネットワークCASTとの成り立ちは双子のようなものだが、話が長くなるので割愛する。

しかもこの番組を立ち上げるきっかけとなったのは、これらとは全く関係ない、弘前のとあるブランド応援団での酒飲み話だった。相手は中村信吾弘前大学副学長(当時、2005年から第3代青森中央学院大学学長)。話は転がり始めた。

そこにもう一人飲み友だちの故波多野厚緑(当時大手門歯科副院長)が巻き込まれた。弘前青年会議所理事長はじめ多くの「まちづくり」団体のトップを経験し、りんごをキーワードにしたまちづくりの推進を目的としたアップルフェア推進協議会が青森県第1回りんご勲章を受賞する原動力となった、いや、もしかしたらりんご勲章そのものを創設するきっかけとなったかもしれない男だ。

2001年4月に番組は始まったが、中村副学長の「友だちストック」はすぐに使い果たし、芋づる式ネットワークはなかなか育たず、苦労して出演者を確保する雪山でのラッセルのような期間が続いた。

転機が来た

2006年2月新設合併(弘前市、岩木町、相馬村の合併)した弘前市の中央公民館に念願かなって異動した。

新たな生涯学習機会を検討し、2006年4月から「弘前大学との地域づくり連携事業」という仮称で弘前市立藤代公民館の子育てサークルと弘前大学医学部保健学科看護学専攻(当時)との協働を実験的に開始した。タイトルもあえて役所的ではない名称とした。このときの事業化の流れは、弘前大学生涯学習教育研究センター年報*3に詳述している。

この「弘前大学との地域づくり連携事業」の特徴は、それまでの、大学の先生が講師で地域住民が受け身という、「大変勉強になりました」で終わる形ではなく、大学の先生が学生を率いて地域に入り込み、地域住民と一緒になって地域課題を探り、これに関わっていこうとするアクティブなものだったことだ。時には地域住民が教師となって学生たちに教え、先生たちに提案するということも頻繁に行われた。ピーク時には17本のまちづくり事業を同時進行し、年間約2万人の市民がどこかに参加するほど盛況だったが、ここに投入された年間予算は40~50万円という低コスト事業だった。

上手な巻き込み方

この「弘前大学との地域づくり連携事業」に巻き込んだのは「りんご王国こうぎょくカレッジ」に出演した弘前大学教員のうち、地域に関心が深いと見込んだ方だけである。仕掛けは「おしゃべり」だ。

通常、番組出演の勧誘と打ち合わせはメールが先行する。そのため、収録についての詳細を打ち合わせるのは、当日の直前打ち合わせ1時間程度である。これに収録リハーサルと本番を合わせて約1時間半。合計2時間半が出演する教員との接点だ。これでも十分長いのだが、トークが盛り上がれば喉が渇く。そこで収録後、決まっておしゃべりを楽しむために出掛けるのが「おしゃべり」という店なのだ。ここで長い人だと約4時間、話に花が咲く。「おしゃべり」の「ちーさん」が話題を次々と振ってくれるので、間が持たないなどということが全くない。ここでしっかりと印象が濃くなった人に後日「お願いが…」と持って行ったわけだ。

この「りんご王国こうぎょくカレッジ」から、本業に番組由来の人のネットワークを持ち込むことについて、弘前大学の山下祐介准教授(当時。現首都大学東京教授)や東奥日報の櫛引素夫論説委員(当時。現青森大学教授)から「良い意味の公私混同」と、揶揄(やゆ)されたのか励まされたのか不明の評価に力付けられたのを覚えている。

番組の子どもたち

りんご王国こうぎょくカレッジをきっかけとして生まれた番組もある。

2002年2月24日の人文学部情報行動講座(当時)佐藤和之教授「災害時の日本語と弘前市の取り組み」をきっかけに「やさしい日本語研究会」に研究協力者として参加し、毎年1月17日前後に2時間生放送「グラっときたらまずラジオ!」を、横浜や神戸にも生出演で参加していただきながら約10年続けることができた。また、弘前大学学長、副学長、各学部長のオールスターキャストで「弘前大学の魅力はこれだ!」というテーマで、これも2時間生番組を3年ほど放送した。

いずれの番組も弘前大学の「いま」と「みらい」を地域にアピールする目的で企画制作したものである。どの企画でも歴代学長の全面的な支援と協力をいただき、そこそこの番組になったと思っているが、リスナーにとってはどうだったのだろう。

印象に残る事件

放送も19年目を迎えた長寿番組なので、いろいろな事件があった。

スタッフ、アシスタントもそろって待っているが先生がスタジオに現れない。念のためにと思って研究室(それも遠隔地)に電話してみると本人が電話に出た、という事件。

収録後の打ち上げでおしゃべりもした。編集も終わってアップルウェーブに製品パケットを持って行った、という段階で「あの録音は本意ではないからやめる」との一言でキャンセルとなりスタッフ全員脱力した事件。

本来収録後すぐパソコンから録音素材に録音データを移す手順だったが、収録が立て込んでいたせいで編集作業が遅れ、収録した録音数回分が入っていたハードディスクを勝手に初期化されたショッキングな事件。などなど、今となっては懐かしい(いや、最後のはそうでもない)。

りんご王国こうぎょくカレッジの今後

この番組は「私、ショージが面白そうだと思った先生をお招き」することとしている。大学の意向とは無縁の個人の番組であるという宣言だ。とはいえ、「弘前大学のご協力とコミュニティネットワークCASTの制作」とうたっている以上に、弘前大学のどの辺りを取り上げ、光を当てるかは「先生をお招き」する際にも極めて重要な要素となっている。19年目に入り、まだまだ面白い弘前大学教員が多数おられる。ライフワークとしてこれからも、言い方はあまり良くないが、地域の知的資源である大学教員を地域の人たちや事業者に紹介していきたいと思っている。そういえば、2001年当時に比べて、弘前市役所が委嘱する各種の委員に大学教員が飛躍的に増えている。

*1:
https://npocast.jimdo.com/録音番組/りんご王国こうぎょくカレッジ/(accessed 2019-07-15)
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*2:
http://culture.cc.hirosaki-u.ac.jp/sgcenter/?cat=5(accessed 2019-07-15)
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*3:
平成19年度 弘前大学生涯学習教育研究センター年報 第11号
http://culture.cc.hirosaki-u.ac.jp/sgcenter/pdf/Annual%20report%2011.pdf(accessed 2019-07-15)
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