特集「飲・食」を集めて貢献 産学官

「えっ、7倍? スポンジ吸収 なすすべ無し」 
低カロリーでもお腹いっぱいデンシエット食

本誌編集長 山口 泰博

2018年11月15日

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食材の組み合わせや調理法を工夫した食習慣を継続することで、健康維持や肥満防止につなげる研究成果が広がりつつある。着目したのは、食品1g当たりのカロリーだ。

肥満や糖尿病対策から研究へ

厚生労働省「2016年人口動態統計月報年報」の、人口10万人に対する糖尿病による死亡率を都道府県別ではじき出した数値によれば、過去、徳島県は糖尿病死亡率14年連続ワースト1という不名誉な記録を持っており、そのことから肥満や糖尿病対策が求められていた。肥満や糖尿病では、食事療法で病態進展を抑制するが、それまでの食事療法は食事の量(カロリー)にのみ注目が集まり、食事の質や食材の組み合わせについての報告は少ない。

徳島大学大学院医歯薬学研究部医科栄養学科臨床食管理学分野講師の奥村仙示(ひさみ)氏によれば、「詳しい原因は不明ですが、徳島県はケチャップやソースなどの消費量が多く、甘辛く濃い味付けの食習慣に加え、車社会で歩くことも少ないなど、日ごろの運動不足や野菜の摂取量も少ないことなどが影響していたのではないでしょうか」という。

そのような理由から、文部科学省の知的クラスター創成事業(2009~2013年)で糖尿病研究が始まり、制限ばかりではなくて、できるだけ無理なく楽しく続けられる食事にしたいと思った。低エネルギーでもボリュームのある野菜をもっと食べたほうが満腹感を感じやすくつらくないだろうと、カロリー(エネルギー)密度を低くするという考えに行き着いたという。

左から、臨床食管理学分野 学部4年の今井愛菜さん、奥村氏、
修士2年の新居紗知さん、学部4年の上田咲季さん

デンシエットとは?

当初参考にしたのは、ペンシルベニア州立大学栄養学教授バーバラ・ローズ氏によって提唱されたダイエット法「ボリュメトリクス(Volumetrics)」。カロリー密度の低い食べ物をお腹いっぱい食べて、空腹感を感じることなく行うダイエットである。だが、米国人向けのメソッドは日本人の食生活には応用しにくい上、その後のPR活動を考えたときに版権などの問題も発生する。そこで、奥村氏が日本人向けにアレンジしたのが「デンシエット(Densiet)」である。密度(density)に注目した食事(diet)を意味する造語だ。

カロリー密度(CD:Calorie Density)は、食品1g当たりのカロリー(kcal/g)で、食品の水分含量と脂質含量に大きく影響を受け、野菜や果物、スープはカロリー密度が低く、バターや洋菓子など脂質の多い食品はカロリー密度が高い。例えば、同じ500kcalなら、ハンバーガーは重量が200gなので、500kcal÷200g=2.5kcal/gとなり高カロリー密度になる。一方、ご飯、魚、野菜、みそ汁中心の日本食は、500kcal÷500g=1.0kcal/gとなり、低カロリー密度となる。

好きなものを好きなだけ食べることは、最も満腹度と満足度が高くなるが、肥満になると健康維持が難しくなる。デンシエットは、満腹度と満足度は高いが、カロリーの少ない食べ方を推奨するもの。例えば、同じエビ料理でも、「エビマヨ」1匹と、大皿に盛られた「エビと野菜の炒め物」で比較すると、厚い衣のフリッターの「エビマヨ」はたった1匹で160kcal・カロリー密度2.36kcal/gとなり、高カロリー密度となる。一方、「エビと野菜の炒め物」は、カロリー密度0.73kcal/gで、低カロリー密度となる**1。細かな数値を気にし過ぎる必要はないが、低カロリー密度の方がボリュームがあり、たくさん食べられる。

エビマヨとエビと野菜の炒め物を見比べてみると一目瞭然
(ED:カロリー密度(Energy Density)はCDと同じ意味)

低カロリー密度は、満腹度や満足度が高い

奥村氏らは、20~60歳までの男女280人に、6種類のカロリー組成の異なる1,680食で、500kcalでも満腹度・満足度の高い食事組成を決める無作為交叉試験を実施。公正さを担保するため、被験者には何の調査か知らせず臨んだ。

