巻頭言

地域で進んだオープンイノベーションの取り組み

地方独立行政法人京都市産業技術研究所 理事長、公益財団法人京都高度技術研究所 理事長 西本 清一

写真:地方独立行政法人京都市産業技術研究所 理事長、公益財団法人京都高度技術研究所 理事長 西本 清一

2018年1月15日

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「イノベーション」という術語が人口に膾炙(かいしゃ)して久しい。1780年から1920年までの140年間に見られた長い(ほぼ56年)周期で変動する景気の循環ないしは波において、景気の回復要因が新しい科学技術や社会価値の生起発展と同期している事実を発見し、20世紀が産出した社会変化を正しく預言したシュンペーターにとって、資本主義とは何よりも「創造的破壊が放つ不断の強風」であった**1。「歴史家は過去に学んで未来を予測する」という。シュンペーターの慧眼(けいがん)は、経済学を基盤としつつ、歴史学の視点を持ち合わせたところにあった。

わが国では、長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行するための基本計画(科学技術基本計画)が1996年度から5年ごとに策定されている。初めて「イノベーション」に言及されたのは第3期基本計画(2006~2010年度)においてであった。その直近(2004年12月)に米国競争力評議会が「米国を丸ごと変革せよ」をスローガンとするパルミサーノ・レポートを公表し、科学技術イノベーション戦略を掲げたことと無関係ではないだろう。地域科学技術振興とその環境整備に向けた政策は第1期基本計画(1996~2000年度)から打ち出され、第3期に至って「地域イノベーションシステム」構築の必要性が明示された。

現在進行中の第5期基本計画(2016~2020年)には、地方創生に寄与する科学技術イノベーションを推進するために検討すべき課題として、「技術開発力のある地域の中小企業、大学、国立研究開発法人、自治体等が集まり、地域内だけでなく、国内外のリソースも活用したオープンイノベーションを推進する“場”の構築」が指摘されている。この視点を先取りした取り組みが国立研究開発法人のJSTによって展開された。2013年度に始まり今年度末で終了するJST研究成果展開事業「スーパークラスタープログラム」がそれである。これまで地域ごとに取り組まれてきた地域科学技術振興施策の研究成果を生かしつつ、国主導で選択と集中、ベストマッチを図り、次世代パワー半導体(SiCおよびGaN)にフォーカスした国際競争力の高い広域連携スーパークラスターの形成が目的に掲げられた。従来の運営方式とは大きく異なり、明確な運営方針と市場獲得構想に基づいて、JSTも積極的に広域クラスターの運営と調整に当たり、それが奏功して大きな成果に導いた。

スーパークラスタープログラムの取り組みを通じて、オープンイノベーションの“場”が自律的に形成され、地域内の産学連携による「学から産への基礎研究成果の橋渡し」機能が高効率化した。この結果、漸進的改良型のイノベーション(Incremental Innovation)が加速し、次世代パワー半導体は短いサイクルで漸次性能アップした。他方で、技術吸収力の高い域内外の中小企業を巻き込んだ産産学連携の新しい取り組みが効果的に進捗(しんちょく)し、次世代パワー半導体を搭載した多様な製品が相次いで開発された。そのような製品の中には、ベンチャー企業が製作に成功した超小型の粒子加速器も含まれ、シュンペーターの創造的破壊型イノベーション(Radical Innovation)の事例も認められた。

以上のように、今後の産学官連携オープンイノベーションシステムの構築に資する、実りある実践事例をもたらしたJST広域連携スーパークラスタープログラムの運営方式は注目に値する。

参考文献

**1:
Wooldridge, A. Shumpeter Inc. The Economist Megachange : The world in 2050. 2012, p. 193-202.
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