特集新・海洋資源活用術

「ガゴメ昆布」と函館マリンバイオクラスターの取り組み

公益財団法人函館地域産業振興財団 副理事長 兼 北海道立工業技術センター長 三浦 汀介

写真:公益財団法人函館地域産業振興財団 副理事長 兼 北海道立工業技術センター長 三浦 汀介

2016年5月15日

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函館市近海に生息する「ガゴメコンブ」をご存じだろうか。他のコンブと比べ食用に不向きとされていた「ガゴメ」の活用を、海洋・水産の町という地の利を生かし、北海道大学大学院と地域が一丸となって推進してきた。その「函館マリンバイオクラスター」の一連の取り組みは、「枯れない資源の活用」を生み出した。

ガゴメ昆布とは

そもそも、なぜガゴメなのか。それを産学官連携の下で、どのように価値のある製品に育て上げ、地域経済のグッドプラクティス*1として新しいブランド価値を築いてきたのか。その背景にある地域のビジョンと、地域経営の戦略**1について、事業総括という立場から考えていることを述べようと思う。

ガゴメは、学名をKjellmaniella crassifolia Miyabe(コンブ目コンブ科トロロコンブ属)と言い、函館地方では、ガゴメコンブ、ガモメ、ガモなどと呼ばれている(写真1)。

写真1
写真1 ガゴメの群生

北海道では函館市から噴火湾(内浦湾)を経て室蘭市まで分布し、特に函館沿岸(函館、戸井、恵山、椴法華、南茅部)に多く生育する。現在、北海道大学大学院水産科学研究院の研究により、ガゴメのライフサイクルが明らかになり、その結果、養殖も可能となっている。さらに、ライフサイクル操作によって、促成栽培やフコイダンの含有量が多いガゴメ養殖も可能となってきた。

一般に、養殖による高品質のガゴメをバイオファーミング・ガゴメと呼ぶ。このガゴメは大量のフコイダンを含んでいて、よく粘るのが特徴で、味に癖がないので、さまざまな食品へ応用が可能である。また、ガゴメに含まれるフコイダンには免疫力を向上させる機能や、ウイルスを抑制する機能などがあることも分かってきた。

地域の強みである「水産」「海洋」で連携

函館市は、地域の水産・海洋に関する特性・優位性を基盤にして、産学官の連携により研究・技術開発を促進している。そして、その成果を高付加価値の新しい産業に進化させることで地域経済の活性化や雇用の創出を図る目的から、「函館国際水産・海洋都市構想」を地域創生の柱としている。

それとともに、水産・海洋科学分野の国際学術研究拠点としての優位性を有する北海道大学大学院水産科学研究院で、重点化・集中化・大型化したプロジェクトなど、水産・海洋の先端的・独創的研究を展開する目的からマリンサイエンス創成研究棟を、また、地域において産学官の交流促進の目的から函館市産学官交流プラザ(研究棟内に函館市が設置)を設立した。さらに、ソフト面では、水産公共政策に係る寄付講座が開設されたことなども見逃せない。

こうした背景のもとで進められた函館マリンバイオクラスターの形成**2は、地域の将来のあるべき姿をイメージした、海を生産システムとする新しい産業モデル構築である。この函館マリンバイオクラスターの構成で重要な点は、まず、生産すべき資源を見つけて、途切れなく育てていくこと、これは資源を枯れさせない持続的な発展には欠かすことができない。

次に、育てた資源から食品や工業用の素材を作ることで付加価値が生まれ、そのことが、それを利用する新たな産業につながる。こうして生まれた製品に品質の良さや品質の確かさといった信頼性を、あるいは、どんな思いを持って作ったかといったストーリーを消費者に伝える。

さらに、海を生産に利用するためには海そのものを十分に知る必要もある。天気予報の水産業版が実現できれば計画的な生産に道が開ける。一言でいえば、海の資源を育て、そこから素材をつくり、商品力をつけて世界に送り出す、そのために海をしっかりと知る。地域を挙げたこの一連の取り組みが、函館マリンバイオクラスターの形成である(図1)。そして、この中で戦略的な素材として選ばれたのがガゴメである。別の言い方をすれば、「枯れない資源の活用」による産業振興**34の一つのモデルといえる。

図1
図1 四つの研究テーマとそれぞれの相互関係

ホテルメニュー、商談会、ねばねば本舗…

公益財団法人函館地域産業振興財団の事業化支援として厚生労働省の雇用に関係する事業を活用し、専従の販売促進スタッフを配置し、ガゴメ利用を促進した。その活動の一環で、さまざまなガゴメ料理メニューをホテルのシェフの協力を得て開発し、試食会を開くなどして、さらに広く普及を図った。 そうした活動の成果もあってガゴメの利用は広がり、現在では函館地域の一般の飲食店のメニューにも普通に利用されて、既に一つの地域の文化になりつつある。