用意した昼食は、見た目が同じでもPFCバランス*1と野菜量を変え、エネルギーを427~896kcalの6段階にした試験食。味を大きく変えることなく量や調理法を調整することで、付加価値のある食事提供が可能になる。

一般的に、高カロリーであればあるほど満腹度や満足度も高くなると思われるが、調査で分かったことは、カロリーが多いにもかかわらず野菜が少なく高カロリー密度ならば、満腹度や満足度が低く、逆に野菜が多く低カロリー密度食ならば、満腹度や満足度が高かったという。

多くのダイエット法は、短期的には効果性はあるが、長期的に毎日続けるのは難しい。その点、デンシエットはつらくないため継続しやすいことが期待できる。

普及活動が奏功し出版も

これらの結果を踏まえ、県内の企業やホテル、テレビ、雑誌、講演会、パンフレットなどで県民への普及活動を図ることに。デンシエットはロゴを商標登録し、統一ビジュアルでプロモーションを展開してきた。

徳島大学初の商標登録をしたデンシエットのロゴマーク

研究費から捻出した出版物は版を重ね、低カロリー密度と高カロリー密度の一品料理を分かりやすく写真で比較した「ボリュメトリクス[Volumetrics]低エネルギーでも満腹・満足つらくない食事の選択」と、デンシエットセットメニュー例を示した「デンシエット[Densiet]低エネルギーでも満腹・満足 上手な食事の選択」を発行。料理作りから写真撮影まで、印刷以外の作業のほぼ全てを自前で制作。それぞれのレシピは、料理をしない人でも、写真を見て一目でどのように食事を選択したらよいか分かるようにし、さらに目に留まるようユニークな栄養川柳を考えた。例えば、なすの天ぷらはスポンジのように油を吸うことから、「えっ、7倍? スポンジ吸収 なすすべ無し」という川柳で、焼きなすはしょうが醤油で低カロリーだと説明。このほか肉の赤身を食べて白い脂身部分を控えてほしいという意味で、「赤食べて 白食べないで 赤食べる」、「カルボナーラ 減量中はサヨウナーラ」、「豚バラと マヨでだんだん 段々腹」など、奥村氏の人柄がにじみ出る川柳にほっこりする。欄外には、ページをめくり読み進めていくと人がスリムになっていくパラパラ漫画を採用するなど遊び心も加え、細部まで拘った。食事を楽しく学んでほしいという願いが込められている。

これら2冊がベースとなり、厳選した献立を集約、再構成した「デンシエット ご飯を入れても500kcal カロリー密度[CD]に注目した低カロリー満腹食」を講談社から出版した。

肉はヒレ肉に変え、サラダのドレッシングは油量調整するなど、
食材の量や一部、調理法などを変えて提供した昼食

食材宅配サービス大手と全国展開

デンシエットを取り入れた弁当や惣菜には、県内外の企業も関心を寄せる。地元徳島市の株式会社さわは、夕飯を「コントロール食」として宅配している。南大阪で冠婚葬祭や飲食事業を手掛けるセルビスグループ(株式会社セルビスサービス)は、「デンシエット弁当」を販売、さらに、静岡県静岡市の食材宅配サービス大手・ヨシケイグループのフランチャイザーとヨシケイ開発株式会社は、昨年12月に冷凍弁当「スマイルベジィ」の全国販売を開始。ご飯を含まないので、カロリーは270kcal以下だが、デンシエット基準に沿い作成され満腹感や満足感を得られるよう配慮されており、1食で1日の目標量の約3分の2の野菜が摂取できる。カロリー密度は1.0kcal/g以下にし、ダイエットに関心のある30~50代の女性や、野菜不足の人に人気だという。ワンプレートにおかずが4品の冷凍弁当の宅配サービスを全国展開しており、デンシエット食が全国へ広がりつつある。

デンシエット弁当の組成

右はデンシエットを取り入れた食事 両方とも500kcal
*1:
P=たんぱく質、F=脂質、C=炭水化物がどれくらいの割合を占めるかを示した比率
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参考文献

**1:
奥村仙示.デンシエット ごはんを入れても500kcal カロリー密度[CD]に注目した 低カロリー満腹食.講談社.2016,84p.
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