連載地方国立大学は産学官連携でどう活路を見いだすか

第1回 研究分野の重点化と「研究経営」

群馬大学 研究・産学連携推進機構 特任教授 登坂 和洋

2019年2月15日

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はじめに

今、地方の国立大学*1は殊の外強く冷たい風を受けている。

大学は、産業界から大きな資金を呼び込むために企業との「組織」対「組織」の「本格的な産学連携」が求められている。地方大学にとって厳しいのは、組織対組織の掛け声と、競争的資金プログラムの大型化(競争的資金における選択と集中)が共鳴していることだ。

例えば、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の大型競争的資金のセンター・オブ・イノベーションプログラム(COI)。「拠点もの」と呼ばれる超大型プログラムだ。2013年度は公的な研究開発資金を100とした場合、企業が投入した資金は30だった。2017年度は公的資金100に対して民間資金は71にまで拡大している。コンソーシアムに参画し手応えがあるからこそ企業は投資を増やしている。

競争的資金が介在しない産学共同研究でも、大学間の経営資源の差の影響がかつてないほど顕在化している*2。企業との共同研究費受入額、特許権実施等収入などでもトップ10大学のシェアが全体の3分の2を超える(図12)。

図1
図1 国立大学の民間企業との共同研究の研究費受入額*3
トップ10大学のシェア(2016年度)
図2
図2 国立大学の特許権実施等収入*3
トップ10大学のシェア(2016年度)

格闘技に例えると、一昔前までは体重別階級制度で、さまざまな地方大会があったので、軽量でもそれなりに入賞賞金が得られた。今は、体重無差別、しかも東京で開かれる大きな大会だけという状況だ。

しかし、厳しい環境でも企業からの資金導入やイノベーション創出に向けて健闘している地方国立大学は少なくない。本稿ではその取り組みをスケッチし、示唆を得たいと思う。

筆者は2015年春までの8年間、本誌の編集長を務めた。この間約1,500本の記事を企画・編集。自らも全国の現場や研究者などを取材した。3年余り前、群馬大学に着任した後も、各地の大学発イノベーション、大学のガバナンスなどを取材している。本稿は筆者の個人的な立場で執筆するものである。誤解を招かないために基本的に公開情報によって記述する。

「稼ぐ力」が求められる大学

2018年10月29日の日本経済新聞(日経)に「大学、求められる『稼ぐ力』」という記事が掲載された。文部科学省に取材し、産学官連携、大学発イノベーションに関わる政策の背景、施策のトレンドを解説しながら、それに対応すべく大学が模索している姿を紹介している。

いかにも日経的な記事だったが、朝日新聞が、科学技術政策の「選択と集中」を批判的に捉える記事を繰り返し掲載した後だけに、新鮮ではあった。

日経の記事で詳しく書かれていたのは山形大学の取り組み。同大学が2016年度に企業から受け入れた共同研究費は8億6000万円で、過去5年間で約4倍に増加。年平均の伸び率約40%は全国の大学でトップ、というのが取り上げた理由だ*5図3)。

図3
図3 山形大学の民間企業との共同研究費受入額*4

同大学に関する話題をもう一つ。その2カ月前の8月30日、東京ビッグサイトで文部科学省主催「オープンイノベーション共創シンポジウム~世界で最もイノベーションに適した国へ〜」が開催された*6。第1部は講演と同省の政策報告。第2部は「イノベーションシステムの最適化に向けたアクション」と題したパネルディスカッションで、パネリストの中に山形大学の大場好弘理事・副学長の姿があった。

一般的に研究開発は非競争領域→競争領域→事業領域と進む。大場理事は「有機エレクトロニクスシステムイノベーション戦略では競争領域で実績を出したい。それが大学の戦略」と明快に語った。主に競争領域を担うのが、学長に直結した「オープンイノベーション機構(機構長:大場理事)」で、ここが企業と組織対組織の本格的共同研究を進める戦略だ。

このシンポジウムや日経の記事から読み取れるのは、同省が山形大学を、組織対組織の産学連携の成功例として捉え、他大学に奮起を促そうとしていることである。

重点研究対象は有機エレクトロニクス

山形大学がこのように「稼げる」大学になったのはなぜか。

筆者は、2007年9月~2014年3月に同大学の学長だった結城章夫氏にインタビューを行ったことがある。本誌2015年1月号に掲載した記事(「山形大学の有機エレクトロニクス研究 伝統の強み生かし世界と戦う拠点整備」)でその時代を振り返ってみる**1

