2001年初頭に発見された超伝導体MgB21)を用いた線材化の研究は、Bi系やY系の酸化物系高温超伝導体と比較して、結晶粒界における弱結合や結晶粒の配向化に留意する必要が少なく、製法が比較的簡単であることから、原料粉末を金属管に詰込んで成形加工する粉末封管(Powder-In-Tube:PIT)法を主流として、世界的に行われている。従来の超伝導材料であるNb系は、臨界温度Tcが低いため(NbTi=9K、Nb3Sn=18K)、冷却に高価な液体ヘリウム(4.2K)を用いなければならないが、MgB2は臨界温度Tc=39Kと高いので、臨界電流特性に優れた線材を開発することによって、冷凍機や液体水素によって容易に達成できる20Kという動作温度で比較的強い磁界(1〜2T)を発生するマグネットや低磁界で大電流を流せる導体が実現可能となる。本課題ではMg、BあるいはMgB2粉末に、超電導工学研究所の研究2)により明らかになった焼結助材として有効なTiを添加し、その原料粉末を金型で固形状に圧粉成形を行い、銅、ステンレス鋼などの金属管に封管した試料をPIT法で線材化を行うと共に、工程途中に中間熱処理工程を設け、塑性加工と熱処理を繰り返し行った。その結果、銅、ステンレス鋼のそれぞれのシースで温度20K、自己磁界で臨界電流密度Jc=124〜212kA/cm2(4.2K、0Tで400kA/cm2)の特性を有するMgB2線材10mを作製した。安定化材として優れているが従来は困難と言われていた銅を用いて高い特性を持つMgB2線材を開発できた。今後、この成果を実用化に結び付けたい。
1) J.Nagamatsu et al.: Nature 410, 63 (2001)
2) Y.Zhao et al.: Appl.Phys.Lett. 79,1155 (2001)
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