地域構想を実現するための産学官の具体的な取り組みとして、産業界では、都市エリア販売促進連合から発展したガゴメ連合によるアンテナショップが2009年に開店し、事業成果の商品販売を開始した。これは現在も「ねばねば本舗」として続いている。また、われわれ中核機関でも販売促進のためのさまざまな取り組みを行っており、先ほどの新メニューの開発や各種商談会・展示会への出展のほかに、函館の路面電車でのPRポスターの掲出なども行った。

食品以外にもさまざまな商品が販売されている。ガゴメの粘り成分の持つ保湿性に注目した企業が、2004年に最初の化粧せっけんを発売し、その後も多くの商品が販売されている。

これまでの成果は10年で220億円以上

文部科学省の関連事業では、都市エリア産学官連携促進事業として2003年にスタートし、2009年からは「函館バイオマリンクラスター」と名称を変え、ガゴメを中心に研究から製品開発までを行ってきた。その間、参画企業は119社に膨らみ、開発された製品は200品目以上となった。そのほとんどがガゴメを使った製品で、食品はキャラメル、餅、サプリメントが定番商品になり、美容分野ではせっけんや化粧水がヒットした。それらは加工や輸送、流通など他の産業にも影響を与え、地域経済に大きな効果をもたらした(図2)。

事業の経済効果額を北海道産業連関表から試算すると、売り上げに加えて、生産(漁業)から加工、輸送、流通や、商品の包装、パッケージデザインといった産業も加えて、10年で220億円以上となる。また、当地では飲食店でもガゴメを使った料理を数多く提供しているが、これらは上述の経済効果額には含めていない。もし含めるともっと大きな額になるのは確実であろう。

着実に発展してきたガゴメ関連産業が、持続的な産業として地域に定着していくことが、地域経営を考える上では重要である。函館地域では掲げた地域構想に基づき、実現に必要な取り組みを進めてきた。

ガゴメの場合を例に要点を示すと、まず、枯れることなく利用し続けられる地域固有の資源、そして、それが「第2の太陽」のように地域を照らし続ける資源となること。まさに、ガゴメがそのような資源の一つといえる。また、それを使ってビジネスにつなげる社会実装の段階では、経済産業省や農林水産省などの支援に加えて、われわれのような中核機関を地元企業にうまく活用していただきながら、次の事業化のステージでは金融機関との連携が重要である。

図2
図2 ガゴメクラスターとそれから生まれた製品群

今後の展望

2003年に函館市が水産・海洋都市構想を策定してから既に10年以上が経過しており、わが国を取り巻く状況も大きく変わっている。函館地域においても、マリンバイオクラスター形成としては道半ばといったところであるが、水産・海洋都市構想の一つの指標である函館市国際水産・海洋総合研究センターが供用開始となり、一区切りがついたところである。また今年3月26日には北海道新幹線が函館まで開通し北東北との時間的距離が一気に短縮し、青函トンネルを中心とした新たな経済圏が始まろうとしている。そして製品開発において、ガゴメ以外の製品で期待されているのが、紅藻「ダルス」である。これをうまく利用して「第2のガゴメ」といわれるクラスターに育て上げる計画も始まったところである。

これからの時代は、地域がおのおの工夫して、社会的にも経済的にも自立し、そして地域自らが主体的に地域経営を実践する時代である。つまり、地域は、それぞれ固有の持続可能な地域資源を最大限に活用することで得られる経済的豊かさを基盤に、質の高いライフスタイルを享受することになる。

このようなシナリオの中で、今回紹介した函館マリンバイオクラスターの経済効果額は、前述のように10年間の累積で220億円以上を達成した。事業総括を無事終えて2年がたつが、いま国の進める地域創生において、本事業の成果が、他地域にとってもベンチマークにする価値のある、グッドプラクティスの一つとなったのであれば幸せである。

*1:
大学などが実施する教育改革の取り組みの中から、優れた取り組みを選び、支援し、広く社会に情報提供を行うことで、教育改革に取り組む大学教育改革。「優れた取り組み」を「Good Practice(GP)」という。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/gp/001.htm
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参考文献

**1:
三浦汀介.ゼロエミッションと新しい水産科学.北海道大学出版会,2009,182p.
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**2:
三浦汀介.函館マリンバイオクラスターについて.日本水産学会誌.2012,第78巻第3号,p.527-530.
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**3:
三浦汀介.地域の持続的発展をめざすゼロエミッション型水産業.月刊公明.2012,10月号,p.56-61.
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**4:
三浦汀介.ブルーエコノミーと函館地域振興.ISM.2013,1月号,p.110-14.
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