研究についてどのような方針で臨んだのか。「国立大学であれば、この分野はここでしかやっていない、この分野では日本一だ、日本を代表して世界と戦うという研究分野を幾つか持っていなければいけない」。結城氏は学長として着任してこう考えたという。

浮かび上がったのが、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)をはじめとする有機エレクトロニクスというテーマだった。

同大学工学部は伝統的に繊維、高分子、プラスチックなどが強い。そして、何より城戸淳二教授がいる。1993年、城戸教授(当時は高分子化学科助手)の研究チームが、世界で初めて白色有機ELの開発に成功して以来、有機ELは「山形大学工学部の看板研究」*7になり、世界をリードしていた。

また、山形県は2003年、米沢市の工業団地に、城戸教授を所長に迎えて有機ELの研究所を開設し、巨費を投じて照明用有機ELの開発に取り組んでいた。有機EL関連産業の集積を目指す山形有機エレクトロニクスバレー構想だ。

こうしたことから結城氏は、この分野が山形大学の強みだと思った。着想が光っていたのは重点的な研究対象を「有機EL」だけでなく、「有機エレクトロニクス」に広げたことである。有機化合物に電気を通して光らせるのが有機ELだが、逆に有機化合物に光を当てて電気を起こすのが有機太陽電池、また、シリコンの代わりに有機化合物を使った半導体もある。有機化合物を使ったエレクトロニクス全般という構えにして、総合的、相乗的に取り組むようにしたのだ。

2009年1月につくった「結城プラン2009」の「研究」項目のトップに「有機エレクトロニクスに関する世界的な研究拠点を整備する」と掲げて、宣言した*8

有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタの3部門

こうして、有機エレクトロニクスの世界的な拠点整備に向けた同大学の取り組みがスタートし、次々と具体化していった。結城氏によると、一つは2009年度にJSTの「地域卓越研究者戦略的結集プログラム」に採択され(2013年度まで)、研究が加速したこと。もう一つは2009年の夏、国の大型補正予算があり、文部科学省から「有機エレクトロニクス研究センター」という新しい建物の建設に16億円ほどの予算を付けてもらったことだという。

基礎研究の中核を担う有機エレクトロニクス研究センターは2011年4月、米沢キャンパスに開設された。有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタの3部門を柱としてスタートした。有機ELの城戸教授に加え、他の部門には国内外から著名な研究者を招いたドリームチームとした*9

同センターが稼働したあたりから好循環し始め、人と資金が集まり、研究設備も充実していった。同センターのサイトには、取り組んだプロジェクト(獲得した競争的資金等)の一覧が掲載されている*10。途切れることなく、毎年相当の数のプロジェクトが平行して進んできたことが分かる。

こうした好循環がCOIへの参画につながり、今日の隆盛をもたらした。COIには現在18拠点あり、山形大学の「フロンティア有機システムイノベーション拠点(山形大学COI)」はその一つ。2013~2014年度はトライアル課題だったが、小山清人氏が学長になった2014年4月以降も着実に成果を挙げ「拠点」への昇格を勝ち取っている。

「選択と集中」の波に乗れた

重点研究対象を定め、その研究基盤整備に乗り出した時期は、結城氏が学長に就任した2007年秋から2年余り。このタイミングが、「稼げる」大学になり得るカギを握っていた。なぜか。理由は二つある。

第一に、科学技術政策の「選択と集中」、競争的資金の大型化が本格化する前に、その受け皿になり得るシーズ育成、体制整備ができたことである。結果的に、「選択と集中」の波に乗れたのである。

2009年度からのJST「地域卓越研究者戦略的結集プログラム」に採択されたことは幸運だった。ここでの研究がなければCOIにつながらなかったかもしれない。研究拠点の有機エレクトロニクス研究センターの建物の建設費のめどが立ったのも2009年夏だ。

第二の理由は、大学と県の連携の問題である。山形県は2003年から推進してきた山形有機エレクトロニクスバレー構想を2009年度末で打ち切り、県の研究所を閉鎖した。研究開発に7年間で約48億円が投じられた*11

同構想が打ち切られた2010年春は、山形大学の有機エレクトロニクス重点化の取り組みが軌道に乗っていたので、城戸教授らの研究は途切れることなく続けられた。県が研究所を閉じた公式の理由は、「事業化の段階を迎えている」*12というものだが、実際にはまだ基礎研究を続けなければならない状況だった。

