セルジュ・アロシュ博士のノーベル物理学賞受賞をお祝いして

 フランス高等師範学校 教授 セルジュ・アロシュ博士がノーベル物理学賞を受賞されることに対して、心からお喜び申し上げます。
 今回のアロシュ博士の受賞は、「量子力学系の測定、制御を実現する画期的な方法の開発」に対し贈られます。量子情報技術と物理学への多大なる貢献に対して贈られたものと思っております。
 アロシュ博士は、1999年1月から2003年2月までJSTが支援する国際共同研究(ICORP)の「量子もつれ」プロジェクトにおいて、共同研究先の代表研究者として、日本側研究者の山本喜久博士(スタンフォード大学 教授)と相補的に研究を実施されました。アロシュ博士のグループは量子力学の基礎問題の物理的理解を、山本博士のグループは量子情報技術を固体物質系で開発して、全シリコン量子コンピュータ基盤技術の開発や、量子暗号伝送実験の成果を収めてきました。
 また引き続き2004年1月から2009年3月まで発展研究SORSTの「光を用いた量子情報システムの研究」(研究代表者 山本 喜久 教授)においても、「原子と光子を用いたエンタングルメントの制御」について共同研究を実施されました。
 アロシュ博士におかれましては、量子もつれプロジェクトと光を用いた量子情報システムの研究プロジェクトに参加してくださったことに対し、心から感謝申し上げます。また、これらのプロジェクトの推進・支援を通して、JSTが日仏両国の協力に対し貢献できたことを誇りに思っております。
 JSTでは、今後も次世代のナノテクノロジー研究の発展を支援してまいります。皆様には、引き続きご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

2012年10月9日
独立行政法人科学技術振興機構 理事長 中村 道治

(補足)

JSTとの関係

ICORP量子もつれプロジェクト

本プロジェクトではフランスとの共同研究により、量子光学、核磁気共鳴など様々な実験手法を用いて量子相関(もつれ)の本質を解明するとともに、量子情報システムの中核技術の確立を目指しました。
微小柱・微小共振器に組込んだ単一量子ドットを光で共鳴励起させることで、効率よく単一光子を発生させる方法を提案し、量子暗号実験を行って長距離でも伝 送速度が落ちないことを確認しました。また、固体結晶中の原子核スピンを量子ドットとする全シリコン量子コンピュータを提案し、量子ビットの初期化、原子 核スピンへの読み書きを考案して実験的に確認しました。さらに量子レジスタ内での情報保持時間の世界最長を達成するなど、今後の量子情報通信への適用が期 待される様々な成果が得られました。

研究代表者

日本:山本 喜久(スタンフォード大学教授・国立情報学研究所教授) フランス:Serge Haroche(ENS物理学科長・教授)

発展研究SORST

研究課題:「光を用いた量子情報システムの研究」
研究概要:ICORP研究で、単一量子ドットを用いた単一光子光源を用いた量子暗号伝送実験に成功するなど、量子相関を持った複数の光子や原子を制御する原理と実験技術の基本研究を行いました。そこで本課題では、既存成果を深化させることにより将来の量子情報技術(量子コンピュータ、量子暗号など)に関する中核技術の確立を目指しました。
その結果、量子コンピュータを実現するための重要な技術である電子スピンの制御、すなわち「スピン状態の初期化(古い情報の消去)」「スピンの回転(新しい情報の書き込み)」「スピン状態の検出(情報の読み出し)」を、光のパルスを用いて従来の1000分の1という短い時間で制御する事に成功するなど、量子コンピュータの実現に近づくいくつもの成果を創出しました。

研究代表者

山本喜久(スタンフォード大学教授・国立情報学研究所教授)

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