マネジメントの成果

山形大学の研究分野重点化の背景と、産業界から多額の資金を導入できるようになるまでの推移を述べてきた。大学トップ主導で研究分野の選択と集中を行えば、ほかの大学でもブランド力が高まり「稼げる」ようになるのだろうか。そうなるとは限らないと思う。なぜなら、計画を立て組織を立ち上げ拠点を整備しても、思うように進まないのが「大学」であるからだ。

山形大学のすごさは、結城学長、そして2014年春以降は小山学長のリーダーシップの下、目指すものを一つ一つ実現してきたことだろう。求心力があるから大胆な改革を行える。「学術研究院」(教員900人。分野を分けないで一括管理。院長:学長)*13という仕組みもその表れだ。

COIなどをベースとした多額の資金導入は、小山学長、大場理事ら現経営陣の手綱さばきによるところが大きいだろう。優れたマネジメント、「研究経営」によるものなのである(図4)。

図4
図4 「研究経営」を意識した企画・事務と成果管理

(次号に続く)

*1:
国立大学3類型の一つ「地域貢献型(55大学)」を念頭に置いているが、限定はしていない。
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*2:
大阪大学が2006年に創設した「共同研究講座」制度は新しい産学共同研究の仕組みで、同様の取り組みは他大学に広がっているが、3年間で1億円規模の講座が常に数十稼働している東京大学、大阪大学などと地方国立大学とでは大きな隔たりがある。
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*3:
2016年度の文部科学省「大学等における産学連携等実施状況について」の情報を基に筆者作成。
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*4:
012~2016各年度の文部科学省「大学等における産学連携等実施状況について」のデータから作成
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*5:
記事には「共同研究費の受け入れ額の伸び率ランキング(年平均)」のグラフが付いていて、山形大学から順に筑波大学、長崎大学、豊橋技術科学大学、名古屋大学の名前が並ぶ。記事にはないが、2016年度に山形大学が企業から受け入れた共同研究費8億6000万円は、大学別の順位では11位である。1~10位と12位は、すべてトップ大学のRU11(旧帝大と早稲田、慶應義塾、筑波、東京工業の11大学で構成するコンソーシアム。正式名称:学術研究懇談会)である。
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*6:
同じ会場の同時開催イベントには「イノベーション・ジャパン」(JSTと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)共催)、「JSTフェア」(JST主催)があり、全体として大学の産学官連携部門の最大のお祭りである。
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*7:
山形大学広報誌「みどり樹」2009年春号の特集「世界が一目をおく有機EL研究第一人者のホーム、山大工学部。」
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*8:
「地方国立大学としてどこまでできるか、選択と集中によってどこまでやれるかという一大実験に挑戦してみようというような気持ちでした」と結城氏は回想している**1
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*9:
「みどり樹」2011年夏号の特集「有機エレクトロニクスで世界へ。ノーベル賞級の教授陣が米沢に集結し、“ドリームチーム”始動。」で、有機エレクトロニクス研究センターについて「有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタの主要3部門からなる有機エレクトロニクス分野全体をカバーする国際的研究拠点の形成に向けて動き出した」と述べている。
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*10:
ST「地域卓越研究者戦略的結集プログラム」(プロジェクト名:先端有機エレクトロニクス国際研究拠点形成)をはじめJST、文部科学省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など、13の中~大型のプログラム名が並ぶ。
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*11:
廃止になった県の研究所の設備などは、山形大学の当時のもう一つの研究施設「有機エレクトロニクスイノベーションセンター」に引き取った。同センターの建物は大学の外のビジネスパークに建設。用地は米沢市が無償で提供。建設費15億円のうち10億は経済産業省の補助、2.5億円は県が出し、残り2.5億円は大学が自力で用意した**1
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*12:
2009年秋に、同構想打ち切りの方針が新聞等で報じられて以降、「県へのご意見」に研究所閉鎖への疑問、研究所再開の要望などが寄せられている。現在も県庁のホームページで見られる。
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*13:
「オープンイノベーション共創シンポジウム」講演資料
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参考文献

**1:
結城章夫.山形大学の有機エレクトロニクス研究 伝統の強み生かし世界と戦う拠点整備.産学官連携ジャーナル2015年1月号.
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2015/01/articles/1501-02/1501-02_article.html,(accessed 2019-02-15).
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